第45話 Carrot cake~キャロットケーキ~

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okashi


<Carrot cake キャロットケーキ>

野菜を使ったお菓子の中で一番の人気者、キャロットケーキ。すりおろした人参を驚くほど大量に投入するこのケーキはイギリスではティールームの大定番。ブラウンシュガーやスパイス、ドライフルーツなどが入ることが多いため、見た目は大抵黒っぽく、それほど器量よしではありませんが、一口食べてみるとあら意外。程よく効いたナツメグやミックススパイスの香りに、人参の優しい甘さ、野菜っぽさはひとつもなし。そのしっとりとした食感に、初めて食べる人はみなファンになってしまいます。このしっとりでも重くない食感の秘密はやはり大量の人参とバター代わりに使う植物性オイル(ひまわりや菜種など)。そして、人参のおろし方にもポイントが。「すりおろした人参」と前述しましたが、日本的に大根おろしを想像してはいけません。イギリスでは「すりおろす=grate、いわゆるチーズおろし的な無数の穴の開いたグレイターでおろすことを意味するので、極細かい千切り状態になります。ですから、細い人参の1本1本に水分が保たれたままケーキに焼き込まれ、それがケーキの中で加熱されるうちに放出され生地全体がしっとりするという訳なのです。

これでもかと入れる大量の人参がおいしさの秘密☆

これでもかと入れる大量の人参がおいしさの秘密☆

そしてこのケーキをより魅力的にしているのが美味しさプラス「ヘルシー感」。もともとこの「健康的」と言うキーワードを掲げキャロットケーキを大々的にプロモーションしたのが、何を隠そうイギリス政府。時は食糧難に苦しむ第二次世界大戦下。甘いケーキを作れるほど砂糖は配給されません。そこで注目したのがふんだんにある甘い人参。砂糖代わりに沢山人参を入れてケーキやクリスマスプディングを作りましょうと、人参を使った様々なレシピがイギリス中に配布されることとなります。政府はDr.キャロットなるキャラクターまで作り、レモネードならぬ「キャロレード」(人参とswedeと言うカブの一種を絞って作るジュース)やトフィーアップル(りんご飴)ならぬトフィーキャロット、キャロットマーマレードなどなど、なかなか力の入ったプロモーションぶり。さすがに丸ごと一本棒に刺さったトフィーキャロットはもはや目にすることはありませんが、今でもクリスマスプディングに人参を入れる人は多くいます。

作り手によって味や食感が全然違うので食べ比べも楽しい♪

作り手によって味や食感が全然違うので食べ比べも楽しい♪

でも実は、この人参入りプディングに関して言えば、なにも戦時中に始まったことではなく、イギリスでは昔から作られていたものなのです。考えてみれば砂糖が安価に手に入るようになったのは近代に入ってからのこと。それまで砂糖はある程度生活に余裕のある人が手にすることのできる高級品。一般の人々は人参、パースニップ、ビーツなどの糖分を多く含む野菜を上手に利用してきました。キャロットケーキの前身となる「キャロットプディング」も、中世にはすでに存在していたようです。ただ頻繁に料理本にレシピが登場し始めるのは18、19世紀に入ってから。例えば、すりおろした人参とパン粉、卵やスパイスなどを混ぜ合わせてプディングクロスに包んでボイルしたり、Hannah Glasse (1747年)のようにパフペストリーに入れて焼き上げるキャロットプディング。Mrs. Beeton(1861年) のように一度人参を柔らかく茹でてマッシュしてから、パン粉やスエット、卵などと混ぜて、ボイルあるいはベイクするキャロットプディングまでバリエーションはさまざま。いずれも「キャロットプディング」と言う名で記されていますが、今の世ならきっと、キャロットタルト、キャロットケーキと呼ばれるものたちですね。carrot cake3

ちなみに今のイギリスで見かけるキャロットケーキは大抵クリームチーズのフロスティングでデコレーションされていますが、これはアメリカで1960~1970年代にかけて始まったと言われています。甘いだけでなく、軽い酸味のあるクリームチーズのフロスティングがスパイスの効いたキャロットケーキに実にベストマッチ。どんどんフォークがすすんでしまうので、結局あまりヘルシーじゃないような、、、なんてことにいつもなっています。でもダイエット中でもチョコレートケーキよりは幾分罪悪感を軽減できる気がしますよね。 これからもヘルシー思考の世の女性たちの支持を後ろ盾に人気をキープし続けることでしょう☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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