第124話 Pork pie~ポークパイ~

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okashi

<Pork Pie ポークパイ>

前回に引き続き 「おかし百科じゃないの?」と言われそうなテーマですが、これもまたはずせないイギリス粉ものなのでお許しを。
お肉の詰まったミートパイと言えば、ブリーディーやスコッチパイコーニッシュパスティのように温かいパイを想像しがちですが、「ポークパイ」と呼ばれる豚肉のパイに関しては話しは別。別名「ピクニックパイ」なんて呼ばれることがあるように、ピクニックに持っていったり、前菜のコールドミートのひとつとして、温めず、そのままの状態でいただきます。なにせこのポークパイ、ひと手間かけてあり、お肉が焼き縮んでできるパイとお肉の間の空間にゼラチン入りのストックを流し固めてあるのです。温めたらせっかくのゼリーが溶け出してしまいますから、勿体無いもったいない。小さいものから、切り分けて食べるとっても大きなものまでサイズもいろいろ揃うポークパイ。スーパーのお惣菜コーナーでも買えますが、お肉屋さんはご自慢の手作りポークパイを並べているところも多いので、できればお肉屋さんで買うのがおススメ。切れ端のお肉も上手に使いきれるポークパイはお肉屋さんにとっても助かる存在なのかもしれません。周りのペストリーも、お肉屋さん向け。他のバターを使うペストリーと違い、ポークパイに使用するのは「ホットウォータークラストペストリー」。これはラードと水を煮立てたものを油脂として小麦粉に混ぜ込んで作るもの。あっという間にできて丈夫、かつラードですからお肉屋さんにとっては身近な材料でできるというわけです。

大小さまざまなメルトンモウブレイのポークパイ

大小さまざまなメルトンモウブレイのポークパイ

というわけでイギリス中で気軽に買えるポークパイですが、このポークパイで名を馳せているのがLeicestershireにあるMelton Mowbray。この町がどこにあるかは知らなくとも「メルトンモウブレイポークパイ」を知らないイギリス人はいないくらいに有名なポークパイです。コーニッシュパスティーと同じく、EUによるPGI(Protected geographical indication 地理的表示保護)に指定されているので、決められた地域内で、定めれた製法、材料で作られたものでないと、「メルトンモウブレイポークパイ」とは呼べません。他のポークパイとの違いとしては、生のお肉を使う点。他所のポークパイは一度保存用に塩漬けされたお肉などを使うことが多いため、中身はピンク色。でもメルトンモウブレイのものはグレーがかっています。そしてサイドのペストリーが樽のように外側に膨らんでいる点。これは型を使わずに作る「hand raised」という製法で作るから。瓶などを使って生地を筒状に形作り、その中にお肉を詰めて蓋をして焼くので、焼いている間に側面がまっすぐではなくたわんだ形になるのです。専門店では 木で作ったdolly(ドリー) と呼ばれる専用の型を使いペストリーを形作ります。この専用のドリーを作り出したのが、今もメルトンモウブレイの町で1851年からポークパイを売っているというDickinson & Morris の創業者 John Dickinson氏のおばあちゃん、Mary Dickinson さんという話しも。

有名なDickinson&Morris と右下の写真が 「wooden dolly」 ☆

有名なDickinson&Morris と右下の写真が 「wooden dolly」 ☆

それにしても、この町で主婦が専用の道具を考え出すほどにポークパイ作りが盛んになり、かつ全国にその名をとどろかせるほどに有名になったのはなぜなのでしょう?それにはメルトンモウブレイが位置する場所が大きく関わっています。この周辺で生産されているものに、あの世界3大ブルーチーズのひとつ、スティルトンチーズがあります。このスティルトンチーズ作りで大量にできる副産物、ホエイを養豚に利用していたため、昔から豚の飼育がとても盛んだったということ。それともうひとつ、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、この辺りは狐狩りの猟場として有名で、イギリスでも有数のフォックスハンティングのメッカでした。ここを訪れるハンターたちが地元の人たちが食べるパイを目にし、その丈夫なパイは野山を激しく馬で駆けめぐる際に携帯するお弁当にもぴったりだと、人気を呼んだのです。折りしも猟の季節は秋冬、1年大事に育てた家畜を屠る季節、ポークパイをせっせと作る季節と重なっていたのです。型を使わずに作るメルトンモウブレイのポークパイは焼いた後、普通のパイより余計にペストリーとお肉の間に隙間が出来ます。この間に空気があると、お肉の長期保存には不向き。そこで、肉をとった後の骨を濃く煮出してとったストックを流し込んで冷やし固めることにより空気を押し出し、より長期保存を可能に。このゼリーのおかげで隙間がなくなり、狩りの途中落としてしまってもペストリーが壊れにくいという利点もあったのだとか。美味しい上に、日持ちして持ち運びに最適、しかもここは当時往来も賑やかな街道沿いの町、これはイギリス各地に送られ広まっていったのも当然の話しです。

メルトンモウブレイのティールームのアフタヌーンティーはさすがポークパイ付き!

メルトンモウブレイのティールームのアフタヌーンティーはさすがポークパイ付き!

地の産物と地の利を生かして育まれたメルトンモウブレイのポークパイ、今では彼の地に行かずとも、イギリス中のスーパーでも手に入りますが、思い切って足を伸ばし、本場で美味しいスティルトンチーズとポークパイを試食する旅なんていうのも楽しい思い出が出来そうですね。この町にはパイやチーズのセイボリーものだけではなく、実は有名な甘いものもありますし、、、。

 


 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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