第125話 Melton hunt cake~メルトンハントケーキ~

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okashi


<Melton hunt cake  メルトンハントケーキ>

さて、前回はMelton Mowbray の有名なポークパイのお話しをましたが、その元祖とも言うべき1851年創業のDickinson and Morris のもうひとつの名物が「Melton hunt cake (メルトンハントケーキ)」。お店に入ると、ポークパイやソーセージ、その他美味しそうなパイが並ぶショーケースとは別に、チャツネやピクルス類などと共にそのケーキが売られています。いかにもどっしりとした典型的なイギリスのフルーツケーキの顔をしたそのケーキ。表面にはアーモンドと真っ赤なドレンチェリーが飾られています。その知名度はポークパイやスティルトンチーズには遠く及びませんが、それでもメルトンモウブレイの町のお土産品としてはそれらに続く存在。歴史もポークパイに負けず劣らず長く、1854年から代わらぬレシピで作られています。

アーモンドとチェリーののったどっしりフルーツケーキ(Dickinson & Morris のHPより)

アーモンドとチェリーののったどっしりフルーツケーキ(Dickinson & Morris のHPより)

このケーキを作り始めたのがやはり、このDickinson and Morris の創業者 John Dickinson 氏。その名の示すとおり、当時はこの周辺で非常に盛んだったフォックスハンティングのために作られたケーキでした。でも、ハンティングの携帯食として便利だったポークパイは分かりますがこのケーキはいつ食べたのでしょう?ポークパイの後のデザート?それとも狩りの後のお茶の時?いえいえ、実はハンティングが始まる前。狩りのスタートを待つ騎乗した参加者たちに、グラスあるいは「stirrup cup」に注がれたシェリー酒やパンチなどのお酒と共に一切れのケーキが振舞われる習慣があったのです。
Stirrup cupとは底の部分が狐や鹿、猟犬などの形をした不思議な形のカップ。ダウントンアビーをご覧になられた方ならもしかして憶えているかも?メアリーとトルコの外交官パムークが出会う、あの狩りのシーン。馬に乗った紳士淑女の間をトーマスがケーキを、ウイリアムがサーブしてまわっていたお盆の上にはお酒の注がれたそのカップが。あの時のカップはお盆に立つような形のカップでしたが、底部分が動物の頭の形をしているので、下に置くことが出来ない形状のものも多く存在します。もちろん馬の上で受け取るものなので、飲みかけでテーブルに置くことなどは想定しなくてよいのでしょうが、いずれ多くの従者がいることが前提の形です。それにしてもさすが貴族や富裕層のためのスポーツであり、娯楽であったフォックスハンティング、馬の上でまでそんな特別なカップとケーキの時間があるなんて、なんともはや優雅としか言いようがありません~と、話しがカップの方に移ってしまいました、閑話休題。メインはそのケーキのほうでした。その狩りにでる前にサーブされるケーキとしてJohn Dickinson氏が作り出したのが、件のメルトンハントケーキだった、と言う訳です。その後、フォックスハンティング自体は動物愛護の観点から、向かい風が強くなり、法律で禁じられるまでになりますが、メルトンハントケーキはアフタヌーンティーやディナーのあとのデザートとして、一般層にと人気が広まっていったようです。

お土産用のきれいな箱入りの他、食べやすく四角にカットしたものなどがお店には並んでいます☆

お土産用のきれいな箱入りの他、食べやすく四角にカットしたものなどがお店には並んでいます☆

このメルトンハントケーキのようにサルタナやカランツがこれでもかと入り、焼成後、ブランデーやラムなどのお酒を塗りつつ熟成させるようなケーキをイギリスでは「フルーツケーキ」といいます。普段のお茶の時にも食べますが、クリスマスやウエディング、お誕生日など、特別な時にはマジパンとシュガーペーストで美しいデコレーションを施して必ず登場する大切なケーキ。日持ちがすることでも知られていますが、なんと先日、齢106歳のフルーツケーキが発見されたと言うのです。しかもその場所は南極。かの有名なスコット探検隊が持ち込んだと思われるそのフルーツケーキは紙で包まれ、缶に入っていました。缶は大分傷んでいたようですが、驚いたことに中のフルーツケーキは、軽く油(バター)の酸化したような臭いがする以外はまったくの無傷。食べられる状態にあったとのこと。確かに写真だけ見ると、とても作られてから106年も経っているようには見えません。もちろん南極ですから、ずっと冷凍状態にあったわけですが、それにしてもさすがイギリスのフルーツケーキ。日本の軟弱なショートケーキではこうはいかないでしょう(笑)。ちなみにこのフルーツケーキのメーカーは1822年創業のビスケットメーカーHuntley &Palmers社のもの。栄養たっぷりで日持ちもし、丈夫なフルーツケーキはハンティングだけでなく、南極探検にも最適だったようです。

イギリスにはとにかく欠かせないフルーツケーキ☆このどっしり感がたまりません

イギリスにはとにかく欠かせないフルーツケーキ☆このどっしり感がたまりません

さて今日はいろいろ脱線したような気もしますが、地方のフルーツケーキとしてはダンディーケーキと共に名の通ったメルトンハントケーキのご紹介でした。そうそう、肝心のメルトンハントケーキのお味のほうは、ラム酒の効いたどっしり安定の美味しさのフルーツケーキです。

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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