010 | 森林浴のすすめ

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現代人のライフスタイルは、社会の近代化とともに、自然からどんどん離れたものになっています。特に都会に住んでいる人たちに欠けているのは、自然とつながること。ということで、今回は「森林浴」を中心にしたお話です。

日本の研究チームによる最初の第一歩

わたしたち日本人には馴染みのある「森林浴」。そのことばを思い浮かべただけでも、清々しい針葉樹の香りと深い緑がイメージされ、何だか癒されるような気がします。林野庁が1982年に「森林浴」ということばと、健康的なライフスタイルの一部としてそのコンセプトを紹介(1)。25年前に日本の研究チームが、森林浴に関する研究の第一歩を踏み、屋久島で環境とストレスに関する調査を行いました。1998年には「Shinrin-yoku」ということばが初めてパブメド(PubMed = アメリカ国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学分野の学術文献検索サービス)にアップロードされ (2)、その後の研究内容は、世界の各分野で注目を集めているようです。

森林浴は、英語でもそのまま「Shinrin-yoku」か「Forest Bathing(フォレスト・ベイジング)」と表記され、最近では日本のみならず、いろんな国のリサーチャーたちが研究に取り組んでいます。その内容は、精神面で受ける影響、血圧、IL-6(炎症マーカー)、コーチソル(副腎から分泌されるストレス・ホルモン)、血糖値、NK(ナチュラル・キラー)細胞との関係など。また、森林を構成する檜や杉のエッセンシャル・オイルの成分分析やその効能に関する調査もあれば、近年注目の高まっているマイクロバイオーム(細菌)に関するものまで、その研究や効果の方向性は多岐に渡っています。

アーバン vs フォレスト

2004年より森林浴の研究を続けている日本のリサーチャーたちが、2007年に発表したレポートでは、12人の健康な男子学生を都会のアーバン・ウォーク組と、森林を歩くフォレスト・ウォーク組の2つに分けて、一定の時間両スポットで過ごしてもらった後に、アンケート形式で心理的な効果などを調査。森林組では「心地よい/穏やか」度がかなりアップ。逆に都会組では「変化なし〜やや不快」と「変化なし〜やや落ち着かない感じ」という結果が出ました。また、コーチソルの唾液サンプルによる分析では、森林浴によるコーチソル値の大幅な低下がみられ、健康に有効とのこと(3)。同チームが2014年に発表したレポートでも、テストグループを同じく都会組と森林組の2つに分けて、心理的な効果などを調査。ご想像どおり、森林組はリラックス度が高く、ストレス度が下がって、その後の集中力などもアップ(4)。

また別のプロジェクトでは、中年層の高血圧と森林浴の関係を調査。副交感神経を促す、心拍を落とすなどの効果とともに「心地よい/リラックスしている」などの精神的効果もみられ、心身ともに、リラクゼーション効果が得られるとレポートしています(5)。

生命力と癒しのエネルギーに満ちた木

生命力と癒しのエネルギーに満ちた大きな木

特に興味深いと思ったのは、森林浴と免疫システムの関係を研究したもの。レポートの冒頭では、森林浴自体が自然のアロマセラピーみたいなものと紹介。リサーチの内容は、男女両方の参加者に、2泊3日で森林浴を体験してもらったもの(もう一つのグループは都会組)。森林浴により、免疫に関係のある、NK(ナチュラル・キラー)細胞が増え活発な状態に。森林浴の旅のあとも、30日以上活発な状態が記録されたため、リサーチャーが「月に一度森林浴の旅に出れば、NK細胞の活動状態を高いレベルで維持できる、ということかもしれない」とコメント。都会組のNK細胞には、変化がみられなかったようです(6)。免疫力を高めるもとになるのは、森林の空気中に含まれる、樹木のエッセンシャル・オイルでファイトンサイド(Phytoncides = 植物の抗菌剤)と呼ばれるもの。アロマセラピーに通じている人たちには馴染みのある、α-パイニンやリモニンなどがその一部。免疫力を高めることは、健康の基礎ともいえるので、大いに有効な情報です。

檜パワー

森林浴とは直接関係ありませんが、今年に発表された韓国人リサーチャーたちによる、檜オイルと虫歯菌の研究レポートに、檜の説明が少々ありました。それによると、檜のエッセンシャル・オイルは自然の抗生物質みたいなもので(上記のファイトンサイドのこと)、檜林での森林浴は、空気中に檜のエッセンシャル・オイル(においの成分)が漂っているため、抗菌作用もあるとのこと(7)。なので、オイル・バーナー(なければお湯を入れたコップ)で檜など樹木のエッセンシャル・オイルの香りを漂わせ、自宅で香りの森林浴疑似体験を楽しんでも、健康促進になりそう。ちなみにこの研究結果では、檜オイルは虫歯菌にも有効とか。

都会の生活と健康

社会の近代化によって、情緒不安定、鬱、不安症などの症状を訴える人の数は増える一方。現代人のメンタル・ヘルスが懸念される中、現在発展中の国々で都会化が進み、2050年までには総人口の69%が都会暮らしになると推測されています(8)。ますます、不安症や鬱の人口が増えるということでしょうか…。先が思いやられますが、昔にはなかった現象。定期的に自然とつながる時間を作れば、それが心身ともに癒す有効な健康法になるのは間違いなさそうです。

ビデオで森林浴?

実際の森林浴とは異なるものの、ビデオで森林の映像を見るという研究では、参加者の好みで、海の映像組と森林の映像組に分けて調査。どちらも90分のビデオ上映中に、心拍が下がると同時に周波数が高くなり、リラクゼーション効果があったとしています(9)。なかなか自然にふれることができないという人たちは、海か森林の環境ビデオで、自宅リラクゼーション・セラピーを楽しむのもよさそう。

森はないけど、近所には小さな林とミニ牧場がある

わたしの通勤途中には、ハガーストン・パーク(Haggerston Park)という小さめの公園があります。その脇に小さな林とシティ牧場があるので、週に3〜4回、少し遠回りして公園内を通ります。もう何年も続けていますが、数年前に林の中を歩けるようにした林道部分ができました。歩く部分はほんの1〜2分程度の長さですが、地面がふかふかしていて、いい感じ。敷地内のベンチに数分座って、小鳥の鳴く声や、木の葉の音を楽しめば、癒し効果はさらにアップ。林を通り抜けたあと、隣の牧場の脇を歩いてハックニー・ロードへ。楽しみなのは、毎年春にお目見えする子羊たち。今年は、同僚たちを誘って久しぶりに牧場敷地内を訪問。子豚もたくさんいました。自宅から歩いて約10分。小さくても、近所に自然や動物の癒しパワーを求められる場所があるのは、素晴らしいことです。

ロンドンは都会でありながら、自然と触れることのできる場所がたくさんあります。わたしが好きなのは、ハムステッド・ヒース(Hampstead Heath)。普段の行動圏から外れるため、年に1〜2回しか行きせんが、ハガーストン・パークとは比べものにならない大きさ。丘になっているため、高いところからの見晴らしも絶好です。もちろん森の部分もあるので、森林浴するなら、背の高いブナの木が多いスポットあたりがお勧めです。また、春から夏にかけて、バッチ・フラワー・レメディに使用されている植物(主だっては木)の花が多く見られます。ご興味のある方は、ぜひ散策を。

 

参照:

  1. Tsunetsugu Y, Park BJ, Miyazaki Y. (2010). Trends in research related to ‘‘Shinrin-yoku’’ (taking in the forest atmosphere or forest bathing) in Japan. Environ Health Prev Med. 15:27–37 doi: 10.1007/s12199-009-0091-z
  2. Craig JM, Logan AC, and Prescott SL. (2016). Natural environments, nature relatedness and the ecological theater: connecting satellites and sequencing to shinrin-yoku. Review. Journal of Physiological Anthropology. 35:1 doi: 10.1186/s40101-016-0083-9
  3. Park BJ, et al. (2007). Physiological Effects of Shinrin-yoku (Taking in the Atmosphere of the Forest)—Using Salivary Cortisol and Cerebral Activity as Indicators— Journal of Physiological Anthropology. 26(2): 123–128. doi: 10.2114/jpa2.26.123
  4. Takayama N, et al. (2014). ‘Emotional, Restorative and Vitalizing Effects of Forest and Urban Environments at Four Sites in Japan’. Int. J. Environ. Res. Public Health. 11, 7207-7230. doi:10.3390/ijerph110707207
  5. Chorong Song C. (2015). Effect of Forest Walking on Autonomic Nervous System Activity in Middle-Aged Hypertensive Individuals: A Pilot Study. International Journal of Environmental Research and Public Health. 12. 2687-2699. doi: 10.3390/ijerph120302687
  6.  Li Q. (2010). Effect of forest bathing trips on human immune function. Environ Health Prev Med. 15:9–17. doi: 10.1007/s12199-008-0068-3
  7.  Kim EH, at al. (2016). Chamaecyparis obtusa Suppresses Virulence Genes in Streptococcus mutans. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. Vol. 2016, Article ID 2396404, 8 pages. Hindawi Publishing Corporation. http://dx.doi.org/10.1155/2016/2396404
  8. Lederbogen F, et al, (2011). City living and urban upbringing affect neural social stress processing in humans. NATURE. Vol. 474. 23 JUNE 2011. 498-501. doi:10.1038/nature10190
  9.  Tsutsumi M. (2016). Individual reactions to viewing preferred video representations of the natural environment: A comparison of mental and physical reactions. Jpn J Nurs Sci. May 10. doi: 10.1111/jjns.12131.
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About Author

徳永 ゆり子

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。京都で8年、ロンドンで7年間グラフィック・デザイナーとして働いたのち、2004年に補完・代替療法の世界に入る。CAM(コンプリメンタリー/オルタナティブ・メディスン)プラクティショナー。CThA、BANT正規会員。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックを拠点に、ロンドン内で活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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