019 | 雑食 vs 菜食

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おしゃれにプロデュースされたデリシャスリー・エラのブレイクもあって、このところ市場はビーガン・ブームに乗っています。その一方で、抗炎症ダイエットの代表、パレオ(いわゆるケーブマン・ダイエット=狩猟民族的な食事)が流行り、ケトジェニック・ダイエットがその後を追っています。仕事でよくわたし個人の見解を尋ねられるので、ファクトの部分を含めてレポートします。ご参考までに。

 環境を考えるなら…

まず、みなさんに考えていただきたいのは、何を食べるかということはもとより、自分たちの食べるものが一体どこでどう生産され、どういうルートでやってくるのかということ。食品の安全性については7〜9号で紹介しましたが、今回はそこからさらに枝分かれする環境問題的な部分も見てみましょう。

現在のオゾン層破壊は車両による排気ガスはもちろん、牛など家畜動物のおなら(メタン・ガス)も大きな問題(詳しくは、こちらで)。また、イギリスでは過去数年乳牛の数が減っているにも関わらず、ミルク生産量は増え、乳牛たちは不自然なミルク生産を強いられているのが現状です(1)。牛乳はそもそも、牛の赤ちゃんの成長に必要なもの。母乳を必要としなくなった人間が、いつまでもあたり前のように毎日(主には)牛のミルクをいただくというのは、考えもののような気がします。最近では、代用品となるヤギ乳を通り越して、ラクトース(乳糖)不耐性に対応すべく、ラクダのミルクなども流行り始めているとか…。仕事で、乳製品抜きのダイエットを提案することがしばしばあります。時折「乳製品を止めたらカルシウムが摂れない」と苦情を訴える(!?)クライアントに遭遇しますが、もちろん卵・魚や植物性の食品からもカルシウムは摂取できます。個人的に、動物性食品の摂取には反対しません。でも、もし動物性の食品を毎食摂取している人がいれば、地球自体の健康を考えて、可能な限り減らしてみてはいかがでしょうか(成長中の子どもは除く)。ちなみに動物性食品は、基本的にオーガニックを選ぶのが安全です。以前にも触れたとおり、イギリスではオーガニックでない限り、家畜(養殖の魚も同様)には遺伝子組み換えの餌が与えられています。また、抗生物質投与も問題になっています(2)。

野菜や果物も毒性の高い農薬の各種が使われているため、こちらも注意が必要です。先日久しぶりに、とあるWaitrose(わたし的に得点の高いスーパーですが、近所にはない)に行きました。野菜セクションで買い物の際、商品棚に「野菜は洗ってから食べるように」と記されたラベルがあるのに気付きました。ゴミや汚れ取りというよりかは農薬のこと?と思ったのは、わたしだけでしょうか。ちなみに今年のEWGによる、野菜・果物の農薬汚染度ランキングは、こちらです。

今のところ、動物性も植物性も、薬品の摂取をできる限り低くしようと思えば、オーガニックという図式になります。幸いに、イギリス(またヨーロッパ全体)のオーガニック産業は成長の傾向にあるので、少しずつ商品が増えて、さらに手に入りやすい価格設定になることが見込めそうです。

 動物性食品の利点と問題点

各種のリサーチで、肉食は高コレステロールをはじめ、循環器系疾患のリスクを高くすることがわかっています。これは、肉食というよりかは、血をさらさらにする野菜不足に起因しているのかもしれません。また、野菜を十分に摂取しないと、繊維不足で大腸ガンなどもリスクも高くなります。タンパク質は、生命維持のため体内で常に促されている代謝に欠かせない酵素の原材料。からだ自体も主にはタンパク質で構成されているので、足りないと問題です。動物性のタンパク質は必須アミノ酸が揃った状態なのが利点。また、菜食では摂取困難な必須栄養素も動物性食品から摂取できますが、健康の要、腸内菌の食べ物となる繊維が含まれません。環境面では、前述のとおり、大量生産型の家畜が多すぎることも懸念されます。

積極的に摂取したい野菜。

虹色を食べよう。


菜食の利点と問題点

菜食中心の食事は、健康維持に必要とされる重要な栄養素のいくつかが欠乏気味になるものの、肥満や糖尿病、また高血圧や高コレステロール、心臓病などの予防/改善に有効としています(3)。でも、理想的な健康状態を維持するのは大変。特に、子どもをつくろうとしているカップルにはお勧めしません。健康な胎児の成長には適さないからです。同様に、出産後のお母さんたちには、授乳を終了するまでは子どもの健康に必要なものを与える目的で、動物性食品の摂取をお勧めします。リサーチによると、ビタミンB12、ビタミンD、DHAが欠乏し、フェリティンのレベルが低く貧血気味。利点は、抗酸化物質の摂取が高く、飽和脂肪酸のバランスが取れていて健康的なコレステロール値、というデータが出ています(4)。菜食は、気をつけないとパンやパスタ、米また芋などを主にした食事に偏りやすいため、炭水化物中心のビーガンやベジタリアンは皮肉で「カーボタリアン(炭水化物食主義者)」とも呼ばれています。

定期購読している雑誌の先月号に、ギャプス・ダイエット(GAPS Diet =Gut and Psychology Syndrome Diet)で世界的に知られる、Dr.ナターシャ・キャンプベル-マックブライドの新著に連動した記事がありました。内容は、全面的に反ビーガンを主張し「野菜はからだを清浄化するもので、動物性食品はからだをつくるものだから、野菜だけで健康は維持できない」と指摘(5)。同意できない部分があるものの、冒頭に紹介されている患者のストーリーには深く共感を覚えました。というのも、その患者像が、このところ職場のクリニックに立て続けにやってくる、クライアントたちとぴったりオーバーラップしていたからです。特に20〜30代の女性たちが、動物愛護(と稀に環境保護)に加え、おしゃれ感覚な「ヘルシー・ダイエット」の目的でビーガンになり、健康のバランスを崩して相談にやってくるというパターンが続いています。症状は消化/吸収の問題やホルモンの崩れから、ニキビ・生理不順・情緒不安定というのが大多数。食事の内容は、やはり炭水化物が多めで、腸内内壁を痛めがちな小麦を中心とするグルテン含有食品や豆などの高レクチン食品が多いのも難。もちろん、どうやってでもビーガンを貫きたいクライアントには、希望に合うプランを出しますが、なかなか難しいものです。

わたしの見解

個人的には、菜食中心の食事を全面的にサポートする体制でいます。でも、前述の問題など諸々の理由から、通常は100%ビーガンではなく、適度に動物性の食品を加え「各種野菜を無制限に摂取」を勧めています。人によっては、ビタミンB12(ビーガンでは摂取困難)が必要とされるメチオニン・サイクルが、遺伝子的に弱い人もいます。この場合、ホモシスティンという物質がたくさんできすぎて代謝されず、循環器系疾患のリスクを高めます。特にビーガンでこの遺伝子に問題のある人は、栄養素の不足と重なると、肉食の人より心臓発作を起こす可能性が高くなるかもしれません。葉酸サイクルに関する遺伝子のエキスパート、Dr.ベン・リンチが、とあるインタビューで、日本の医師団体に招かれてレクチャーをした際の話をしていました。出席者のうちの一人がビーガンレストランを経営する女性の美容整形医で、遺伝子の状態とビーガンであることが重なって、ちょっと前に心臓発作を起こしていたとのこと。彼女のメディカル・レポートを見たところ、二回目はすぐだろうという数値だったそう。「ヘルシー・ダイエット」と思われがちなビーガン食にも、それなりに難点があります。でも、もちろん、世の中にはビーガンで何十年も健康に暮らしている人たちもいます(今ぱっと頭に浮かぶのは全員男性ですが…)。

結論的には、雑食か菜食かということよりも、環境に優しく、栄養のバランスが取れていて、自分の体質に合う食事であることが大切だと思いますが、いかがでしょうか?

追伸:
世の中には、万人に共通する「ベストの食事法」は存在しません。掘り下げれば、遺伝子の状態や血液型などをもとに、個人に合う食事法をある程度割り出すことができます。家族や自分の遺伝子を調べたい人は、自力で23andme.comでテストし、StrateGeneGenetic Genieなどのデータ・プラグイン・サービスを使えば情報入手は可能ですが、基礎知識がないと全体を見通して理解することは困難。DNAアナリシスのサービスを提供している、プラクティショナーをとおしてチェックするのがお勧めです。ちなみにわたしも取り扱っている分野なので、健康に関する遺伝子のテストにご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

 

参照:

  1. Butler, J. (2014). White Lies – A Viva!Health Report. Bristol:Viva!. pp.11
  2. Wasley A, Parsons V, Davis N. (2016). ‘Investors urge fast food and pub chains to act to reduce farm antibiotics’, The Guardian. [Online]. Available at: https://www.theguardian.com/society/2016/apr/10/investors-fast-food-p. (Accessed: 16 May 2016)
  3. Tuso P, Ismail M, Ha B, Bartlotto C. (2013). Nutritional Update for Physicians: Plant-Based Diets. The Permanente Journal. vol.17, no.2. pp.61-66.
  4. Elorinne AL, et al. (2016). Food and Nutrient Intake and Nutritional Status of Finnish Vegans and Non-Vegetarians. PLOS ONE. vol.11, no.2. doi: 10.1371/journal.pone.0148235.
  5. Campbell-McBride N. (2017). Meat or plants? When to choose foods that build and food that cleanse. IHCAN, May 2017. pp.22-24.
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About Author

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。ナチュロパス、ファンクショナル・メディスン・プラクティショナー、ニュートリショナル・セラピスト(mCMA, mBANT, CNHCreg, CFMP)。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックと並行して、オンライン・クリニックでも活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

2件のコメント

  1. 徳永 ゆり子 on

    レスが遅くなりすみません!!チーズはやめられないという人が圧倒的に多いのだけど、究極はビーガン・チーズという手もあります。かつてはダメダメだったのだけど、このところかなり改善されてきています。残念ながら、栄養価は動物性のものに比べるとダメですね。。。

  2. アバター画像

    さすが! とても勉強になりました ^^ やっぱりバランス、そして環境への配慮。しかし自分の好みはやめられないよね。私は肉も牛乳もなくても生きていけるけど、チーズはやめられないかな〜w いつも貴重な情報をありがとう!

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