037 | ミー・タイムを作ろう

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時折、英人の友人が口にする「ミー・タイム(me time)」。特に、仕事と家族の世話の両方に追われている女性に、欠乏気味の時間なのでは。贅沢なことと思われがちですが、元気の充電タイムとしても機能し、心身ともの健康には欠かせない要素です。ということで、今号のテーマは、自分と健康のプライオリティについて。

ミー・タイムとは

直訳すると「わたし時間」。すなわち、自分を優先して労わる時間のことで「セルフケア」の必須項目の一つといえます。家族や仕事など、自分以外に存在する「コミットメントの接続スイッチを切る時間」と考えてもいいでしょう。基本的には、自分を労わることなら何でもよく、特に健康的とされるアクティビティに限定する必要はないと思います。ある時には、家で好きなことだけする時間を設け、別の日には、緑の広がる美しい公園のベンチで景色を楽しむのも有効(1)。時間が許すなら、景色を満喫した後に人生を豊かにするような本を広げてもよし。フェイシャルやネイル・トリートメントで外観のメンテナンスに磨きをかけて、気分を持ち上げるのもいいでしょう。機会を作り、友だちを誘って素敵なカフェでお茶を楽しむのも、立派なミー・タイム。大きめの規模では、スパで過ごす一日や、小旅行などもいいでしょう。また、10分間程度のメディテーションや、お気に入りのお茶で5分間マインドフルネス・ティー・ブレイクなど、毎日でも簡単にできるようなことをいくつか加えれば、時間がない時に役立つはず。これらのアクティビティは、からだの機能を操作する神経やホルモンのバランスを整えるのに有効です。普段より忙しい時期など、交感神経のスイッチが入ったままになりがちな時には、小さめのミー・タイムをこまめに取り入れるようにしましょう。

難しい時こそ、実践が必要

意外なところで、ミー・タイムの大切さに遭遇したことがあります。それは、数年前に聞いたアメリカで人気のJJというセレブリティ・ニュートリショニストのインタビュー。JJは、アメリカのニュートリション業界では名の知れた人で、自信に満ちて華やかな女性いう印象がありました。全てがパーフェクトに見えた彼女でしたが、このインタビューは、ニュートリションやフィットネスの話ではなく、彼女の息子に思いもよらぬ不運が襲いかかった時の体験談でした。事故に巻き込まれ生死をさまよう状態となった息子に付き添い、可能な限りを病院で過ごす時期があったようです。途中、友人からマッサージのギフト・バウチャーを渡されて「息子が生命の危機に瀕しているというのに、マッサージに行っている場合ではない」と思ったそう。抵抗を感じながらも、その友人に説得されてマッサージに行き、セルフケアの大切さが身にしみて「救われた」とコメントしていました。精神的に困難な状況下で、彼女は新書籍出版記念イベントを予定通りに遂行し、最終的には息子が奇跡的に命をとりとめて、このストーリーに終止符を打ちます。余談となりますが、以来、JJはこの出来事から学んだことを活かして、新しい領域での活動にも励んでいるようです。

ちなみに、マッサージは自律神経に働きかけ、心拍・血圧の安定、また呼吸値を整えるのに有効とされています(2) 。緊張した筋肉をほぐして血行を促進し、神経のスイッチを調整して、全体のバランスを整えるいい機会になるはず。また、セラピストから「ケアを受ける時間」ともなるため、両者による相乗効果が期待できそうです。その効果がわかっていても、JJのような状況では、自分から率先してセルフケアを予定し実行することはまずないと思います。彼女にマッサージのギフトを贈った人のアイデア(ギフトにすれば、ミー・タイムが実践しやすくなるという取り計らい)は、素晴らしいと思いました。マッサージを含め、どのコンプリメンタリー/ホリスティック・セラピーも、専門の領域内で各個人に合わせたサポートの提供を目的としているため(3)、JJの「救われた」気持ちには納得。特に、普段ケアする側にいる人は、お気に入りのセラピーやセラピストを見つけて、定期的に「受ける側」になることもお忘れなく。また、難しい状況にいる家族や友人が周りにいるなら、その人をサポートする際の参考にしてはいかがでしょう。

酸素マスクは誰から?

飛行機で旅をすると、必ず緊急時に備えて、酸素マスクやライフ・ジャケットの説明があります。おなじみの光景だと思いますが、酸素マスクの手順を思い出してみましょう。まずは自分、そのあとで子ども(もしくは周りの人)。これを実生活にも活用すべきという話を聞いて、なるほどと思ったことがあります。自分が機能しない状態では、家族や周りの人のサポートはできないということです。例えば、前述のJJと似たような状況で「家族の具合が悪く、それに伴うストレスから不眠が続き、このところ疲労気味…」といった場合。体調を崩してしまうようではどうにもなりません。そんな時こそ、家族のためにミー・タイムを取り入れて健康管理を強化し、万全のサポート体制を維持することが大切なのでは?

日々の小さなストレスも、積もれば山となる

基本的に、普段のストレスで死に至ることはありませんが、病気と診断される症状の80%以上(もしくは、ほとんど?)が心的ストレスに起因していると聞いています。対処しないでいると、からだがストレスを背負ったままの状態が続くと考えてください。その間、これといった症状はないかもしれませんが、負担が積もって個人の上限を超えた場合には、症状を伴う病気となって表面化します。細胞レベルでは、継続的な心的ストレスは、細胞内のミトコンドリアによるエネルギーの増産を必要とし、必然的にエネルギー生産に必要な栄養素の需要が高くなります。需要と供給のバランスが崩れると、病気のプロセスへと移行すると考えてもいいでしょう(4)。家族や友人の緊急時には、緊急サポート体制に入るかもしれません。その際には、自分に必要な健康管理の時間を設けることに対する罪悪感や、無理の連続は禁物です。多少なりとも疲労感が慢性化していれば、健康の黄色信号と受け止めて、まずは自分の疲労回復を優先しましょう。理由は、もうおわかりですよね。

こまめにミー・タイムを作り、可能な限り良好な状態で日々のコミットメントと向き合うのが理想的だと思います。自分の健康やメンテナンスを、酸素マスクの話に置き換えてみることもお忘れなく。

参照:

  1. Song C, Ikei H, Miyazaki Y. (2016). ‘Physiological Effects of Nature Therapy: A Review of the Research in Japan’, Int. J. Environ. Res. Public Health, 13, 781. doi:10.3390/ijerph13080781
  2. Lee YH, Park BNR, Kim SH. (2011). ‘The Effects of Heat and Massage Application on Autonomic Nervous System’, Yonsei Med J, vol.52, no.6, pp.983. http://dx.doi.org/10.3349/ymj.2011.52.6.982
  3. West, H. (2017). ‘Complementary and Alternative Medicine in Cancer Care’, JAMA Oncology, vol.4, no.1, pp.139. doi: 10.1001/jamaoncol.2017.3120
  4. Picard M, McEwen B, Epel ES, Sandi C. (2018). ‘An energetic view of stress: Focus on mitochondria’, Frontiers in Neuroendocrinology, 49 (2018), pp.73. https://doi.org/10.1016/jfrne.2018.01.001
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About Author

徳永 ゆり子

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。京都で8年、ロンドンで7年間グラフィック・デザイナーとして働いたのち、2004年に転職。ナチュロパス、ニュートリショナル・セラピスト、ホリスティック・プラクティショナー。CThA、BANT正規会員。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックを拠点に、ロンドン内で活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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