第11話 タイラーは過激なミニマリスト

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minimalist


Chapter 2.1
タイラーは過激なミニマリスト!

『ファイト・クラブ』(1999)という映画をご存知ですか?
チャック・パラニュークの同名小説が原作、ブラッド・ピットとエドワード・ノートンという2大スターの競演ということで当時かなりヒットした映画です。監督は『セブン』や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のデヴィッド・フィンチャー。

スタイリッシュな作風ながらも、派手な殴り合いのシーンや過激な表現が多く登場するので当時は「ブラピの出ている単なる暴力映画」「暴力を美化した映画」という捉え方をされたり、 その先入観だけで観る前から敬遠する人も多くいるそうなのですが、実はこの映画、かなり深い。

イラスト Ayako Nemoto

イラスト Ayako Nemoto

謎の男タイラーが、 カタログを見ながら自分のマンションをちまちまとオシャレ家具で埋める主人公にこう言い放ちます。

「お前が手に入れたものが、お前を支配するようになるのさ」

極端な話に思えるかもしれません。
でもドライな目で捉えれば、消費者の人生とは「人並みの生活を送るために人並みのモノをそろえ、その代金を払うために働き、手に入れたモノを管理し、掃除し、移動し、保険をかけ、新しいものに買い替えるために生涯を費やすこと」といえなくもない。

まだ大げさに聞こえる? じゃあ、ここで1つ例を挙げてみましょう。
あなたが何か新しいものを買うことになったとします。カタログを取り寄せたりオンラインで商品の比較検討をし、レビューを熟読したのちオーダーしたり店に出かけていって商品を買い求めます。
そして代金を払います。
その場で代金を支払うのであればあなたはその分の時間(その代金を手に入れるための労働=人生の時間!)を費やしたことになるし、ローンやクレジットカードで支払いをするのであれば、未来のあなたの時間を捧げることになります。

いよいよ商品が手に入りました。今度は持って帰ってきて梱包などを解いたりタグを切ったりして使い始めます。ここらへんが一番嬉しい瞬間ですね。
そして今度は掃除や洗濯をし、メンテ&修理をし、時には保険をかけます。引っ越し先に業者を頼んで運んでもらいます。
さて、時が経ちその品物が古びたり壊れたり使えなくなってしまいました。または買ってはみたもののあまり好きじゃなかった、役に立たなかったことに気がつきました。
こんどはあなたはフラストレーションを感じたり、あたらしいモノを物色し始めたり、返品や処分をどうするか考えたり、袋や箱に詰めてどこかにしまい込んだり、保管する場所を探したり、保管場所を作るために整理整頓に精を出したり、オークションやリサイクルショップを利用したり、処分してくれる業者を探します。

モノ1つをとってもこれだけの労力と時間がつきまとう。これを自分の持ち物の数の分だけやってみることを想像してみてください。…ちょっとうんざりしてきませんか?

でも、普段何気なくやっていることなんですよね。

先ほどのタイラーの台詞が、よりリアルに感じられてきたのではないでしょうか。

実は、この映画で登場する暴力性は他人への攻撃性というよりは、あたり前になりすぎて意識すらしない日常生活=モノに仕える人生への揺さぶり。モノの奴隷に成り下がった自分を叩き起こすショック療法なんですね。

この映画、そしてチャック・パラニュークの原作には、モノに対する意識にゆさぶりをかけてくれる、はっとする名言がたくさん登場します。

「おまえはおまえの職業でもない、銀行残高でもない、車でもない、財布の中身でもない、おまえが思っている人間でもない」(うろ覚えなので順番はちょっと違ったかも)

「僕のしてきた事といえば、なにかを欲しがったり必要とすることばかりだった」

いろいろ伏線&どんでん返しがあったりと、映画としてのストーリーも面白いですが、ライフスタイルとしてのミニマリズムに興味がある人、特に「ゆるふわ☆シンプルライフ♡」的な読み物はなまぬるい!物足りない!と感じる人にはとってもよい刺激になりそうです。

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About Author

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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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