赤川薫のKana宇宙

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来し方を見つめ、未来へとつなぐ:THE BEAUTY OF INEFFICIENCY – KANA ART–

11月8日まで、オールド・ストリートにあるSway Galleryで“かなアーティスト”赤川薫さんの展覧会「THE BEAUTY OF INEFFICIENCY – KANA ART–」が行われている。展覧会が始まってすでに3週間が経過しご紹介が遅くなってしまったが、まだ鑑賞されていない方は、ぜひお運びになってみてはと思う。もしかすると、日本人としての原点に立ち返れるかもしれない。

ギャラリーのウェブサイトで「Kanaアート」という文字を見て私が最初に思ったのは、平仮名を使ったアートだ。海外で生まれ育った帰国子女が、日本人である強みを生かして平仮名を使ったアートを生み出している・・・大変失礼な話だが、そんな安易な考えが頭をよぎった。でも、実際はそんな表面的な芸術ではまったくなかった。

それどころか、日本で生まれ育った日本人でさえ到達することがかなわないような、 ピュアな日本人としてのアイデンティティを強調しながらも、じつに多層文化的なアプローチで文学や音楽、古典芸術や伝承を、きわめて深い部分で捉え、融合していく天才的な独自アートだったのである。

薫さんの作品を構成する基本要素は紙と仮名。しかし使っているのは平仮名ではなく、変体仮名だ。みなさん、変体仮名がどういうものかご存知だろうか?

th_kana1私はこれまでお恥ずかしながら変体仮名の存在を深く認識したことは人生の中でほとんどなかった。仮名文字はもちろん知っているし、平安時代に女性が使っていた文字という認識はある。しかし、その仮名文字が、明治維新後に今の五十音の形にまとめられるまで、幾千も存在していたということに思いを馳せることすらなかった。平仮名になれなかった仮名たちは、今は仮名書道という形態で細々と生きながらえているにすぎない。その仮名書道を、カナダで生まれ日米で育った薫さんは成人されてからご自分の意志で学び、現在の芸術へと昇華されている。本当にすごいことだと思う。彼女は仮名文字への思いを、ご自身のウェブサイトでこう綴られている。

「仮名書道は、昔の和歌や恋文の文面からにじみ出る空気を感じ、当時の書き手の気持ちに自分の感情を通わせることで、はじめて真髄に触れることができる。2001年から旧中山道700キロを4年かけて歩いたのも、日本人である自分にとって仮名を再発見するのに役立った。古地図を手に街道を歩き、歴史資料館や城などで保存されている古い手紙や日記、路傍の石碑に彫られた文字などを読むにつれ、ますます変体仮名の魅力に取り付かれた。仮名の美しさや魅力を、外国人や仮名の存在自体を知らない日本の若者にも少しでも伝えたいと思う」

薫さんの仮名アートが、なにゆえ文化横断的か、という問いへの答えは、2017年制作の「Beyond Time and Space – Venus? Or Medusa?」にも見出すことができる。

「Beyond Time and Space - Venus? Or Medusa?」

左上が「Beyond Time and Space – Venus? Or Medusa?」。右下が「セーヌ川の夕陽」。他の写真は10月5日にあったオープニング・レセプションの様子。

言わずと知れたボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」に題材をとっているように見えるが、女神を形づくる仮名文字が綴っているのは・・・日本の天の羽衣伝説だという。羽衣伝説は、西洋の白鳥処女伝説と類似する伝承として知られることから、二つの題材を融合させたということのようだ。ふるっているのは、この作品のタイトル。今まさに、海からこの世の岸辺に漂いついた水もしたたる美の女神だが・・・実は恐ろしきメドューサと紙一重の存在かもね?と、意味深に問いかけている。女性とはそも鬼子母神のごとく鬼と神が紙一重。作品からはそんな多層性やユーモアも感じられるだろう。

上の写真右下の作品は、「セーヌの夕陽」と名付けられた一連の作品の一つ。パリのセーヌ川で見た夕陽の美しさに魅了された氏が、印象派の絵画のようにあいまいな色合いを料紙の絡み合いで表現しつつ、短冊の一枚一枚にセーヌに架かる200の橋の名前(!)を仮名文字で綴っているという力作だ。アーティストはこう解説する。川は昔からナチュラルな“境界”としての役割を演じてきた。その川に架かる橋は、隔てられた二つの世界をつなぐもの。「世界各地の文化をこの目で見て経験してきた私は、その橋の役割ができる存在だ。境界を超え、人の心と未来を橋でつなげられれば」。

着物姿が美しい赤川薫さん♪

着物姿が美しい赤川薫さん♪

ベートーベン、シューベルト、メンデルスゾーン、ゲーテ、芥川龍之介、宮沢賢治などなど、クラシック音楽や文学作品からインスピレーションを得た作品も数多い。それは薫さんの個人的な魂の遍歴だが、テーマは普遍化され、多くの人びとの心に訴えかける。

仮名という日本独自の文化を用いて、世界との共通性を見出していくという試みの先にあるのは、「芸術活動を通じて国境や言語などの垣根を超えて文化を融合させ、グローバル社会のなかでの相互理解を促す」ことだそうだ。ロンドンに住む者としても、それぞれの活動を通して実現できることなのではと考えさせられる。

それにしても仮名書道の美しさには参った! そして、着物姿の美しさ♡ 「いい色ですな〜 ^^」と思わず声がけしたくなるお着物。着こなしの美しさ。海外に暮らす日本人女性として見習いたいです♪

赤川薫さんの公式ウェブサイトはこちら♪ ロンドン展は11月8日まで、Sway Galleryにて。お見逃しなく!

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About Author

江國 まゆ

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系広告代理店にて各種媒体の翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。日本語翻訳リライトのスペシャリスト。2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にAbsolute Londonを立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。

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