出会いはシークレット【後編】

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シークレット交流イベント「SEI.LAR」に参加し、北ロンドンのウォルサムストウにあるデニム工場「ブラックホース・レーン・アトリエ」にやってきた私。他の参加者とともに、自身のやっていることに情熱を持って取り組んでいる人びとの話を聞いた後、アトリエの奥にあるディナー・テーブルへと移動した。記事の前編はこちら

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自分へのメッセージを読みながら、ワイワイと席につく。左は忙しそうなキッチンの様子!

それぞれの席には、このデニム工場で働く一人ひとりから、出席者に向けてランダムに綴られたメッセージ入りのファブリックがディナーマット代わりに置かれている(冒頭の写真参照)。これはブラックホース・レーンで作られる特製ジーンズのポケット部分の布なのだという。職人の一人、ギュナルさんから私へのメッセージは……

「たとえそれがどんな小さなことでも
自分の一挙手一投足に
情熱、思い、知性、そして魂を注ぎ込め。
それが成功のためのシークレットだ」

う〜ん、とても奥深いメッセージ… …

心が温かくなり目が覚めるような思いで着席すると、リード役のアラインさんから「手元にある紙に、自身を説明する絵を書いてください! 絵、イラスト、図、何でもいいんだ。自分という人間を表すと思うものを何か」との言葉が。そこで思い思いに絵を描き、皆に披露しながら、ここで初めて公の自己紹介。こういった自己紹介法だと、誰も職業などに触れることなく、自分がやっていることの本質や、ただ好きなことに自分を代表させて伝えることができるので、肩書きではなく人として向き合うことができるのがいいと思った。

左のイラストは、今回のイベントのためにコペンハーゲンからやってきていた、SEI.LARのロゴをデザインしたデザイナー氏の手にナルもの。彼に多大な影響を与えたアニメに登場するキャラみたいなんですけど、残念かがら私にはわからなかった

左のイラストはSEI.LARのロゴをデザインしたデンマーク人のデザイナー氏の手にナルもの。彼に多大な影響を与えたアニメに登場するキャラみたいなんですけど、残念ながら私にはわからなかったす

右が主宰者のカミラ。控え目な彼女だけれど、内なる情熱はいっぱい♪

右が主宰者のカミラ。控え目な彼女だけれど、内なる情熱はいっぱい♪

ちなみに対面で収集した情報によると、参加者はロンドンだけでなく、コペンハーゲンから数名、ニューヨークから1名というインターナショナルな面々で、音楽、ダンス、アート、デザイン、メディア、プロデューサーなどそれぞれの分野で活躍している人たち。とくに主宰者のカミラが音楽業界に関わっているからかもしれないが、このイベントでは音楽もキー!なのだった。

そしてお待ちかねのディナー。この日のシェフは、ブラックホース・レーン・アトリエで週末、ポップアップ・サパークラブ「Denim N Dine」を開いているというペドロ・パシンハスさん。

シェフのペドロさん!  すごくクリエイティブな方。料理もすごい。ただし日本人には少し塩がきつめかもしれないので、もしも彼にコンタクトして料理を作ってもらうなら、「塩控え目で」とお願いしてみるといいかも ^^

シェフのペドロさん! すごくクリエイティブな方。料理もすごい。

ペドロさんの料理には、クリエイティブという表現では伝えきれない芸術性とディテールへのこだわりがあった。「同じ料理は二度と作らない」という彼の姿勢は、レシピに頼らない=実験的という意味でリスキーだと個人的には思うが、そこはプロの料理人、毎回の舞台で人びとを楽しませる技は豊富に携えているようだ。家に帰って彼のウェブサイトで経歴を見てみると、かのFat DuckやLe Gavrocheといった当代きってのトップ・キッチンで働いた経験があることが分かり、その日いただいた芸術的な料理を思い返してなるほどと膝を打った。プロの技術を最大限に生かすだけの調理設備が、このブラックホース・レーン・アトリエのキッチンに整っていること自体が奇跡だと思ったが…… ^^    私はこの日、ロンドンの奥深さを垣間みた気がした。

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右上はムール貝を使った突き出し風。貝出汁のエマルジョンとイカスミのクラッカーと一緒にいただく。

さて、いただいたのは8コースのテイスティング・メニュー! 見学を兼ねてキッチンへ行くと、何人もの助手さんたちが働いていることに気づき、今回のイベントのプロフェッショナリズムに改めて驚かされる。

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右はスクアッシュ包みをアーモンド・リコッタと一緒にいただく一品。これ、私が選んだ曲にインスパイアして作ってくださった料理です ^^

食事中、参加者が選んだ曲がバックグラウンドに響くのだが、じつは事前にシェフに選曲が知らされ、それらの曲にインスパイアされたペドロさんが、各曲に合わせて一皿一皿をクリエイトしていったということが分かり、再度の驚き! ゆえに、一品がテーブルに供されるごとにシェフがダイニング・スペースに現れ、どのようにその一品を構築したかを口上してくれるという趣向なのだ。

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左は周囲から感嘆の声ももれたカブを使った一品。私の舌には、素晴らしく洗練されたカブの和風煮物でした ^^ 右上はホウレンソウとラベージを使ったジェルに歯ごたえのあるホースラディッシュ・ソースを添えた品。右下は紫人参に技を加え、まるでガムのような歯ごたえにしたものをホタテの出汁と一緒にいただく一皿・・・

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左2枚は牡蠣のムース的なものにジェリーがのっかった一品。右は今回いちばんシンプルだったサバのグリル!

ただし日本人には少し塩がきつめかもしれないので、もしも彼にコンタクトして料理を作ってもらうなら、「塩控え目で」とお願いしてみるといいかも ^^

左上はデザートのブラウン・バター・アイスクリーム。ヘーゼルナッルのクランブルと一緒に。素晴らしい味覚と技術のショーケースのようでもあったペドロさんの料理。日本人には少し塩がきつめ&濃厚かもしれないので、彼にコンタクトして料理を作ってもらうなら、「塩控え目で」とお願いしてみるといいかも ^^ 右上はSEI.LARのロゴ。

味覚に愉快な刺激を受けながら、交流がゆっくりと進んでいく。曲と料理が変わるごとに参加者一人ひとりにスポットライトがあたり、選曲の意図やそれぞれのストーリーを話していく……。そんなふうに心地よくも刺激的な時間が食後のお茶まで続き、ゆっくりと会は幕を閉じた。

「SEI.LAR」。

「航海」を示唆するネーミング。

今回のロンドン会はSEI.LARのローンチ・イベントとのことで、1年前から温められ、準備されてきた企画だという。今後はコペンハーゲン、ニューヨークを皮切りに世界各地で展開していく予定なのだとか。光栄ある初回に参加できたことは、改めてラッキーだったなと感じた。

右下は若いカメラ技士たち=主宰者の息子ちゃん+お友達 ^^   が会の様子をフィルムに収めていた(器材はプロ仕様)。今後のプロモーション・ビデオとして使われるらしい。

会も終盤に近づき、打ち解けて談笑中。若いカメラ技士たち=主宰者の息子ちゃん+お友達(^^  左下)が会の様子をフィルムに収めていた(器材はプロ仕様)。今後のプロモーション・ビデオとして使われるらしい。

このイベントの主旨は、明らかに「人」と「人」との交わりにある。その間合いの中へ、五感を刺激する体験を巧妙に織り込んでいくところがプロの仕事。活動する場のコミュニティに根ざし、自分がやるべきことに情熱をもって身を捧げている人びとの活動を紹介していくことでまた、参加者は大きな刺激を受ける。音楽にいたっては、パーソナルな意味合いもある楽曲を共有することで、それぞれの思いを共有することにつながる。

視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、そして思考。すべてがフルに刺激され、新しい出会いから生み出される会話の中から、また新しいアイデアが生まれ魂が共振しあっていく。もちろん、その秘密性も大いに刺激の材料なのだが。ただのサパークラブでもない、単なるミートアップでもない。SEI.LARは、人を中心にすえた未来を志向する新しいイベントだ。

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About Author

江國 まゆ

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系広告代理店にて各種媒体の翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。日本語翻訳リライトのスペシャリスト。2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にAbsolute Londonを立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。

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