Dinner by Heston Blumenthal ディナー・バイ・ヘストン・ブルメンタール
今や世界最高峰のグローバル・シェフとして確固たる地位を築いているヘストン・ブルメンタールさんが監修し、ヘストンさんの右腕としてエグゼクティブ・シェフを務めるアシュリー・パルマー・ワッツさんがめくるめく進化系英国料理を提供しているナイツブリッジのマンダリン・オリエンタル・ホテル内レストラン。(注:2022年の段階でアシュリーさんは勇退されています。)
ハイド・パーク沿いというグリーンな立地もさることながら、5つ星ホテル内のゴージャスな仕様がスペシャル感をいや増す感じはあるものの、レストランそのものは肩肘張らないスマート・カジュアル路線なので、仮に公園の散歩の途中、ジーンズでふらりとランチに立ち寄っても必ずテーブルは用意されているといったライトな印象です。
当レストランのコンセプトは「英国料理の温故知新」。チューダーからヴィクトリアンまで、ヘストンさんとアシュリーさんが古いふるい料理本や文化誌本をアレやコレやと引っ張り出してひもとき、歴史家の意見も取り入れつつああでもないこうでもないと、そこから得たアイデアを元に現代人の舌に合わせて全く新しい料理を現代テクノロジーでもって創出しちゃうというのだから、料理の誕生過程に思いを馳せるだけでも気が遠くなりそうです。昨今のレストランで食べられる料理について、例えば他国料理の影響を緯糸、自国の歴史的要素を縦糸にたとえると、「ディナー」では明らかに、縦糸がものすご〜く長い英国料理をいただけるというわけ。
さて。
ヘストンの「ディナー」名物と言えば、こちら、ミート・フルーツ。
この蜜柑の形をした「ミート・フルーツ」は、チキン・レバーとフォアグラのパルフェを、皮に見立てたマンダリンのゼリーで包んだもの。調理工程を説明してもらったのですが、いやはや手の込んでいること古伊万里のごとし。ふわりと軽い口当たりのパルフェが、爽やかな柑橘風味ゼリーと混ざり合い、デリケートな食感と味わいが鼻をくすぐる極上品です ^^ 中世におけるロイヤルな食卓では、リンゴに見立てた肉料理を出して人を驚かせるといったエンターテインメントな趣向があったそう。そこから得たインスピレーションが見事現代に蘇った逸品也。
メニューを裏返すと、その料理がどの時代の料理にインスパイアされたか、アイデアの出どころが書いてあるのも興味深いのです。例えばこちらの「Salamagundy」は1720年頃の出典。チキン・オイスター(股関節の肉)をスモークした鴨脂でローストし、丁寧に調理した西洋ゴボウなどを添えて苦みのある野菜、パン粉をまぶしたボーン・マロウ、クルミのピクルスなどが周りに添えられています。ホースラディッシュ・ソースとハーブ・ガーリック・グレイビーでいただきます。Yum。
サフラン・リゾットに子牛の尻尾の赤ワイン煮込みを添えたスターターは、1390年頃の料理にインスパイア。お友達がいただいた完璧な焼き具合のリブアイ・ステーキには、かの有名なヘストンのトリプル・クック・チップスが付きます♪(ちなみにこのチップス、ほとんどスナック菓子のようにカリカリでした)
下の写真右はフェネルのコンフィが添えられた鳩。1780年頃に発行された料理書からインスパイア。カルダモン、八角、生姜、ニンニク、オールスパイスなどで香りづけされた鳩を、エール・ソースでいただきます☆ 写真左は満足度が大変高いベジタリアン料理。セロリをブレイズし、サイダー・アップルの酸味とパルメザン・チーズのコクでいただきます。フェネルがいい仕事してます。
こちらは「ディナー」を代表するデザート、Tipsy Cake。オープン厨房を見やると、パイナップルがじっくりと直火でローストされているのが見えるのですが、このパイナップルのエッセンスをギュっと凝縮した一切れに、ブリオッシュとカスタードの熱々プディングを添えていただきます。パイナップルは17世紀にカリブ海からイギリスに来たエキゾチックなフルーツだったのですって。イギリス人て、食に対して保守的なようで、海外のものをたくさん取り入れていることを鑑みても、実はとてもオープンですよね ^^
ブラウン・ブレッド・アイスクリームは、かなり前衛的な一品w
さて、冒頭でドレス・コードはスマート・カジュアルでジーンズもおそらくOKと書きましたが、お値段のほうはとっても高級です ^^; そんななか、40ポンドの平日ランチ・セットはお得以外の何者でもありません・・・ぜひぜひ、機会あればヘストン・デビュー、してみてくださいね。