ロンドン市内にはいくつもの「隠れ家」的なパブがありますが、このグレナディアは隠れ家のなかの隠れ家。石畳の細い私有道に面した珍しいロケーションで、最初は誰かに連れてきてもらわなければ絶対にやってこられない類いの場所です。
一見したところ何の変哲もないパブなのですが、夕方にはバー・エリアと小部屋が2つあるだけの小さなスペースは毎日常連さんで寿司詰め状態になるところを見ると、どうもご近所のスター・パブといった趣。真の隠れ家、伝統の造り、親密な話ができそうな独特の雰囲気など人気の理由はいろいろあると思いますが、その興味深い歴史にも、人を惹き付ける理由がありそうです。
「グレナディア」とは近衛兵のことで、ここはロイヤル・ファミリーゆかりのパブなのです。1720年の建造というこの建物は、その昔、旅行者に馴染みの深いバッキンガム宮殿を守っている近衛兵(Grenadier Guards)の祖先「近衛歩兵第一連隊」の食堂として使われていたとのこと。 1818年には近衛兵用のパブとなり、その後はナポレオン戦争で功をなした元英首相ウェリントン公爵直属の士官用食堂となった関係で、ジョージ4世も出入りしていたというロイヤルな歴史が背景にあります。
現在は大使館や政治家事務所が多いベルグレイヴィアという場所柄、スーツをばしっと決めた政治家風、官僚風の常連さんが多いのも特徴。イギリスのアッパーミドル・クラスがどんなふうにアフター5を楽しむのかを観察するのに、もってこいかも ^^ ここでゆっくりと食事をしたいと思ったら、ぜひ事前にテーブル予約を。安定したクオリティのパブご飯を求めて、数少ないテーブル席はあっという間に予約でいっぱいになってしまいます。
ところで! このパブに一歩入って周囲や天井を見回すと、びっしりとお札が貼付けられているのに気づくはず。いえ、デコレーションではありません・・・。このお札は、このパブでカード・ゲームをしていた近衛兵たちが、その中の一人がイカサマをしたと責めて命を落とすまで殴ったという事件に由来しています。亡くなった近衛兵の幽霊が出るとうウワサが広まり、彼が負けて背負った借金を代わりに返してあげようと、パブを訪れるお客さんが少しずつ寄付をしたものを天井や壁に貼っていったということです。そのおかげで事件から1世紀以上を経て、借金はすっかりキレイになったというわけ。なんともイギリスらしい逸話、そしてパブではありませんか ^^;