第57話 Seed cake ~シードケーキ~

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okashi


<Seed cake シードケーキ>

ロンドンのとある古き良き面影を残すホテルのロビーにて~
Anything further I can get you, my lady? Cake of any kind?  ‘Cake?’  Lady Selina thought about it, was doubtful. ‘We are serving very good seed cake, my lady. I can recommend it.’  ‘Seed cake? I haven’t eaten seed cake for years. It is real seed cake?’
「何かもっとお持ちしましょうか、奥様? 何かケーキでも」「ケーキ?」セリナ婦人がどうしようかしらと悩んでいると~「とってもよいシードケーキがございますよ、奥様。おすすめです」「シードケーキ?もう長いこと食べてないわ。 それは本物のシードケーキなの?」

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~これはアガサ・クリスティーの小説「At Bertram’s hotel(バートラムホテルにて)」の一場面。エドワーディアン風にしつらえられた応接セットの中でサーブされるトラディッショナルな午後のお茶。そこで出されるのにふさわしいケーキとして作者によって選ばれたのが「シードケーキ」。さぞや伝統的なケーキなのだろうということは想像に難くありませんが、いったいどのくらい伝統的なのでしょう。定番のヴィクトリアサンドケーキバッテンバーグケーキよりもうひと昔ふた昔前、1600年代には登場し、1700~1800年代にかけて流行したという大御所ケーキ。さすがにトラディッショナル過ぎるせいか、セリナ婦人も言っているように、昨今その辺で出会うことはめったにありません。「リアルシードケーキなんでしょうね?」確認したくなる気持ちも分かります(この本が出版されたのは今から50年も前ですから、その頃からもうすでに見かけないオールドファッションなケーキだったのですね)。ここで言うシードとはキャラウェイシードのこと。イギリス風のプレーンでしっかりしたスポンジケーキにキャラウェイシードがたっぷり入ったのが本物のシードケーキなのです。時にはミックスピール(オレンジやレモンの砂糖漬け)やほんの少しのアーモンドパウダーなどが入ることもありますが、間違ってもポピーシードなどは入りません。基本的には実にプレーンな、そしてキャラウェイシードを噛む度にあのす~っとするような風味が口に広がる独特なケーキです。

キャラウェイシード入りのケーキは古いどころかなかなかかえって新鮮です☆

キャラウェイシード入りのケーキは古いどころかなかなかかえって新鮮です☆

以前 キャラウェイシードをたっぷり入れたビスケット「Goosnargh cake」 をご紹介しましたが、これがWhitsun の時期に食べられていたのと同様、このシードケーキも本来は春の麦の種蒔き、あるいは秋の収穫を無事終えたことを祝う際に焼くケーキでした。ケーキに限らずパンに焼きこんだり、ビスケットに加えたり、イギリス各地でこの習慣は広くあったようですが、いずれキャラウェイシードが「種=命や豊穣」を表すシンボリックな意味を持っていたようです。

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さて前述の「バートラムホテルにて」の一節に「very good seed cake」というフレーズが出てきますが、ビートン婦人の「Household Management(1861)」の中にまさに、very good seed cake という名のレシピが載っています。1パウンドのバターに1パウンドの小麦粉、そして3/4パウンドのお砂糖に6個の卵、メースとナツメグ少々、3/4オンスのキャラウェイシード、そしてブランデーを1ワイングラス分、これらを混ぜ合わせてオーブンで焼くというもの。ブランデーとナツメグを除けば今のものとそう変わらないものができそうですね。ではもう少し遡ってHanna Glasse のレシピ「The art of cookery made plain and easy(1747)」をみて見ると~Cheap seed cake と Rich seed cakeの二つのシードケーキのレシピが見つかります。このチープバージョンとリッチバージョンの間に相当な違いがあるのが面白いところ。チープバージョンはエール酵母で膨らませるパンタイプ。発酵に多少時間はかかるものの手間はそれほどかかりません。少々忙しくとも作れるようになっています。一方リッチバージョンはというと~これはもうお抱えの料理人がいることが前提のようなレシピ。材料もまたすごい。各々4パウンド(1800g)の小麦粉とバターに3パウンド(1350g)のお砂糖、35個の卵にスプーン4~5杯のローズウォーターそして6オンス(168g)のキャラウェイシード。これらをなんと2時間休むことなく(!)混ぜ続けなさい~というのですから。そしてオーブンに入れて焼くこと3時間。これだけで1日ヘトヘトになってしまいそう~当時の料理人でなくてよかった(^^;)

では数あるレシピの中でも最高に楽ちんなシードケーキの作り方をご紹介☆

  1. 薄力粉225g/ベーキングパウダー小さじ2/グラニュー糖150g/柔らかくした無塩バター150g/卵2個/牛乳大さじ2 を全てボールに入れてハンドミキサーで滑らかになるまで撹拌します。
  2. オレンジピールとレモンピール合わせて50g(みじん切り)とキャラウェイシード小さじ2を①のボールに加えて軽く混ぜます。
  3. 紙を敷いた直径18cmの型に入れて170℃に予熱したオーブンで40~50分程、中央に火がとおるまで焼いたら出来上がり。
    キャラウェイの風味に負けない濃い目のミルクティーと共に召し上がれ☆
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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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3件のコメント

  1. ありがとうございます(^o^)
    早速作らせて頂きますね。
    こちらに掲載されるレシピ、楽しみにしています!

  2. えみこさん☆ ご指摘ありがとうございます!
    卵入れないと大丈夫じゃないです!卵2個が材料から抜けていました~ごめんなさい、早速プラスしておきます

  3. 初めてコメントさせていただきます。
    シードケーキですが、
    卵は入れないで大丈夫でしょうか?

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