第60話 Jam tarts ~ジャムタルト~

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okashi


<Jam tarts ジャムタルト>

The Queen of Hearts
She made some tarts , (ハートのクイーンタルトを焼いた)
All on a summer’s day; (ある夏の日に一日かけて)
The Knave of Hearts (ハートのジャックタルトを盗んだ)
He stole the tarts,  (全部きれいに持ち去った)
And took them clean away.

The King of Hearts
Called for the tarts, (ハートのキングタルトをご所望)
And beat the knave full sore; (ジャックを打ってこらしめた)
The Knave of Hearts  (ハートのジャックタルトを返した)
Brought back the tarts, (もうしませんと謝った)
And vowed he’d steal no more.

これはイギリスの古いナーサリーライム(マザーグース)のひとつ「Queen of Hearts」。「不思議の国のアリス」にも登場する一節なので、ご存知の方も多いことでしょう。今ではこの本の影響か上記のハートのクイーンの部分だけが有名になっていますが、1782年発行の「The European magazine」に掲載されている詩をみると、このハートのクイーンの詩の後に、スペード、クラブ、ダイヤ、それぞれの王様の話しが続く4部節の詩だったことが分かります。それはさておき、この女王様が一生懸命焼いたタルト、一体どんなタルトだったのか気になりませんか?フルーツのタルト?ナッツのタルト?それともチョコレート?イギリスでは一般に、真っ赤なジャムがのった小型のジャムタルトということになっています。

このレトロ感がたまらなくキュートでしょう?

「ジャムタルト」、、、そう、その名のとおりジャムがのった、他にはフルーツも何ものらない純粋にジャムだけをのせて焼いたタルトです。あまりのシンプルさゆえでしょうか、日本ではめったにお目にかかりませんが、イギリスではお茶の時間の大定番。おやつに、アフタヌーンティーの3段スタンドにとよく登場。茶色のお菓子が並ぶことの多いイギリスのお茶のテーブルに、ぱっと可愛らしいお花を咲かせてくれています。人気の理由はその可愛らしさプラスお手軽さ。夕飯のパイの残りのペストリーを寄せ集めて、ジャムをのせて焼くだけで出来てしまうのですから。この簡単さからイギリスの子供たちがお母さんに最初に教えてもらったお菓子がこれ、と言う話もよく聞きます。おそらくフラップジャック、スコーン、ジャムタルト、この三つがお菓子作りデビューのトップ3でしょう。jamtart2

さて、このジャムタルトが今年の5月なんと2045個もテーブルにずらりと並びました。その総全長たるや442フィートにおよび、もちろんギネスレコード。しかも全て無駄なく食べて初めてギネスに認定されるということだったので、計測終了後はみんなでジャムタルトティーパーティーです。なんともうらやましい光景。これは北ウエールズの海辺の町Llandudnoでのひとコマ。この町は「不思議の国のアリス」の主人公のモデルとなったAlice Liddell がよく家族で夏を過ごしに来ていた町。このイベントは今年出版150周年を迎えた「不思議の国のアリス」、そして5月4日に163歳のお誕生日を迎えたAlice Liddell のバースデーパーティーと言う訳なのです。アリスの物語とジャムタルトは切っても切れない間柄というのがこのイベントからもよく伝わってきますね。

イギリスティータイムにジャムは欠かせません☆

イギリスティータイムにジャムは欠かせません☆

ジャムを使ったお菓子というと、日本ではどうも古臭い印象を持たれてしまいがちですが、このジャムタルトを筆頭にイギリスではまだまだ現役。ジャムローリーポーリークイーンオブプディングには欠かせないし、ロールケーキ(イギリス風に言うなら「スイスロール」)にはジャムだけを巻くのが基本形。「ヴィクトリアサンド」と呼ばれるスポンジケーキにジャムをサンドしたものはイギリスケーキの代名詞的存在です。暗く寒い季節が長いイギリスでは、フレッシュなフルーツは短い夏の間だけのご馳走。でも果物の豊富な時期に1年分のジャムを作っておけば、冬の間も夏の太陽をいっぱいに受けて育った色とりどりのフルーツを楽しめるのですから、ジャムは大切な存在だったのです。ジャムタルトのようなお菓子にはもちろん、朝のトーストに添えて、スコーンに添えて、時にはお肉料理にも添えられるジャム。朝から晩まで大活躍ですね。

豪華版ジャムタルト~ヴィクトリア時代に戻って「エピファニータルト」☆

豪華版ジャムタルト~ヴィクトリア時代に戻って「エピファニータルト」☆

ペストリーが食卓に上がるようになり、お砂糖がイギリスに広まるのとそう時を違わずして存在していたであろうと言われるジャムタルト。今でこそ庶民派お菓子のひとつですが、17世紀頃は王侯貴族の宴でそのデザインと美しさを競われ、ヴィクトリア時代になると、家庭の主婦たちはおもてなしのテーブルに、手づくりの色とりどりのジャムで彩ったジャムタルトを並べたのだとか。そんな中のひとつが「Epiphany tart」。1月6日のエピファニーを祝って作るジャムタルトです。ヴィクトリア時代にはよく作られていたようですが、今では昔の本の中でしかお目にかかれません。13の分かれたパートに13種のジャムを入れて作るという私のようなジャム好きには夢のようなタルトです。星に導かれ、東方の三博士がキリストのもとを訪れて誕生を祝った日がエピファニー(公現祭)。この星をペストリーで模しています。カットすると一切れで2~3種のジャムが楽しめるこのタルト、古い本の中にだけ眠らせておくにはもったいない美味しさ&楽しさです。本来はそれぞれイエスキリストと12人の弟子たちを表しているというジャムですが、13種そろえるのは大変ですから、5種類くらいで許してもらって、現代のティーパーティーに蘇らせてあげましょう。これなら日本でも「え~ジャムだけのタルト~?」なんてきっと言われないはず(^^)

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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