第61話 Madeira cake ~マデイラケーキ~

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okashi


<Madeira cake マデイラケーキ>

フランスなどと比べ、基本シンプルなケーキが多いイギリスですが、その中でもプレーンなケーキの代名詞としても使われるほどにシンプルなのがこの「マデイラケーキ」。材料はいつもの4つ、バターとお砂糖と卵と小麦粉、それに香りづけのレモンの皮だけ。ヴィクトリアスポンジや材料が全て同量ずつ入るいわゆるパウンドケーキより小麦粉が多く入るため、もう少ししっかりしたテクスチャーになります。よって型崩れしにくいため、バタークリームやシュガーペーストなどしっかりデコレーションを施すケーキ(例えば子供たちのバースデーケーキなど)のベースとして使われたり、トライフルのシロップやお酒を染み込ませる土台に使われたりすることも。もちろんそのままで充分美味しいのでシンプルに紅茶と味わうのが一番ですが。もとい、マデイラワインといただくのが一番の味わい方でした。なんと言っても「マデイラケーキ」ですから。。。名前から想像するにこのケーキ、ポルトガル領のマデイラ島発祥?それとも中にマデイラワインが入っている?なんて思ってしまいますが、そういうわけでもなく、マデイラワインに合うからマデイラケーキ。アメリカでコーヒーに合うケーキをコーヒーケーキと呼ぶのと同じ様なものかもしれませんね。

Simple is Best な味わいのマデイラケーキ☆

Simple is Best な味わいのマデイラケーキ☆

マデイラ島はイギリス人の大好きなリゾート地、そして古くはヨーロッパからのアメリカ大陸や喜望峰周りの航路の中継基地として栄え、当時からマデイラ島のワインは人気の輸出品でした。イギリスではシェークスピアの時代からマデイラワインは珍重されており、その作品にも登場します。例えば「ヘンリー4世」では大酒飲みのFalstaffが「マデイラ酒とコールドチキン」のために魂を売った男として登場。
What says Sir John Sack and Sugar? Jack! How agrees the devil and thee about thy soul, that thou soldest him on Good-Friday last for a cup of Madeira and a cold capon’s leg?
「やぁ、サック&シュガー殿 【Falstafは砂糖入りサック(シェリーやマデイラ酒のこと)が大好きだったのでこう呼びかけられています】。先のグッドフライデーに一杯のマデイラと鶏の足のために悪魔に魂を売り渡したそうじゃないか」(Henry IV Part1 Act1)
シェークスピアの時代にマデイラケーキが食べられていたかは分かりませんが、少なくとも18、19世紀にはもうすでに人気のケーキだったそう。昔から砂糖やワインの貿易港として栄えていたイギリス南西部のBristol 発祥という説もありますが、詳細は謎。。。

昔は遅い朝食としてマデイラワインと共に食べていたそうですよ☆

昔は遅い朝食としてマデイラワインと共に食べていたそうですよ☆

ではここで、1845年の出版のEliza Acton 著「Modern cookery for private families」に載っているマデイラケーキのレシピを見てみましょうか。
A GOOD MADEIRA CAKE : Whisk four fresh eggs until they are as light as possible, then, continuing still to whisk them, throw in by slow degrees the following ingredients … この後材料が6オンスの砂糖、6オンスの粉、4オンスの溶かしバター、レモンの皮、小さじ1/3の重曹と続きます。そう、こういったタイプのケーキにしては珍しいことに、卵を先に泡立て、あとから溶かしバターを加える作り方なのです。実はこれ、Eliza Acton の工夫の産物。本来はバターをクリーム状にして、順繰りに材料を混ぜていくところなのですが、当時、木のスプーンで固いバターをクリーム状にするのは結構な労働。そこで、彼女が考え出したのがバターを溶かしてから最後に加えるという方法。本の中ではこんな風に説明されています。「前もって温めておいたソースパンに小さくカットしたバターを入れ、火のそばで軽くゆすって溶かします。それ以上は決して熱くせず、これを少しずつ他の材料に混ぜていけば、とっても軽いケーキに仕上がることが分かりました。シードケーキやプレーンなケーキにはとてもおススメな方法です。ただし、プラムケーキ(レーズンなどのドライフルーツたっぷりのケーキ)の場合は、この方法だとフルーツが底に沈んでしまうので、通常のバターを最初にクリーム状にする方法で作ること」と。実にプラクティカルないいレシピ本です。後に出るビートン婦人の家政書のレシピの多くがこの本を参考にしていたと言うのがよく分かります。

インスタントのマデイラミックスもスーパーでは良く見かけます☆

インスタントのマデイラケーキミックスもスーパーではよく見かけます☆

では今日は Actonのレシピではなく、今の時代の一般的なマデイラケーキの作り方をご紹介します☆

  1. 室温で柔らかくした無塩バター175gをクリーム状にし、グラニュー糖175gを加えて泡だて器で全体に白っぽくなるまで撹拌します。そこに卵3個を少しずつ加えながらさらに撹拌。
  2. 薄力粉250gとベーキングパウダー小さじ2を①のボールにあわせてふるい入れます。レモンの皮のすりおろし1個分も加えたら、ゴムベラでなめらかになるまで混ぜましょう。
  3. 紙を敷いた直径18~20cmの型に入れて170℃に予熱したオーブンで約50~1時間程、中央に火がとおるまで焼いたら出来上がり。(竹串をさしてチェックしてくださいね)

    ※ 40分ほど焼いたところで、上に薄くそいだレモンの皮(面倒でなければ軽くシロップで煮たもの)をのせることもあります。あくまで飾りなのでお好みで~

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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