<Singing hinny / Stottie cake シンギングヒニー/ストッティ-ケーキ>
「Singing hinny (Singin’ hinnie と書くことも)シンギングヒニー」なんだかちょっと愉快な響きの名前ですが、これはイギリス北部、特にNorthumberland や Newcastle辺りの北東部出身のお菓子。お店で買うというより家庭で作るおやつ的存在のお菓子です。見た目は巨大ウエルッシュケーキのようでもありますが、味はもっとずっとシンプル。簡単に説明すると、カランツ入りのスコーン生地を薄くのばしてグリドル(鉄板)で焼いたようなもの。砂糖も入らなければ卵も入らず、甘さといえばカランツからのみ、スパイスも入らないので、焼き付けられたときにできる、香ばしい香りがアクセントといったところでしょうか。おしゃれなフランス菓子を食べ慣れた日本人の舌には素朴過ぎるほどに素朴です。ですがお腹をすかして帰ってくる子供たちやお父さんにとっては、焼きたて熱々にバターをたっぷり塗って、ちょっぴりのお砂糖かはちみつでもたらしたなら、最高のおやつだったのだろうな~そんな想像がふくらむ味でもあります。この辺りでは昔から炭鉱業が大きな産業だったため、そこに働く人々の家庭が多かったのですが、決して高いとは言えない賃金、オーブンを持つ余裕などありません。調理のために火の上に吊り下げることができるのはたった一つのグリドルか鍋。グリドルで簡単に焼ける食事代わりにもなるシンギングヒニーは日々の食生活に欠かせないものだったことでしょう。
ところでこの愉快な名前の由来ですが、’Hinny’ とはこの辺りの言葉で honey(ハニー)「愛する人・親しい人」を意味する言葉、奥さんや子供たちに呼びかける際にも使う言葉です。そして、’Singing’ は熱せられたグリドルの上にのせられた生地がシューシューいう音がまるで歌っているように聞こえるからとのこと。想像するに~「お母さん、もう焼けた~?」「It’s just singing, hinny. 今、シューシューなっているわよ、ハニー(もうすぐ焼けるわよ)」といったところでしょうか(笑)。
ところで、ノーザンバーランドやニューカッスル周辺の人々が話す言葉は実に独特です。Hinnyとhoneyはまだ似ていますが、この地方の方言はGeordie(ジョーディー)と呼ばれ、お国訛りという域を超えて、もう違う国の言葉のように聞こえる事もあるほど難解。「ジョーディー」が話題にのぼったついでにもうひとつ、ご紹介しておきたいのが「Stottie cake (簡単にStotty とも)」。こちらはケーキと名はつくものの、まったく甘くない大きな平たいパン。’Stott’とはやはりこの辺りの言葉でbounce(弾む)の意味。もともと、残り物の生地を使ってオーブンの一番温度が低い部分でゆっくり焼かれたこのパン、独特のしっかりした歯ごたえがあり、その焼き加減を床に落として弾ませて(!)チェックしていたからこんな名がついたと言われています。20cm以上はある大きな平たい丸いパンで、ハムやpease pudding(この地方名物の乾燥豆を煮てペースト状にしたもの)をサンドして食べるのがご当地風。
ジョーディー風に言うと~
Here hinnie lad, here’s ya stottie bait.
「ほら私の可愛い坊や、ランチのストッティよ」
う~む・・・ジョーディーの習得はどうやら無理そうなので早々に諦めることにして、簡単に出来るシンギングヒニーでも焼いてティータイムにでもしましょうか~。
- 薄力粉225gとお塩少々、ベイキングパウダー小さじ1を合わせてボールにふるい入れます。冷えたバターとラード各50gずつを小さくカットして加え、指先をこすり合わせるようにしながら全体をさらさらのパン粉状にします。
- カランツ60gを加えざっと混ぜ、牛乳を約100ccほど(あるいは全体がまとまる程度の分量)を加えたら、1.25cm程度の厚さの円形にのばします。熱く熱したグリドルまたは厚手のフライパンに油をうすくひき、じっくり中に火が通るまで両面焼いたら出来あがり。
あつあつにバターをたっぷり塗って召し上がれ☆