第83話 Cherry batter pudding/ Yorkshire pudding ~チェリーバッタープディング/ ヨークシャープディング~

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okashi


<Cherry batter pudding/ Yorkshire pudding チェリーバッタープディング/ヨークシャープディング>

「Cherry batter pudding」。文字だけ見ると一瞬、butter pudding?と見間違いしてしまいそうですが、乳製品のbutter(バター)ではなくbatter(バッター)であるところがこのお菓子の一番大事なポイント。batterとは卵と牛乳、小麦粉で作るどろりとした生地のこと。フリッターやてんぷらの衣くらい濃度の濃いものもバッターなら、クレープの生地くらいゆるゆるでもバッター。このバッターとチェリーを器に入れてオーブンで焼いたものが今日ご紹介する「チェリーバッタープディング」です。チェリーの産地 Kentの名物でもあるので、「Kentish Cherry batter pudding (ケンティッシュチェリーバッタープディング)」と呼ばれることも。粉は少なめのまさにクレープ生地のようなものを厚く焼くので、独特のもっちりした食感が楽しく、その中でジューシーなチェリーがはじけます。温かいままでも冷たくしていただいても、なかなか美味しいお菓子です。バッタープディングというよりは、フランス語の名前のほうが聞いた事があるという方が多いのではないでしょうか。「Clafoutis de Limousin」。このフランスはリムーザン地方の名物のチェリークラフティーとほぼ同じものなのです。イギリスの南東、海沿いに位置するケントは古くはぶどうやチェリー、ホップをもたらしたローマ人はじめ、ノルマンディなどヨーロッパからの入植者により独特の食文化がはぐくまれてきた地域。温暖な気候と地形にも恵まれ、イングランドの庭と言われるほどさまざまな野菜やフルーツが栽培されてきたのも、この地域の食のバリエーションの豊かさに大きく関わっているのでしょう。

モチモチの生地の中でチェリーがはじけるチェリーバッタープディング☆

モチモチの生地の中でチェリーがはじけるチェリーバッタープディング☆

ところで、このチェリーバッタープディングからチェリーを抜いた、ただの「バッタープディング」と呼ばれるものはイギリス国中で昔から食べられています。それはそうですよね、卵と牛乳、小麦粉をしゃかしゃか混ぜるだけという、これ以上ないシンプルな生地なのですから。この生地をフライパンで焼いてしまうと、「パンケーキ」となってしまうので、茹でるか蒸すか、はたまたオーブンで焼かないと「バッタープディング」とはならないわけですが、オーブンが普及する前はやはり、炉の火の上にかけた大鍋でなんでも同時に茹でるのが一番エコノミーな調理法。例えばHanna Glasse 著の 「The art of cookery made plain and easy(1747)」に出てくるBatter pudding(バッタープディング)は卵と牛乳、小麦粉で作ったバッターに少しの塩とジンジャーを入れてプディングクロス(蒸し布)に包んで90分ほど茹でたもの。ソースには溶かしバター。甘みもゼロですし、あまり食欲をそそる感じではありませんが、主食代わりのポジションであるとすれば、お腹を満たすには上等かもしれません。

チェリーを抜けばプレーンな「バッタープディング」になるけれど・・・

チェリーを抜けばプレーンな「バッタープディング」になるけれど・・・

主食代わりのバッタープディングといえば、現代のイギリスの食生活の中で忘れることの出来ない、大切なバッタープディングがあります。それは「ヨークシャープディング」。こちらはオーブンで焼くので「ベイクドバッタープディング」ジャンルの代表選手。プディングというとついついデザート的なものをイメージしてしまいますが、ヨークシャープディングも立派なプディングのひとつ。もともとは今のようにオーブンではなく、炉の火の上で焼かれている串刺しの肉の下で、肉汁や脂(dripping)を受ける受け皿の中に、バッターを直接流して焼いたものでした。そのため、名前も「Dripping pudding」 と呼ばれていました。これを一番最初に「Yorkshire pudding (ヨークシャープディング)」と称し紹介したのが、前述のHanna Glasseの「The art of cookery made plain and easy(1747) 」だと言われています。お肉が焼ける少し前に、熱々に熱せられた脂の中にバッターを流せば、お肉が焼けるのとほぼ同時に、表面は香ばしく、ぷわ~っと膨らんだヨークシャープディングも焼きあがります。当時は大きなトレー型に焼きあがったそれを、四角にカットしてサーブしたそう。グレービーをたっぷり吸ったそれは今も昔もメインのロースト肉の大事なパートナーです。ただし貧しい家庭では、お肉を食べる前にヨークシャープディングでお腹を膨らませてから、貴重なお肉を家族で分け合いました。さらに貧しい家庭では、ヨークシャープディングがメインディッシュだったとか、、、。そして残ったプディングには、お砂糖やフルーツのソースをかけてデザートに。ドリッピング味のプディングに甘いジャムをのせて食べたいとは今の時代は思えませんが、当時の貧しい子供たちにとってはとても美味しく感じられたに違いありません。

成功の秘訣はとにかく熱く熱した天板と油にバッターを注ぐこと☆

成功の秘訣はとにかく熱く熱した天板と油にバッターを注ぐこと☆

ちなみに、ドリッピング(お肉をローストする際に出る脂)の代わりにバターや植物油脂を使ったヨークシャープディングにフルーツを加えてデザートとすることは今もよくありますが、Eliza Acton著 「Modern Cookery for private families(1845)」に載っている、Light baked batter pudding はバターを塗った器によく撹拌したバッターを流して、熱いオーブンで焼くというもの。上手に作れば表面はかりっと、中はとっても軽くデリケートなプディングになるので、ジャム、あるいは軟らかく煮たフルーツを添えて召し上がれ~となっています。また現代のヨークシャープディングのように一人分ずつ小さく作るよう、カップで焼いてお皿にとりだし、お砂糖をたっぷり振り掛けるのもいいでしょう~とも添え書きが。こちらは今の世のものと何ら変わらず、実に美味しそうです。そう言えばちょっと形は違いますが、以前ご紹介したTewkesbury saucer batter もフルーツ入りバッタープディングのお仲間ですね。

プラムやりんご、ベリーなどを入れて焼けばヨークシャープディングも立派なデザートに☆

プラムやりんご、ベリーなどを入れて焼けばヨークシャープディングも立派なデザートに☆

さらにバッタープディング(ヨークシャープディング)にソーセージを加えて作ると「Toad in the hole (穴の中のヒキガエル)」なんておかしな名前になり、これはこれでイギリスのパブで人気の食事のひとつ。甘いものあり、セイボリーもあり、茹でるものも、オーブンで焼くのもあり、もうバリエーションがありすぎてこれ以上ご紹介すると逆に混乱を招きそうなので、今日のところはこの辺で筆をおかせていただきます~。

 

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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