第85話 Gypsy tart ~ジプシータルト~

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okashi


<Gypsy tart ジプシータルト>

写真が綺麗で懇切丁寧な説明のついた日本のお菓子の本に比べ、ずらずらと文章ばかりで、ステップステップの写真どころか、出来上がりの絵すらない事も多いイギリスのレシピ本。せめて完成図くらいないと、作っても果たしてこれが正解なのか分からないじゃない~なんて思っていたものですが、近頃は美味しそうな写真で購買意欲をかき立てるお料理本も大分多くなってきました。今度はそうなったらなったで、天邪鬼なわたしはイギリスの昔ながらの字ばっかりの本も案外いいのよね~なんてパラパラ眺めたり。そんな時の気分はレシピを読んでいるというより、昔の物語を読んでいるようなそんな感じ。想像がむくむくムクムク。名前だけでもうすでに「なんだか美味しそう~」と思うもの、ありがちな名前だけれど、材料と作り方を見たら、「あれ変わっている~どんな味になるんだろう?」と急に興味が沸き始めるものなどいろいろ。かなり古めのレシピ本になると、出来上がり図の想像はもちろん、それを実際作っていたであろうキッチンや道具、暮らしぶりまで思い描くものだから、時代小説や推理小説の気分まで味わえるという、、、。要は写真のないレシピ本を読んでは想像を膨らませ、よだれをたらしているワケですが(笑)。そんな中でもわたしの食いしん坊心を奪ったのが「Gypsy tart(ジプシータルト)」というお菓子。なんて興味をそそるネーミング☆そして、材料とレシピを見て、またまた釘付け、、、。これはそれほど古いお菓子ではなく、特に1960年~1970年代にかけてよく食べられていたものなのですが、まぁ実にイギリス的。何がって、もうとにかくそのシンプルさというか大雑把さが斬新なのです、、まぁ聞いてください。

Kent 州で もしこれを見つけたら是非一度チャレンジを ☆

Kent 州で もしこれを見つけたら是非一度チャレンジを ☆

生まれも育ちもイギリス南東部ケント州のこのお菓子、引っ込み思案なのか他の地ではめったにお目にかかりません。見た目は他のイギリス菓子同様相変わらずそっけない茶色一色。これと言った特徴を見出すことはできないのですが~まずは一口。思わず笑ってしまうほどの甘さにイギリス菓子の洗礼を受けます。そして次に気になるのが、甘いけれど、もう一口と食べたくなる軽いその食感。トフィー風ではあるけれど何か違う、、、。これを食しただけで作り方を当てる人がいたとしたらシャーロックホームズも真っ青な名探偵。わたしが推理したらきっとホームズどころかワトソン君の足元にも及ばなかったでしょう。でもお菓子の謎はレシピを見ればすぐに解けるのがいいところ…。

GYPSY TART
<Ingredients>
1(410g)tin evaporated milk
340g dark muscovado sugar
10” Prebaked shortcrust pastry case
<Method>
Preheat the oven to 200℃. Whisk the evaporated milk and sugar together for approximately 10-15minutes until light and fluffy. Pour the mixture into the pastry case. Bake for 15minutes or until just set. Allow to cool and serve cold.

材料は本当にこれだけ☆

材料は本当にこれだけ☆

驚くことに材料はたったの三つ。ショートクラストペストリーの他は、つまりフィリングの材料はなんとevaporated milk(エバミルク)とmuscovado sugar(濃い茶色のお砂糖)のみ!この二つをただひたすら泡立ててふわっとしたら、空焼きしてあるショートクラストペストリーのケースに入れて15分ほど焼くだけというのですから、材料も作り方も唖然とするシンプルさ。卵も粉も一切入らずこれでフィリングが固まるのか、一体どんな味になるのか実はレシピを見ると余計に謎が深まるのがこのジプシータルトなのでした。でも案ずるより生むが易し、実際作ってみると確かに、固まるはずがないと思っていたフィリングもなんとかカットできる程度にふんわりと固まってくれ、お味もとてもエバミルクとお砂糖だけとは思えない甘いけれどコクのある風味に仕上がっているのでした。

童心に戻れる、予想を裏切らない甘さのジプシータルト☆

童心に戻れる、予想を裏切らない甘さのジプシータルト☆

さてお次は、こんな不思議なレシピには付き物の、誕生秘話。生まれは1950年代初頭、戦争は終わったもののいまだ食料配給制度が続くイギリス。ある日一人の夫人が窓の外を見やると、ジプシーの子供たちが遊んでいます。見るからに栄養不良の痩せ細ったその子供たちに何かおやつを食べさせてあげたいと戸棚を開けてみると、そこにあったのはエパミルクの缶が1缶とお砂糖だけ、、、。これで何が出来るかしら?考えたところで、あるのはその二つだけ。とにかくボールに開けてしゃかしゃかかき混ぜ、ペストリーに流して焼いてみたのでした。このお話し自体は後付けではないかとよく言われますが、限られた食料しか手に入らないこの時代、誰かが苦肉の策で作り出したということは強ち間違いではないでしょう。学生時代を1960年代から1970年代のケント州で過ごした人々にとってジプシータルトはイコール「スクールディナー」。そのコスト面と手軽さから給食デザートの大定番だったそうで、ノスタルジックな記憶の詰まった甘~い思い出の味のようです。
英語のEvaporated(=水分を蒸発させて濃縮すること)milkを訳してエバミルク。エパミルクをスーパーで見つけて「ジプシータルトが食べたいな」そんな想像をしてしまったら、あなたはもう完璧なイギリス菓子ホリック☆抜け出すことは相当困難と諦めて、歯もハートも溶ける甘いイギリス菓子の世界にどっぷり浸ってくださいね(^^

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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