第90話 Posset~ポセット~

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<Posset  ポセット>

材料はたった3つ。生クリームとお砂糖、そしてレモン。たったこれだけでちょっとひとに自慢できるほど美味しいデザートを作ることが出来ます。しかも所要時間はものの5分ほど(冷蔵庫で固める時間は除きますが~)。その名は「posset (ポセット)」。温めた生クリームとお砂糖に、レモン果汁を入れて冷やすだけなのですが、レモンの酸の作用で生クリームがちょうどいい具合に固まってくれ、まるでなめらかなレアチーズケーキのようななんとも素敵なデザートに変身するというお役立ちレシピです。

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イギリスプディングの中でもそのシンプルさは群を抜いていますが、シンプルと言うことは昔から存在すると言うこと。その歴史は古く、「マクベス」はじめ「ウィンザーの陽気な女房たち」などシェークスピアの物語にも度々登場するくらいなので、16世紀後半、17世紀にはもうすでにポピュラーな飲み物だったようです。飲み物?そう実は当時のポセットは食べると言うよりは、もっと液体に近い飲み物のような姿でした。温めた牛乳にお砂糖とアルコール(エールやワイン、もっとも人気だったのはSack(サック)というシェリー酒のようなお酒)を加え、凝固(分離)させたもの。もともとは風邪をひいたときや、病人や老人の栄養食として摂られていたものでした。が、その美味しさからか、次第にデザートとして用いられるようになります。一般庶民のポゼットは牛乳にお砂糖とエール、そこにパンで濃度をつけたもの。富裕層のそれは、牛乳は生クリームに代わり、ビスケットや卵、アーモンドなどで濃度を付け、シナモンやメース、王侯貴族になると、ムスクやりゅうぜんこうで香りをつけるという凝りよう。もちろんお砂糖とサックも入ります。その組み合わせる材料により作り方は異なりますが、高級バージョンは、泡立てた卵にお砂糖とサック、スパイスを加え、そこに高いところから温めた生クリームを勢いよく注ぐ、というもの。かき混ぜることはせずに、そのまま火のそばに置いて静かに保温しておき、全体が落ち着いたところでサーブ。上手に作られたポセットは3層に分かれるそうです。一番上部はふわふわと雪のように泡立ち、真ん中はなめらかでスパイスの効いたカスタード状、一番下は濃いアルコールの液体部分とこの三つ。‘ the grace ’ と呼ばれたトップのフォーム状の部分はスプーンですくって口に運び、液体部分はドリンクとして飲むのですが、これを上手に食べるために専用の「ポセットポット」というものが存在しました。主に陶器製のそれは両側にハンドルのついたティーポットのような姿。ただし注ぎ口のように見える部分からは液体を注ぐのではなく、ここに口をつけて直接一番下の液体を飲むという、そんなスタイル。ヴィクトリア&アルバートミュージアムではこのポセットポットのコレクションを見ることが出来ます。

簡単おいしい現代のレモンポゼットにはベリーを入れても◎

簡単おいしい現代のレモンポセットにはベリーを入れても◎

Sack posset とも呼ばれる、このミルクをアルコールで分離させるタイプのポセットが一世を風靡したのは18世紀まで。一度姿を消し、今から100年ほど前に再度現れたときには、サックや卵は材料から消え、現代のレモンなどの酸でクリームを固める食べるタイプのポセットに変わっていました。はじめ、シンプルだからこそ昔から存在し続けているのだろうと思っていたポセット。実は昔のほうがなかなかに手間の掛かるかなり贅沢なデザートだったという、ちょっと珍しいパターンのイギリスプディングなのでありました。このポセットのお仲間には「Syllabub(シラバブ)」はじめ「Junket(ジャンケット)」など、まだまだご紹介したい面々が多数。フールトライフルだけではない、意外と存在する軽いクリーム系のイギリスプディング(デザート)たち。粉好きとしては少々物足りないのですが、ビスケットでも添えつつ、これからもぼちぼちご紹介していきますね☆

 

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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