第91話 Syllabub ~シラバブ~

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okashi


<Syllabub シラバブ>

 

イギリスのコールドプディングシリーズ、本日のお題は「Syllabub(シラバブ)」。このユニークな響きの名前は、当時白ワインの代表的な産地であったフランスはシャンパーニュ地方の村 Sillery の “Sille”と、エリザベス朝頃の俗語で泡立った飲み物(bubbly drink)を意味する “bub”からつけられたと言われるだけあり、生クリームと白ワイン、お砂糖を泡立てて作るふわっとしたデザートです。

白ワインとレモンの香る大人のデザートシラバブ☆

白ワインとレモンの香る大人のデザートシラバブ☆

現代のシラバブは、レモンの皮で風味をつけた白ワインを用いることが多く、大抵スプーンですくって食べる固さのことがほとんどですが、昔のそれは、先ほどbub=泡立った飲み物を意味する、といったとおり、飲み物のような固さ(ゆるさ?)でした。この辺りで、ん?なにか最近似たような話しを聞いたような、、、と思われた方もいらっしゃるでしょう。そう、シラバブが登場したのは16世紀、前回ご紹介したポセットと一緒。そして、ポセットも当時はミルクとアルコールから作る飲むデザートだったはず、、と。ではその当時の両者、どう違うのかというと~ポセットは温めたミルクをアルコールで分離させ、温かい状態で飲むことも多かったのに対し、シラバブは熱を加えないミルクとアルコールを泡立て、寝かせることによって分離させて作る冷たい飲み物という点。1670年Hannah Woolley 著「The Queen–like Closet 」に記載されている~To make a very fine Sillabub と題されたそれは、1クォートのクリームと1.5パイントのワインまたはサック(酒精強化ワインの一種)とレモン汁、それに甘みを加えて泡立て、シラバブポットに入れて12時間静かに置いてからいただきましょう~というもの。そして18世紀に入ると、Whipped Syllabubと呼ばれるものが現れます。こちらは、泡立てた泡を丁寧に目の細かいざるの上に移して一晩水を切ったものをまず準備。甘みをつけたワインを背の高いシラバブグラスに満たし、その上にそっと先ほどの泡を浮かせるというなかなかエレガントなデザート。ただしそのエレガントな泡を作るのに、当時はカバノキの小枝を束ねたものを泡だて器として使用していたため、相当な労力が必要だったようです。当時の発明品の中には、「Syllabub pumping engine」なる、ふいごの先に沢山の穴の開いた管をつけたシラバブ用クリーム泡立器があったくらいですから。その後18世紀後半には、クリームに加えるワインの量が減り、現代のようなホイップしたクリームがボディーとなる食べるタイプがついに登場。これは泡が消えずに形を保つため、「Everlasting syllabub(エバーラスティングシラバブ)」と呼ばれ人気を博します。

現代のものはeverlasting syllabub またはsolid syllabub と言われたタイプ☆

現代のものはeverlasting syllabub またはsolid syllabub と言われたタイプ☆

シラバブと言えば、まことしやかに伝えられているのが、昔はお酒を入れたボールに、牛のお乳を直接シャーシャーと搾り、泡立たせて作っていた、というお話し。チャールズ2世(在位1660~1685)のお気に入りで、いつでもこのシラバブを作れるようにと St. James park に牛を飼っていたと言うのですが、実際これを作ってみた人に言わせれば、ほんの少し泡は出来るけれど、すぐに消えてしまうし、残るのは牛からのちりや埃も入ったような、とても飲めるものじゃないひどい代物だそう。牧歌的で、でもある意味とても贅沢なシラバブ作りの光景をずっと想像していた私はちょっとショック。 Hannah Glasse 著の「The art of cookery made plain and easy」(1747)はじめいくつかの本に載っているこの牛から直接お乳を搾ってシラバブを作る方法。牛がいないなら、搾乳するとき程度の温度のフレッシュな牛乳をティーポットに入れてできるだけ上から注げばいいよ、なんてことまで書いてあるので、すっかり信じていましたが、今は「う~ん」半信半疑。いつか牧場に行って実験できる機会がくるまでそれはきっと謎のまま、、、むしろ事実を知るより、美しい空想のままにとどめておくほうがいいのかもしれません(笑)ワインとレモンの香りがふんわりただよう現代のシラバブのほうが間違いなく美味しいにちがいありませんし。

 

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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