第95話 Custard ~カスタード~

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<Custard カスタード>

甘いものを語るとき、「カスタード」「プディング」この言葉ほどイギリス人と日本人の間にギャップがあるものはないかもしれません。日本で「カスタード」と言ったらそれは、シュークリームなどに詰める濃度のしっかりついたカスタードクリームで、「プディング」といったら、いわゆるキャラメルのかかった「プリン」を想像する人が多いでしょう。どちらもいわばひとつのものを指す単語なわけですが、イギリスで言うところの「カスタード」と「プディング」はいわば「ジャンル」をさす言葉であり、多くのものを包括する単語になります。例えば「プディング」と言ったら、それは「デザート」全般を指すこともあるし、お肉を使ったソーセージなどを指す事もあるのです。そして今日のお題の「カスタード」、これは卵と牛乳を混ぜて加熱して作るもの全般に使われえる言葉。ですから甘いものだけとも限りません、キッシュのフィリングとなるアパレイユもカスタードと言えるし、ブレッド&バタープディング(パンプディング)を作るのにパンを浸す液もカスタード。ちなみにいわゆる「プリン」はちょっとフランス風に「crème caramel(クレームキャラメル)」。こちらは日本同様お皿にひっくり返してキャラメルソースが上になった状態でいただきます。そしてココットなど耐熱の器に卵液を流して焼くだけで、キャラメルなしのものは「Baked custard(ベイクドカスタード)」、そこにお砂糖をふりかけて焦げ目を付けるクレームブリュレ的なタイプが 「Burnt cream(バーントクリーム)」またはそのまま「クレームブリュレ」と呼ばれます(それぞれ牛乳や生クリーム、卵などの割合に違いはありますけれど)。

いわゆるプリンもありますが、こちの呼び名はcrème caramel(クレームキャラメル)☆

いわゆるプリンもありますが、こちの呼び名はcrème caramel(クレームキャラメル)☆

では日本で言うところのシュー生地に詰めるカスタードクリームは~というと、こちらもフランス風に crème patissiere または略して crème pat なんて言ったりします。とにかくこんな感じでややこしいのですが、イギリスで一般に「カスタード」と聞いて、真っ先にみんなが脳裏に浮かべるのは、もっと濃度の少ないソース状の、日本で言うクレームアングレーズ(アングレーズソース)。しかも赤と青と黄色のパッケージに入ったインスタントのカスタードパウダーで作ったもの。それこそが大多数のイギリス人にとっての「カスタード」のイメージ。きちんと手作りされたバニラビーンズの浮かぶカスタードソースは「proper custard (きちんとしたカスタード)」または「homemade custard(手作りのカスタード)」と言って区別したりします。そしてこのカスタードの食べ方がまた日本とイギリスで異なる点。インスタント、手作り問わず、このカスタードを温かい状態で様々なケーキやプディング(デザート)にこれでもかとたっぷりかけていただくのです。そのかける量たるや、初めて見た人はきっと目を丸くするに違いありません。主役のお菓子がまったく見えなくなるほどにかけるのですから。

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黄色いカスタードに埋もれたプディング、かけすぎじゃない?いえいえこれくらいがいいんです(笑)

このインスタントカスタードパウダーが発明されたのは今から約180年も前の1837年のこと。薬剤師でもあったAlfred Bird氏、カスタードが大好きなのに、卵アレルギーで食べることの出来ない奥様Elizabethさんのためになんとかそれらしいものが出来ないかとこのカスタードパウダーを作り上げます。本来奥様のためだけに作ったカスタードパウダーでしたが、たまたまいたお客さんに食べさせたところ、意外や好反応。早速会社を立ち上げ商品として売り出し、Alfred Bird and Sons Ltd. のカスタードパウダーは 瞬く間にイギリス中で大人気となったのでした。実際、メイン原材料はコーンスターチのみで、あとはちょっぴりの香料、アナトー色素というこのパウダー、卵は当然入っていないため、正確にはカスタードとは呼べないものなのですが、牛乳とお砂糖を入れて加熱して出来上がるそれは、見た目はカスタードそっくり。お味はシンプルなミルク味ですが、イギリス流にプディングやパイにかけて食べるには逆にあっさりしていて、慣れるとこれはこれで悪くないものです。コーンスターチ入りなので冷えれば固めになり、トライフルにも使えるし、カスタードカップという手つきの小さなグラスに入れてそれだけで食べることも珍しくはなかったよう。その後、イーストアレルギーでもあった奥様のためにベイキングパウダーも開発したアルフレッド氏、これまた簡単にパンやお菓子が作れると大人気。このベイキングパウダーはじめ、ブラマンジェパウダーやゼリーパウダーなども次々に売り出し、イギリス中の奥様のデザート作りの手間を大幅に軽減したのでした。それからイギリス中が食糧難に喘いだ戦中戦後を経て、General Food CorporationやKraft Foods、Premier Foods など会社の持ち主は変わりつつも、今も変わらず作り続けられているBird’sのカスタードパウダー。たとえ卵で出来た本物のカスタード(アングレーズソース)を作ることが出来ても、これはこれで時折食べたくなるコンフォートフードとして、今もイギリス人の胃と心をホッと和ませています。

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小さなカスタードカップに入れられたカスタード☆ なんとも優しい見た目と味☆この上なくシンプルです、、、

そうそう、ついついカスタードパウダーの話しに夢中になり最後になってしまいましたが 「Custard(カスタード)」の語源についてもお話ししておきましょう。カスタードの語源はフランス語でペストリー(パイやタルト生地)を意味する croustade 。牛乳などの液体に卵を加えて加熱することにより濃度をつけるという調理法は少なくともローマ時代から始まっていたそうですが、今のように火力調節自在のガスコンロやI Hなんて便利なもののないその時代。直火で調理するにはカスタード作りは火力が強すぎて至難の業。そこでカスタードタルトやキッシュのようにペストリー生地(croustade)の中に流して焼くのが基本だったため、この名で呼ばれていたのだとか。食べるためというよりはもとは食品を調理するための調理器具として、あるいは器としての役割がメインだったいうペストリー生地、その後外側のペストリーは使わず中身のカスタードだけ作れるようになっても、名前はそのまま croustade →custard(カスタード)と呼ばれているというわけです。

イギリスのティールームでプディングやパイを頼むと、「(脇に添えるのは)クリームにする、カスタード?それともアイスクリーム?」という質問をよくされますが、寒い冬なら迷わず「カスタード」を選んでみてください。大きなスプーンで温かいカスタードに沈むプディングを食べるとき、シンプルながらも実は奥深いイギリススイーツの深遠を感じることでしょう~☆

 

 

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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