第96話 Cabinet pudding ~キャビネットプディング~

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okashi


<Cabinet pudding キャビネットプディング >

「Cabinet pudding(内閣のプディング)」「Chancellor’s pudding(大臣のプディング)」「Diplomatic pudding(外交官のプディング)」 これらはどれも同じプディングの呼び名。なぜかどれも政治に関係する名前がつけられていますが、特に政府関係の行事の場で供されるものでも、政治家が発案したお菓子という訳でもありません。実際のところどうしてこのような名になったのか確かなことは分かっていない、というのをまずは最初に白状しておいて、今日のキャビネットプディングの説明に入らせていただこうと思います(^^)。cabinet pud 1

キャビネットプディング、聞きなれない名前=今はお目にかからなくなってしまったお菓子ということですが、このプディングがたいそう人気があったのは19世紀ヴィクトリア時代。かれこれ150年以上も前のお菓子と聞くと、また不思議なものがでてくるのではないかと危ぶまれてしまいそうですが、今日のお菓子に関しては今食べてみてもそれほど違和感はないかもしれません。材料は、スポンジケーキとラタフィアビスケット(アーモンドビスケット)、卵に牛乳(または生クリーム)、お砂糖、そしてドレンチェリーやサルタナなどのフルーツ類。安心の、どう混ぜても不味くはならなそうなラインナップ。勘のよい方ならご想像されたかもしれませんが、どちらかというとイギリスプディングのお得意分野、残り物の有効利用的なプディング。以前残り物のパンを利用したブレッドプディングをご紹介しましたが、そのお仲間です。パンの代わりに砕いたケーキやビスケットを型に入れ、上から卵と牛乳、お砂糖を混ぜたカスタード液を流して蒸すというもの。ちょっとリッチなパンプディングスチーム版といったところでしょうか。ですが、立派な名前を持っているように、作るときの型や材料の選び方次第で、ヴィクトリア時代のディナーをゴージャスに〆てくれる、そんなプディングでした。

カットしたスポンジに前もってブランデーをたっぷり含ませることもあります☆

カットしたスポンジに前もってブランデーをたっぷり含ませることもあります☆

では当時を代表する料理書 「Modern Cookery for private families(1845)」を見てみましょう。レシピはふたつ。「A CABINET PUDDING」そして「A VERY FINE CABINET PUDDING」~ノーマルバージョンと、スペシャルバージョンということですね。まずはノーマルバージョンから~プディングベイスンにバターをたっぷり塗り、ドライチェリーとレーズンを貼り付けておきます。スライスしたスポンジ、砕いたラタフィアビスケットとマカルーンをその型に詰め、カスタードを注いで1時間ほど蒸しましょう~というもの。カスタードは卵に牛乳、クリームとお砂糖を混ぜたもの。一方スベシャルバージョンはそのカスタードが大幅にグレードアップしています。卵黄とお砂糖が増えて卵白が減り、牛乳がクリームへ代わり、かつワイングラスいっぱいのブランデーがプラスされます。その上レモンの皮やバニラで香り付けもするというなんとも美味しそうなカスタード液。これをスポンジケーキとビスケットの上に注いで蒸すのですから、美味しくないはずがない。温かいうちにワインソースを添えて供しましょうというこの「ベリーファイン・キャビネットプディング」、いつしか消えてしまったのはそのドレンチェリーなどがのったクラシカルな見た目のせいか、家庭へのオープンの普及により蒸すケーキより焼くケーキのほうが好まれるようになったせいか、いずれにせよ、イギリスのテーブルから姿を消していった古きよき時代のトラディッショナルプディングです。s%e5%9b%b33
このキャビネットプディングが初めて文献に登場したのはWilliam Kitchiner 著の「The Cooks Oracle(1821)」。ここではスポンジの代わりにパンにバターを塗ったものが使用されています。こうなるとこれはまるでブレッド&バタープディングのスチーム版。実はこのキャビネットプディング、ここまでご紹介してきた蒸すタイプ以外にも、時代や場所によって、さまざまなバリエーションが存在します。茹でるものから冷やして作るもの、果てはアイスクリームを使うものまで。名前も前述の政治関連の名前のほかにも「Newcastle pudding」「Ratafia pudding」 なんて呼ばれることもあります。でもその中でも、ヴィクトリア時代「キャビネットプディング」として人気を馳せたのが今日ご紹介した、砂糖漬けのフルーツをまわりに散りばめてあるスチームタイプのもの。ヴィンテージティールームや懐かし系プディングのリバイバルが目覚ましい昨今のイギリス、おひとり様用におしゃれに仕立てられたキャビネットプディングももうどこかのメニューに載っているかもしれませんね。

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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