第99話 Market Drayton gingerbread / Ashbourne gingerbread~マーケットドレイトンジンジャーブレッド/アッシュボーンジンジャーブレッド~

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okashi


<Market Drayton Gingerbread /Ashbourn gingerbread マーケットドレイトンジンジャーブレッド/アッシュボーンジンジャーブレッド >

まず今日ご紹介するのは「Market Drayton gingerbread (マーケットドレイトンジンジャーブレッド)」。Market Drayton とはイングランド西部、ウエールズに接するShropshireの小さなマーケットタウンの名前。ここのジンジャーブレッドはまず見た目から他所のものと全然違います。ケーキタイプかビスケットタイプかといえばビスケットタイプなのですが、細長い棒がくっ付いた様な形。どうしてこの形になったのかは定かではありませんが、想像するに、その食べ方のせいかもしれません。というのも、別名 「Drayton’s dunking delight」とも呼ばれるこのジンジャーブレッドはあるものに浸して(dunking)食べる習慣があったのです。そのあるものとはポートワイン。ジンジャーブレッドを紅茶に浸すのはよくある食べ方ですが、お酒に浸して食べるとはちょっと珍しい。そうまるで、ビンサントに浸して食べるビスコッティ(カントゥッチ)みたいですね。これがその土地の農家の奥様たちの間で人気の食べ方だったと言うのだから、なんだかおしゃれです。ティーカップではなくグラスに浸すのなら細長いこの形が最適、きっとそんなことからこの形になったのかな~と。でももしかしたら逆もありえる?細いからこれに浸してみようかな~なんて。まぁそこは皆さんの想像にお任せするとして。。。

ポートに浸して食べるなかなか洒落たジンジャーブレッド☆

ポートに浸して食べるなかなか洒落たジンジャーブレッド☆

さて、このマーケットドレイトンのジンジャーブレッドが最初に文献に登場するのは1793年。麦芽製造人でもあったRoland Lateward という人物によって作られた、ということになっています。が、文献には残っていなくとも、恐らくもっと古くから存在していたであろうというのが大方の見方。19世紀にはすでに町の名物であったジンジャーブレッド、いくつものベイカリーが各々秘伝のレシピで作っていました。ですが、ここにも時代の波が押し寄せ、町にはただの一軒もジンジャーブレッドを製造するお店はなくなってしまいます。現在このマーケットドレイトンのジンジャーブレッドを作っているのはピークディストリクトを超えて、車で2時間ほどのところにあるBarnsleyの町にあるBillington’s。1817年にMr.ThomasによりMarket DraytonのChurch streetに創業されたこのお店は、その後、Thomasの甥の Mr.W.Harperへ、次はそのいとこのRichard Billingtonへと受け継がれていきます。そこからさらに持ち主は代わり、お店の場所も移動してしまいますが、マーケットドレイトンのジンジャーブレッドは当時のレシピそのままに、キッチンの機械までもそのままに昔の味が守られています。最初に、姿と食べ方が他のジンジャーブレッドと違いますよ~と書きましたが、作り方も独特。まず材料の特徴としてはラム酒が入る点。それ以外は粉に砂糖、少しの卵と他のジンジャーブレッドとそう変わりはないのですが、なんと、生地が完成してから2晩も寝かせなくてはならないのです。これを鉄製の手回しの絞り出し器に入れて搾り出すと、横一列に並んだ4本の星口金から生地がにゅ~っとでてきます。200年前から使われているその機械は今も健在。天板に搾り出した生地はオーブンへ。こんがりいい色に焼かれ、カットしたら出来上がり。ぱきっと折れば、ポートだけでなく、紅茶に浸して食べるのにももちろん最適です。

Marketdrayton gingerbread2

 

ついでにもうひとつ、このMarket Drayton からそう遠くはないところに別のジンジャーブレッドで有名な町があります。Market Drayton からBurnsley への道すがらにあるその町はAshbourne というやはり小さなマーケットタウン。週に2度ほど市の立つマーケットプレイスは古い建物に囲まれ、往時の風情が楽しめます。このマーケットプレイスのすぐそばにあるのが白壁に真っ黒のティンバーの目だって古そうな一軒のお店。「Ashbourne Gingerbread shop」と呼ばれるここは1492年に建てられ、補修されながらも当時の姿を今に伝えてくれる建物。ナポレオン戦争の頃には宿屋として使われており、1805年以降は代々ベイカリーとして使われてきました。言い伝えによると、当時Ashbourneに留置かれていたフランス人の捕虜がベイカリーに故郷のジンジャーブレッドのレシピを教え、それが今のアッシュボーンのジンジャーブレッドとなったのだとか。色は薄めで厚みがあり、バターの香りがするどちらかというとショートブレッドに近いアッシュボーンのジンジャーブレッド。SpencersのOriginal Ashbourne gingerbread が有名でしたが、今そこは大手ベイカリーに持ち主が代わってしまい以前かけてあった可愛らしいジンジャーブレッドの看板も下ろされてしまいました。

アッシュボーンのジンジャーブレッドは消えないでほしいものです☆

アッシュボーンのジンジャーブレッドは消えないでほしいものです☆

カラフルで可愛らしいカップケーキやマカロンが大人気のイギリスで、茶色一色の地味なジンジャーブレッドが生き残っていくのはなかなか大変なようです。
頑張れジンジャーブレッド !!

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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