第109話 College pudding/ New College pudding ~カレッジプディング/ニューカレッジプディング~

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okashi


<College pudding / New College pudding  カレッジプディング/ニューカレッジプディング>

イギリスプディングに興味を持った人が必ずぶつかる「Suet(スエット)」なる謎の材料。日本人にとっては馴染みのないこの食品は牛の腎臓の周りについているケンネ脂のこと。他の部位の脂に比べて良質で香りが少なく、融点も高いので扱いやすく、昔からこれを細かく刻んでパン粉や小麦粉に混ぜてペストリーやケーキのようなものを作ったりと、今のバターのように広く活用されてきました。もちろん当時からバターもありましたが、牛乳から加工しなくてはならないバターより、スエットはずっと安価で手軽な油脂、庶民の味方というわけです。今でこそ、バターや植物性のオイルなどが主流になり、イギリスでもスエットやスエットを使った食品を目にすることは少なくなってしまいましたが、それでもイギリスの大切な食文化のひとつ。スエット抜きにイギリスプディングを語ることは出来ません。このスエットを使ったプディングが最初にイギリスの文献に登場するのが17世紀。ちょうどプディングクロスが発明された時代。プディングクロスとはプディングベイスン(プディングを蒸すための陶器の器)が生まれる前に使われていた、プディングを蒸す(茹でる)ための布のこと。昔は、水で湿らせ粉をふるった布でプディングの生地を包んで巾着のように縛り、お湯を張った鍋にどぼんと吊るして茹でていたのです。それ以前は動物の内臓や腸に詰めて加熱していたのですから、プディングクロスの発明はイギリスプディング史上における大革命。それとスエットの登場とあいまって、イギリスプディングは飛躍的に発展を遂げます。それまで一緒くたに調理されていた、塩味のお肉やお魚などと、フルーツや砂糖を使った甘いものとの区分けがされるようになり、現代見るようなさまざまな甘いプディングが作られるようになります。

プディングベイスンで蒸すタイプのカレッジプディング☆

プディングベイスンで蒸すタイプのカレッジプディング☆

さて、ここでようやく今日のお題、「College pudding(あるいはNew college pudding)」の登場です。これはイギリスのレシピ本に残る、最も古いスエットプディングのひとつとされているもので、オックスフォードやケンブリッジのカレッジホールで学生たちにサーブされていたためこの名がついたといわれています。メインの材料はパン粉にスエット、お砂糖にカランツ、卵に牛乳。バリエーションとして、そこに小麦粉が入るもの、シトラスピールが入るもの、風味付けのナツメグなどのスパイス、シェリーやサックといったお酒が加わるものなどがありますが、どれもそう大きくは変わりません。ただし、なぜかその姿かたちは文献によってさまざま。というのも調理法がいくつかあるから。前述のプディングクロスで包んで茹でるというもの、卵くらいのサイズにまとめてバターで揚げたり、あるいは軽く脂をひいてフライパンで焼くタイプのものも。少し後になるとプディングベイスンに入れて蒸すタイプも現れます。

丸めてフライパンで焼くタイプのカレッジプディング☆

丸めてフライパンで焼くタイプのカレッジプディング☆

いくつか例を見てみると~
Eliza Smithの 「The Compleat Housewife (1737)」に登場するNew College puddings は~古くなったパンを削ったもの、刻んだスエット、ナツメグ、塩、カランツ、卵と、少量のサック(酒精強化ワイン)、お砂糖 を混ぜ合わせて15分ほど置き、それを七面鳥の卵ほどのサイズに丸めてバターを溶かした鍋でこんがりするまで焼きましょう~というもの。
つづいて 有名なBeeton 婦人「Household Management(1861)」のレシピはこんな感じ~

1263 COLLEGE PUDDINGS
Ingredients- 1pint of bread crumbs, 6oz.of finely-chopped suet, 1/4lb. of currants, a few thin slices of candied peel, 3oz.of sugar, 1/4nutmeg, 3 eggs, 4 tablespoonfuls of brandy.
Mode- Put the bread crumbs into a basin; add the suet, currants, candied peel, sugar, and nutmeg, grated, and stir these ingredients until they are thoroughly mixed. Beat up the eggs, moisten the pudding with these and put in the brandy; beat well for a few minutes, then form the mixture into round balls or egg-shaped pieces; fry these in hot butter or lard, letting them stew in it until thoroughly done, and turn them two or three times, till of a fine light brown; drain them on a piece of blotting-paper before the fire; dish and serve with wine sauce.

材料はEliza Smithさんのものとほぼ一緒。パン粉1パイント、細かく刻んだスエット6オンス、カランツ1/4パウンド、砂糖漬けのシトラスピール数スライス、お砂糖3オンス、削ったナツメグ1/4コ分、卵3コ、ブランデー大さじ4。香り付けのブランデーと砂糖漬けのピールが少し加わったくらい。全て混ぜ合わせたら、卵サイズに丸めてバターかラードの中で返しながら、両面こんがり色づくまで揚げ焼きにしてね~という作り方も同じです。

パン粉が入ると小麦粉だけの時より軽い仕上がりに☆

パン粉が入ると小麦粉だけの時より軽い仕上がりに☆

もう少し前のレシピになると、プディングクロスに包んで茹でるタイプ、逆に後のレシピになると、プディングベイスンで蒸すタイプが多いよう。そうそう、New College Pudding のニューカレッジとは新しいカレッジという意味ではなく、1379年創立のオックスフォード大学の歴史あるカレッジのこと。このプディングのお味はご想像どおりシンプルですが、それも飽食の時代に生きる人間にとっての話し。きっと当時のニューカレッジに通う学生さんにとっては人気のプディングだったことは想像に難くありません。頭を使うと糖分も欲しますからね(^^)頭は使わなくとも糖分ばかり欲している人間もここに1名おりますが、、。大学のプディングといえば、以前登場した「Cambridge burnt cream」も思い出すところ、一応同じ時代にあったはずのこのふたつのプディング、一体どちらがより人気だったのでしょう。いつも思うことながら、タイムトリップしてこっそり昔の食堂の様子を覗きに行ってみたい~。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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