<Porter cake / Guinness cake ポーターケーキ/ ギネスケーキ >
イギリスの国民飲料ビール。ワインより、ジンより、ウイスキーより、より身近で親しみやすいアルコール飲料として、イギリス食文化になくてはならないその存在。紀元前よりイギリスで愛されているビール(エール)はもともと麦芽を消化吸収しやすい状態にした体に良い飲み物として、女性や子供たちも飲んでいたもの。家庭で作られるそれはアルコール度数も低く、水代わりの安全な飲み物で、15世紀以前はホップも入っておらず、今のビールとは味、ポジションとも大分違うものだったようです。その後ピューリタンによる飲酒抑制や、悪名高いジンの大流行などの逆風に耐え、昨今のワインブームに圧されつつも、ビールは今なおイギリスにとって必要不可欠な飲み物であり続けています。なんでもかのエリザベス一世も、朝から1リットルのエールを飲んでいたとか。。。
毎日水の代わりに飲むくらいですから、当然エールは日々の料理にも使われます。今でもパブ料理の定番といえば、牛肉のエール煮をパイで包んだ「ビーフ&エールパイ」ははずせませんし、イギリス料理の代名詞ともいえる「フィッシュ&チップス」だって、衣にビールを使うビアバッターはさくさくで危険な美味しさ。ということはビール(エール)を使うお菓子だってきっとあるはず、と思われたあなた、そのとおり!ブランデーを塗りつつ熟成させるクリスマスケーキのお話しは以前しましたが、今日はビールを使ったお菓子のご紹介です。
下面発酵で軽い味わいのラガー中心の日本のビールと違い、イギリスでは上面発酵で色も味わいも濃いエールが中心。その中でも濃厚で苦味の強いPorter(ポーター)は1722年、ロンドンで初めて販売され急速に広まります。ロンドンのポーター(荷物運び人)の間で特に人気だったことからこの名がついたとか。「Porter cake(ポーターケーキ)」はその名のとおり、このポーターを使って作るケーキ。やはりクリスマスケーキ然り、ドライフルーツもたっぷり入れて、焼きあがってから数日寝かせることで熟成がすすみ、より美味しくなるタイプのケーキです。作り方は簡単。お鍋にバターとドライフルーツ、お砂糖にポーターを入れて火にかけます。全てが溶け合ったら、少々冷まし、そこに卵や小麦粉などを入れて混ぜるだけ。型に入れたら低温のオーブンでじっくりじっくり焼いてあげれば完成.。あとは時がケーキに「美味しくな~れ」と魔法をかけてくれますから。たっぷり加えるポーターの苦味が味に奥行きを与え、ナチュラルな保存性&熟成効果をもたらしてくれるよく出来たケーキです。
ロンドンで生まれ人気を博したポーターですが、これを真似して、イギリスのほかの地域でも多くのメーカーがポーターを作り始めます。ヴィクトリア時代初期、味やアルコール強めのポーターは「Extra porter」、「Double porter」あるいは「Stout porter」などと呼ばれていましたが、のちにそれが縮められ単にStout (スタウト)と呼ばれるようになります。このスタウトの代名詞的存在がアイルランドGuinness 社のギネス。褐色を通り越し、ほぼ真っ黒なスタウトにクリーミーな泡がのったそれは日本でもすっかりおなじみですね。このギネスを使ったケーキも実はイギリスではよく見かけるケーキのひとつ。大抵はスポンジ部分にココアを加え、クリームチーズのフロスティングというのが定番です。普通のスポンジ状のケーキから考えると、かなりたっぷりの液体(ギネス)を加えるのですが、その炭酸の持つ効果もあるのか重くならず、ふんわりしっとり美味しいケーキに焼きあがります。いわれればなるほど、ほのかに残る苦味はココアからだけのものではありません。大人っぽいチョコレートケーキとして、人気なのもうなずけます。ポーターケーキのようにトラディッショナルなイギリスケーキというよりは、カフェなどで好まれる、今どきケーキの顔はしていますが、飽きのこない魅力があるギネスケーキ。
わたしも時折思い出したように作りますが、一瓶あけると中途半端に残るギネス。焼き上がりを待ちながら飲んでしまおうか、あとでしっかりデコレーションまで終えたケーキと一緒に飲むのもありかも、なんてどうでもいい悩ましい問題にいつも葛藤するのでした(笑)。
皆さんもイギリスのカフェでこのケーキに遭遇したら、「え~あの黒いビールの入ったケーキでしょ、なんか苦そう~」なんて思わずどうぞ一度試してみてください。きっとお気に召されると思いますよ☆