<Raspberry buns/ Empire biscuits ~ラズベリーバンズ /エンパイアビスケット~ >
スコットランドはイギリスきってのビスケット王国。ご存知ショートブレッドにタンノックのティーケーキ、アバネシービスケットにパーリーズ、それにダイジェスティブビスケットなどなど、スコットランド生まれのビスケットは数え上げたらキリがないほど。温かいミルクティーのお供に欠かせないビスケット。寒い土地だから余計にみんな、ティータイムを充実させるべく、せっせと美味しいビスケットを生み出したとか?そう言えばスコットランド女王Mary Stuart(1542-1587)は大のビスケット好きだったことで有名ですから、きっとスコットランド人のDNAには遠い昔から、ビスケット好き&ビスケットへの探究心が組みこまれているのでしょう。今日はそんなスコットランドのビスケットをもう少しご紹介。
一つ目は「Raspberry buns(ラズベリーバンズ)」。バンとはいうものの、イーストを使うパンではなく、ビスケットの一種。一見プレーンなちょっと大きめのビスケットのようにも見えますが、半分に割ると、中にラズベリージャムがひそんでいます。スコーンよりは甘く、でもショートブレッドほどリッチではない、強いて例えればロックケーキのような生地。「地味なビスケットね、、」なんて思いながら一口かじると中から赤いジャムが顔を出すなんて、なんとも嬉しいサプライズですね。なんでも第二次世界大戦の食糧配給制度の下、限られた材料で美味しいおやつが作れるということで、一気にスコットランドで人気が広まったのだとか。ちなみにスコットランドはラズベリーの産地としても有名です。
さて、もうひとつラズベリージャムを使うスコットランドで人気のビスケットが「Empire biscuits (エンパイアビスケット)」。薄いショートブレッドの間にラズベリージャムをサンド。アイシングとドレンチェリーでデコレーションを施したビスケット。何ともたいそうな名前ですが、もともとは「Linzer Biscuits(リンツ地方のビスケット)」「Deutsche Biscuits(ドイツビスケット)」なんて名前で呼ばれていたもの。それが第一次世界大戦勃発後、このいかにもドイツ的な名前は嫌われ、愛国心そそる「エンパイア(大英帝国)ビスケット」といつの間にか呼ばれるように。似たイメージで「Imperial biscuits(インペリアルビスケット)」なんて呼び名もあります。
この頃は王室ですらも(王室だからこそ?)国民感情を考慮し、ジョージ5世(在位1910-36)はドイツ風のSaxe-Coburg-Gotha家改め、Windsor家と改称するなどしていた時代。それは国民もおやつにビスケット食べるとき、「このドイツビスケット美味しいね!」なんて言いたくなかったのもまぁ仕方のないこと。さすがにドイツと仲良しに戻った現代はまた「German biscuits(ジャーマンビスケット)」と呼ばれることもありますが、エンパイアビスケットの名がほぼ主流。わたしとしても、ショートブレッドにラズベリージャム、アイシングにチェリーといういかにもイギリス的なパーツを集めたビスケットですから、やはりジャーマンよりは「エンパイア」の名で、イギリス菓子の持つノスタルジックな魅力を存分に発揮し続けて欲しいななんて思うのでした。
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