第120話 Selkirk Bannock ~セルカークバノック~

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okashi


<Selkirk Bannock セルカークバノック>

Selkirk (セルカーク)はScottish Bordersの小さな町の名前。あの毛織物の「ツイード」の語源となったツイード川流域の土地らしく、今もツイードや、タータンの織物工場などが多くあることでも知られています。ツイードもタータンもいかにもスコットランドらしくて気になるところではありますが、衣食住ならぬ、「食住衣」のわたしがそれよりさらに気になってしまうのは名物「Selkirk Bannock(セルカークバノック)」。

Dalgetty & Sons のものが一番有名です☆

Dalgetty & Sons のものが一番有名です☆

 

「バノック」とはスコットランドで昔から食べられてきた、パン種の入らない平焼きのパンのこと。小麦粉の代わりに挽いたオーツ麦を使うことも多く、グリドルと呼ばれる鉄板を直火で熱して焼くため、普通のイースト入りのフワフワのパンとは違いどっしりとした噛み応えのあるものが基本形。そこからさまざまなバリエーションが派生しているのですが、今日ご紹介するバノックはちょっと変り種、かつもっとも現代も食べられているであろうバノック、Selkirk Bannockです。どう変わっているのかと言うと、まずイースト入りでふんわり。グリドルではなくオーブンで焼成。サルタナや時にはミックスピール、バターやラードなどの油脂類も入り、まるでそれはリッチなレーズンパンのよう。大きめのティーケーキのようでもあります。これはスコットランドまで行かずとも、イングランドでもスーパーで袋入りのものをたまに見かけることがあるほど普及しています。このセルカークバノックを一躍有名にしたのが、Selkirkから南に9マイルほど離れたHawickの町でベイカリーを営んでいたRobert Douglas 氏。1859年、彼がセルカークのマーケットでこのバノックを売り出したところ、そのリッチなおいしさが評判になりたちまちセルカークの名物に。そして当時彼の元で働いていたAlex Dalgetty がセルカークから5マイルほど北にあるGalashielsの町にそのレシピを携えて新しいベイカリーをオープンします。それが1890年代のこと。それから5世代、「Alex Dalgetty &Sons」ではオリジナルのレシピを受け継ぎ、今もなお当時のままの製法、当時のままの鉄製の大きなオーブンでセルカークバノックを焼いています。Alex Dalgetty &Sons のポリシーは最良の材料を使い伝統的な製法を守ること。Famous Original Selkirk Bannock という商品名にその誇りが現れています。

ふんわりリッチなレーズンパンのよう、バターをたっぷり塗っていただきます☆

ふんわりリッチなレーズンパンのよう、バターをたっぷり塗っていただきます☆

このセルカークバノックを有名にしたのはRobert Douglas 氏だけではありません。時のヴィクトリア女王もそのひとり。1867年のある日、AbbotsfordにあるSir Walter Scottの孫娘、Charlotte Hope –Scottの家を訪ねたヴィクトリア女王(正確にはシャーロットは1858年になくなってしまったため、女王にお茶を淹れて差し上げる栄誉にあずかったのはその夫Jamesと二番目の妻Lady Victoria Alexandrinaでしたが)、豪華にしつらえられたお茶の席で数あるお茶菓子の中から唯一女王が召し上がったのがセルカークバノックだったというのです。この噂はセルカークバノックの人気をさらに確固たるものにし、スコットランド南部のみならず、スコットランド中、ひいてはイギリス中にその名が知られるようになったのでした。それから150年、今も愛されつづけるスコットランドの味。波のように寄せてはあっという間に消えていく日本の流行もののお菓子とは随分違いますね。

一晩かけてゆっくり発酵される伝統的な製法のセルカークバノック。ちょっぴりお腹がすいた午後、おいしい紅茶と共にバターをたっぷり塗っていただけば、スナック菓子とコーラでは味わえないゆったりとした満足感が得られること間違いなしです。

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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