<Bannock バノック>
「バノック」とはなんぞや? 基本形はイーストを加えない大きな円形の平焼きのパンのようなもののこと。スコットランドやイギリス北部を訪れればその言葉を耳にすることもありますが、他の地域ではほとんど巡り合うことはありません。そして、スコットランドで出会うバノックも地域によってさまざま。基本の平焼きパン形状のこともあれば、スコーンやビスケット状のこともあるし、ホットケーキのようゆるい生地で作るドロップスコーンのような姿のことも。材料の穀類は小麦粉だったり、オーツ(カラスムギ)だったり、そのミックスだったりとこれまた多様。そこに加える油脂はバターの他に、ベーコンの脂やラード、ドリッピングのことも。粉を生地にするために必要な水分は水か牛乳はたまたバターミルク。とにかくこれらを混ぜ合わせ、グリドルと呼ばれる鉄板を直火に置いた上で焼くのです。今は食感を軽くするために、大抵ベーキングパウダーか重曹が加えられますが、それら膨張剤が発明されるその前は、想像に難からず、非常に重い食感のものでした。現在のバノックも、普通のパンに比べると相当ずっしりしたものではありますが、、、。
スコットランドやイギリス北部と言えば、その冷涼な気候から小麦粉の栽培が難しく、主食がオーツだったということは以前「オーツケーキ」のときにもチラッとお話ししましたが、オーツが作られるようになる以前は、あるいはオーツや小麦が手に入るようになってからも、貧しい層の人々のバノックの材料は主にバーリー(大麦)でした。そしてバーリーよりさらに遡ると、スコットランドで育てられていたのはBere(ベア) と呼ばれる六条大麦。現在スコットランド本島ではほとんど作られていませんが、春に種をまけば夏には収穫できるベアは、イギリスで最も早く栽培された穀物なんだとか。このベアをイギリスに持ち込んだのは8世紀から9世紀にかけて多く流入した北欧からのヴァイキング。Bere という語もbarley(バーリー)を意味する古ノルド語Byggから来ていると言われています。今もオークニー諸島ではこのベアが栽培されており、「Beremeal bannock(ベアミールバノック)」と呼ばれるバノックが作られています。ベアに小麦粉と塩、牛乳(または水)、重曹を加えて作る丸く平たいそれは地域地域でそれぞれに発達していったバノックの原型に近いものなのかも知れませんね。
とにかく種類の多いバノック、乾燥させて挽いた豆を使う「Pease bannock」やスコットランドの西の海に浮かぶBarra島ではオートミールとタラの内臓入りのCod liver bannockなんてものもあります。またシーズンごとのお祭りの際には特別なバノックが作られていました。春にはSt. Bride’s bannock、夏にはBealtaine bannock、 秋には Lammas bannockといった具合。またもちろんスコットランドで一番大きなイベント、ホグマニー(年越しのお祭り)の際に食べるバノックもあります。この「Hogmaney bannock」にはオーツとキャラウェイシードが入っており、大きく焼いて切り分けることの多いふつうのバノックと違い、中央に穴の開いた小さなタイプ。朝、子供たち一人ひとりに渡され、厄除けにそれを全部食べきらないといけないと言う慣わしがあったのだとか。いろいろな迷信をもつホグマニーバノックですが、焼いている途中にあるバノックが壊れたり欠けたりしてしまったら、それはそのバノック食べるはずだった子の病気あるいは死を意味するなんて、怖いものまで、、、、。
一つ一つとりあげているときりのないバノック、最後にもうひとつ、以前ご紹介したセルカークバノックと同じくらい異色のバノックをご紹介したいと思います。それが 「Pitcaithly bannock」と呼ばれるもの。これはもはやバノックと言うよりはショートブレッドのお仲間。小麦粉と米粉、お砂糖にバター、刻んだアーモンドにシトラスピールが入り、ペチコートテイルショートブレッドのように大きな円形にして焼き上げます。お味のほうも非常においしいショートブレッドそのもの。これはスコットランドのエディンバラの北40マイルくらいの所にある小さな村Pitkeathly Well (Pitcaithly)に源があるのだとか。
あまりに派生形が多すぎてここまで書いてきて、結局バノックとはなんぞや?と言われそう。要はスコットランドで主食代わりに長い間食べられてきた「粉に水分を加えてまとめ、鉄板で焼いたもの」、ということで今日のところはご勘弁を。。。
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