第123話 Bridie/ Scotch pie~ブリーディー/スコッチパイ~

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okashi


<Bridie/Scotch pie ブリーディー/スコッチパイ>

たらりたらりと続いているこの「イギリスおかし百科」、タイトル的には「お菓子」に集中しなくてはいけないところですが、実際のところ内容的には「イギリス粉もの百科」あるいは「イギリスおやつ百科」。前回のバノックに引き続き、今回ご紹介するのも、またもや甘くないスコットランドの名物粉もの、「Bridie(ブリーディー)」 と 「Scotch pie(スコッチパイ)」 の二品についてです。ざっくり言ってしまうとどちらもミートパイの一種。形からご想像のとおり、ブリーディーはコーニッシュパスティーに、スコッチパイはポークパイに近い作り。

半円形のセイボリーパイ「ブリーディー」

半円形のセイボリーパイ「ブリーディー」

まずはブリーディーから。半円形のペストリーの中身は塩こしょう、スパイスで味付けされた牛ひき肉、あとは玉ねぎが入ることもあります。ペストリーはスコットランド全体としてはパフペストリー(層のできるパイ生地)が人気ですが、このパイの生まれ故郷Forfarの町ではショートクラストペストリー派が依然優勢。そう、このブリーディーは別名「Forfar bridie (フォファーブリーディー)」。ForfarとはスコットランドはAngusにある町の名前、マーマレードで有名なダンディーから車で北に30分ほど向かった辺りです。Bridieという名前の由来には二つの説があります。縁起の良い馬蹄形をしたこのパイはこの町の結婚披露宴でよく供されたためthe Bride’s meal からBridie と名付けられたという説。もうひとつは、近隣のGlamisという町出身のMargaret Bridieさんがフォファーのマーケットでこのパイを売っていたからという説。その年代は18世紀とも、19世紀初頭とも言われていますが、いずれにせよForfarの町では長きにわたり定番のサタデーランチとして、また手軽に食べられるファストフードとして愛されてきた名物です。このForfarの町の近くに、以前ジンジャーブレッド話しの時に登場した Kirriemuirの町があるのですが、ここ出身のJ.M.Barrie氏(「ピーターパン」の作者)もブリーディーに親しんでいたようで、「Sentimental Tommy(1896)」の中にもこんなシーンがあります。” She nibbled dreamily at a hot sweet-smelling bridie, whose gravy oozed deliciously through a burst paper-bag.(おいしそうにしたたるグレイビーでやぶけた紙袋、彼女はいい匂いを漂わせるほかほかのブリーディーを夢見心地でかじっていました)“。コーニッシュパスティーとは似て非なるこのブリーディー、一番の違いは、お肉のほかに入れることが許される野菜が玉ねぎだけという点。じゃが芋などは決して入りません。この伝統的なフォファーブリーディーを守るために現在PGI(Protected Geographical Indication:EUの規定する地理的表示保護)の申請中なのだとか。もし受理されればイギリスのこの種のものとしては、コーニッシュパスティー、メルトンモーブレイのポークパイと並んでその品質や製法、伝統が保護されるべきミート系パイとなるわけです。

グラスゴーで見かけたそれは Glasgow Bridie の名で売られていました☆

グラスゴーで見かけたそれは Glasgow Bridie の名で売られていました☆

このブリーディーと並んでスコットランドを代表するファストフード系セイボリーパイが「Scotch Pie(スコッチパイ)」。こちらは一見、イギリス中で食べられているポークパイととても似ているようにも見えます。確かに周りのペストリーはホットウォータークラストペストリーと言って、お水とラードを熱々に溶かしたものを小麦粉に入れて練って作るしっかりした生地というのは一緒。そして中身がお肉というのも一緒。ですが、それ以外は結構違います。ポークパイはその中身はもちろん豚肉。でもスコッチパイは別名「Mutton pie(マトンパイ)」と呼ばれることもあるように、本来は羊のお肉。ラムではなく、羊というところからも想像できるように、産業革命の頃から人気の出た労働者のための安価で栄養豊富、そして素早く食べられるというパイでした。現在はマトンよりは牛肉が使われることが多く、味付けはたっぷりのこしょうとスパイス。そのお店独自のご自慢の配合があります。直径は約8cmくらい、ほんの少し蓋の部分が縁より下がっているのが特徴。ファストフードなのでもちろんそのまま食べることも多いのですが、お店などで食べるときはそのくぼみに温かいグレイビーやベイクドビーンズ、グリーンピースなど温かいトッピングをたっぷりのせてサーブできるようになっているわけです。

欲張ってフィリングを詰めすぎたスコッチパイ☆不恰好だけれどご愛嬌☆

欲張ってフィリングを詰めすぎたスコッチパイ☆不恰好だけれどご愛嬌☆

さて、ここでもうひとつ、ポークパイとの大きな違いがでてきました。ポークパイは、別名「ピクニックパイ」とも呼ばれるように、冷たいまま食べるもの。ペストリーとフィリングのお肉とのギャップを埋めるようにゼラチンで固めたコンソメが入っているので温めてはいけません。一方スコッチパイは基本温めて食べるホットフード。ポークパイがピクニックの時に食べるパイなら、対するスコッチパイはサッカーを観戦しながら食べるパイ。別名「フットボールパイ」なんて呼ばれたりします。ホットドッグでもバーガーでもなくスコットランドでサッカーを応援しながら食べるのはスコッチパイ。Bovril(ボブリル)というどろどろのインスタントビーフブイヨンをお湯で割ったものとの組み合わせが最高に通な(?)食べ方なのだとか。もちろんスコットランド人のスコッチパイ愛はフットボールファンだけにとどまりません。「ワールドスコッチパイチャンピオンシップ」なるものが毎年開かれており、2018年1月の大会でもう19回目。お肉屋さんやベイカリー、パイ専門店などが腕を競います。ブリーディーとちがい、フィリングは玉ねぎすら入らない純粋にお肉だけのスコッチパイ部門。他に入れていいのはお水とストック、パン粉など少々のつなぎのみ。お肉は牛かマトンかラムあるいはそれらのミックスと決められています。これはやはりスパイスの調合がかなり重要。生肉を味見するのはどうもね、、、と適当に味付けするわたしの場合、出来上がりの味が毎回ばらばらなのですが、きっとチャンピオンのスコッチパイは絶妙なスパイス加減なのでしょう。ポークパイしかり、下味を付けたらちょっとだけフライパンで焼いて味見すればいいのよというけれど、そのひと手間が、面倒くさがりには出来ないのです。。。

さて、ここまで書いてきて、、、スコッチパイと比較するのに、「ポークパイ、ポークパイ」と連呼していましたが、そう言えばまだ有名なMelton Mowbrayのポークパイの話しをしていませんでしたね。これは次回も引き続きお菓子百科ならぬ、「イギリス粉もの百科」になりそうです。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/

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