第134話 Norfolk shortcakes / Norfolk scones~ノーフォークショートケーキ/ノーフォークスコーン~

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イギリスおかし百科


<Norfolk shortcakes/ Norfolk scones ノーフォークショートケーキ/ノーフォークスコーン>

今日の話題も引き続きノーフォークのお菓子。その中でも、ティールームで名前だけ見てオーダーすると、きっと想像と違うものがでてくる紛らわしい名前を持ったお菓子について。前話のノーフォークトリークルタルトも一般的なトリークルタルトとは大分違うものでしたが、ノーフォークのとあるティールームで見かけて「独特だなぁ」 と思ったのが「Norfolk shortcake(ノーフォークショートケーキ)」なるもの。見かけは大きな正方形の平べったいスコーンのような物体。これがショートケーキ?

ラーディーケーキより軽く、スコーンよりはしっかりしたノーフォークショートケーキ☆

ラーディーケーキより軽く、スコーンよりはしっかりしたノーフォークショートケーキ☆

ショートブレッドのショート同様、Shortはさくさく脆い食感のこと。なのでイギリスでは「ショートケーキ」というと、一般的にはスーパーで売っている「ショートケーキビスケット」とも呼ばれるとってもプレーンなビスケットを指します。詰め合わせビスケットの中で、チョコがけビスケットやジャムサンドビスケットが先になくなったあと、最後まで残っちゃうようなそんなとってもシンプルなビスケット。これは大抵どこのメーカーのものも長方形で、カランツ入りのフルーツショートケーキは丸型でフリフリのふち。もうひとタイプはショートブレッドのようなバターたっぷりのリッチなビスケット、あるいはやはりバター多めのリッチなスコーンのような生地で生クリームといちごをサンドした「ストロベリーショートケーキ」を指すことも。いずれ日本のフワフワスポンジ&生クリームのショートケーキとは似ても似つかないものなのですが、このノーフォークショートケーキはそのどちらとも違う姿。

プレーンなビスケットタイプのショートケーキと、いちごサンドのストロベリーショートケーキ☆

プレーンなビスケットタイプのショートケーキと、いちごサンドのストロベリーショートケーキ☆

不思議だったのでその日は買って帰り作り方を調べてみたら、それはイースト生地の代わりに、ベーキングパウダーをつかったラーディーケーキのようなもの。小麦粉の半分の量のラードを準備したら、そのうちの半量をrub in(スコーンを作るときのように粉とバターをぽろぽろのパン粉状にすること)、お水や牛乳でひとまとまりにしたら、長方形に延ばし、そこに残りのラードの1/3とお砂糖とカランツをふり広げ、折り込み、またのばして、1/3量のラードとお砂糖、カランツを折り込んで・・・と繰り返して生地の完成。これを四角にカットして焼いたもの。ショートケーキというよりは、やはりスコーンとラーディーケーキの中間というのが一番近い表現。ヘルシー志向の現代ではラードではなく、バターで作ることも多いようですが、もともとは残り物のペストリーにラードを塗って、少しのお砂糖とドライフルーツを加えて焼いた、経済的おやつが始まりだとか。毎回そんな話しばかり書いているような気もしますが~伝統的といわれるイギリスのお菓子を俯瞰してみると、2タイプに大別できる気がします。身近な材料でささっと作れる飾り気のない質実なタイプと、乳製品や卵などをたっぷり使い、手間隙かけて作る贅沢なタイプ。前者は大抵、家庭で、あるいは一般庶民向けのベイカリーなどで日々の糧としてずっと作られ続けてきたもの。後者は王侯貴族や富裕層の間で贅沢を満喫するための、時には富を誇示することもできる嗜好品で、時代と共に流行り廃りがあるもの。今日のノーフォークショートケーキは典型的な前者。このタイプは大抵貴重な食料を無駄にしないための庶民の知恵と工夫の産物で、昔のレシピ本などに登場することも少なく、豊かになった現代、一度途絶えてしまうと本当に跡形もなく消えてしまいそう。いくらベイキングブームのイギリスとは言え、大抵はセレブリティーシェフのテレビ番組や人気料理家のレシピ本にならったり、今どきのヘルシーなお菓子が人気で、昔ながらの質素ながら効率よくエネルギー補給もできますよ的な家庭のお菓子が生き残る確立が増えたわけでもないようですし。

バターとスパイス香るフィリングがおいしいノーフォークスコーン☆

バターとスパイス香るフィリングがおいしいノーフォークスコーン☆

「Norfolk scone(ノーフォークスコーン)」もそんな消えそうなお菓子のひとつ。これもやはり名前から想像するのとは少々違う姿。楔形にカットされたそれは、巨大エクルスケーキのように、ドライフルーツがたっぷり中に入っています。作り方はこんな感じ~スコーンの生地を二つに分け、1.5cm位の厚さに丸くのばしたら、その上に柔らかくしたバターを塗り広げ、カランツなどのたっぷりのドライフルーツをのせます。そして、ミックススパイスとデメララシュガーをその上にふりかけ、もう一枚のスコーン生地をサンドするようにのせて切り目を入れてから焼き上げます。焼きたてホカホカにバターやクロテッドクリームを添えても絶品ですが、冷めたものをそのまま食べても、生地の内側にバターやお砂糖がジュワっと染み込んでいるのでとっても美味。1970年代くらいまでのレシピ本には時折り載っているのですが、最近のレシピ本ではとんと見かけないので、Norfolkでも今食べさせてくれるお店があるのかどうか、、、。

新しいものが登場し、古いものが消えるのは世の常、仕方のないことですが、今の時代、どんな地方に行っても都会と同じものが同じように買える便利さと引き換えに、その地方ならではの風土を生かした食文化が徐々に薄れていってしまうのはちょっぴり寂しいことでもあります。

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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