第144話 Manchester tart(pudding)~マンチェスタータルト(プディング)~

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okashi


いやはや、長らくお休みしてしまいましたが、本日よりまたぼちぼち「おかし百科」復活いたします(笑)

そして、これまでのお話しを、お菓子の種類でジャンル分けし、多少分かりやすく加筆修正したものが明日ソーテック社より「イギリスお菓子百科~128 Stories of British cakes, puddings and biscuits」 として出版されることになりました。読み応えたっぷり、イギリス菓子たっぷりの本に仕上がっていますので、イギリスお菓子ファンの方なら楽しんでいただけるかなと思います。気が向いたらお手に取ってみてくださいませ☆
では久々に~新たな古いイギリス菓子の旅へ、、、

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<Manchester tart/ Manchester pudding マンチェスタータルト/マンチェスタープディング>

 

今日のお題は「マンチェスタータルト」。イングランド北西部出身者に聞くと懐かしがる、でも他の地方出身者は「そんなタルト聞いたこともないよ」という地方菓子。

マンチェスターといえば、リバプールやバーミンガムと並んで、子供のころ社会科の教科書によく登場した都市の名前。何か甘いものにつながる特産物はあったかしら?綿織物に産業革命、北大西洋海流のおかげで緯度のわりに比較的温暖、そんな子供のころに刷り込まれた社会科の知識はここではどうも役に立たなそうなので、さっそく姿を見てみましょう。

ぷりんと固めのカスタードがよくあるタイプ☆

ぷりんと固めのカスタードがよくあるタイプ☆

 

ベースはショートクラストペストリー。底にはラズベリージャムが塗られ、固めのカスタードがたっぷり詰まっています。その上に白いにココナッツが振りかけられ、中央には真っ赤なドレンチェリーというのがお決まりスタイル。切り分けるタイプの大きなサイズの時もあれば、小さなおひとり様タルトレットサイズも存在しますが、ちょっとわざとらしい黄色と白と赤の一見チープな(失礼!)姿が特徴的なタルトです。
マンチェスター周辺では、1950年代から80年にかけてスクールディナーの定番デザートとして、大活躍したものの、その後ぱたっと姿を消してしまったため、しばらくノスタルジックな思い出とともに語られるのみのお菓子でした。が、近年リバイバルを遂げ、巷のベイカリーやスーパーなどでも見かけるようになりました。

お味はインスタントカスタードをたっぷり使ったコーンスターチのぷりんと感が否めないお安い味のものから、カスタードもペストリーもしっかり手作りした上品な味のものまで、今は千差万別、当たり外れあり、といった感じ。でも個人的には、たまにならチープバージョンも実はそんなに嫌いじゃなかったりします(笑)。また、このマンチェスタータルト、ラズベリージャムの上に、薄切りのバナナが入っていることがあるのですが、マンチェスター最古参ベイカリーRobinsons によると、それはマンチェスタータルトではなく、Salford(マンチェスター中心部から1マイルほど西にある町) バージョンの「サルフォードタルト」だよ、とのこと。

大きめタイプでもチェリーは一つ☆争奪戦になりそうですね(笑)

大きめタイプでもチェリーは一つ☆争奪戦になりそうですね(笑)

さて、このマンチェスタータルトはいったいいつごろから食べられているのでしょう?ココナッツにドレンチェリーという、ちょっぴり昭和感の否めない容姿から、あまり古いものではなさそうと、勝手に想像してしまいますが、生まれをたどってみると、行きつくのはなぜかマンチェスターではなく、19世紀のロンドン。あの有名なビートン夫人の「House hold management(1861)」です。ここに登場する「Manchester pudding(マンチェスタープディング)」が、マンチェスタータルトの元となるもの、と言われています。ただし、こちらは現代版マンチェスタータルトとは少々趣が異なります。

材料の筆頭に上がるのは3オンスのパン粉、そして½パイントの牛乳に、レモンの皮と続きます。ココナッツもチェリーも登場しません。作り方を見てみると~レモンの皮で香りをつけた牛乳にパン粉を入れて2~3分煮ます。そこに2オンスのバター、全卵2個、卵黄2個、好みの量のお砂糖とブランデー大さじ3を加えてフィリングの準備はOK。パフペストリー(パイ生地)を敷いた型に好みのジャムを塗り広げ、先ほどの冷めたフィリングを流して1時間焼けば完成。冷たくしてお砂糖をふっていただきましょう~とのこと。
はて、どこかで見たような、、、そう、ここにメレンゲをのせて焼いたら、まさにクィーンオブプディングのタルト版。そして、古いマンチェスタータルトにはこのメレンゲをのせて焼くタイプも実は存在するのです。なんでもヴィクトリア女王がマンチェスターを訪れる際、シンプルすぎるタルトを豪華に見せるために付け加えられたという説も。ビートン夫人のレシピでも、卵白が二つ余ってしまいますから、メレンゲにしてのせたくなる気持ちもよく分かります。

ビートン夫人レシピそのままに作ったマンチェスタープディングは意外と美味☆

ビートン夫人のレシピそのままに作ったマンチェスタープディングは意外と美味☆

ただ、いずれにせよ、現代のマンチェスタータルトとはずいぶん姿が違うもの。いつの間にフィリングからパン粉が取り除かれ、ココナッツとチェリーでおめかし、というスタイルになったのか、、、。考えてみれば、マンチェスタープディングのリバイバル直前は戦後の厳しい食糧配給時代。卵が何より貴重品だったその時代、インスタントのカスタードパウダー(あるいはコーンスターチ)を使えば現代バージョンのマンチェスタータルトは卵なしで、しかもバターもパンもなしで作れるわけですから、ある意味とってもエコノミー。身近で手に入るもので、マンチェスタータルトを作ろう!とトライした結果の変身なのかもしれませんね。

ちょっとした地方菓子ブームの昨今のイギリス、たまにこんなところで?と意外な場所で意外な地方菓子に出会えることもありますので、ベイカリーなどを訪れる際は、黄色(カスタード)+白(ココナッツ)+赤(チェリー)の3色タルトを見つけたら、それはマンチェスタータルトかも。美味しいほうか、はたまたそうでもないほうかは神のみぞ知る、ですが折角ですから是非お試しを(笑)

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本 「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版

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