<Party rings /Iced gems/ Pink wafers パーティーリング/アイストジェム//ピンクウエファー>
イギリスのティータイムに欠かせないビスケット。イギリス人のビスケット愛はネス湖より深く、ロンドン塔に煌めくカリナンより堅いことは有名ですが、その愛情は当然子供の頃から育まれます。ただ、そこはお子様。ダイジェスティブビスケットやホブノブなど、シンプルな見かけより味の好みやヘルシーさなどを重視する大人と違い、まず心惹かれるのは純真にその見た目から。ビスケットも当然カラフルでラブリーなものが人気です。今日は大人になるとつい素通りしてしまう、そんなカラフルで、楽しい市販のビスケットをいくつかご紹介します。
トップバッターは「パーティーリング」。まず目に飛び込んでくるのはそのカラフルな色。ピンクに紫、黄色のベースカラーのアイシングが全体に施され、その上に白やピンクのアイシングでなみなみ模様が描かれています。次なる特徴はその形。中央に穴が開いたドーナッツ型で、かなり薄く固めの食感になっています。1983年Fox社から発売されたそれは、ターゲットを子供たちにロックオン。当時ファッショナブルだったビビットカラーにアイシングを染め上げ、子供たちがつまみやすいようにと指を通せる穴を開けたことで可愛さが倍増。「パーティーリング」というその名の通り、お誕生日パーティーには欠かせないビスケットとなります。時代の流れと共に、色合いは徐々に抑えめに、色素も天然素材由来のものへと代わりましたが、それでも他の茶色一色のビスケット界では目立つ存在。
FOX’sのロゴで知られるFox’s Biscuitsの創業は1853年、Michael Spedding 氏がウエストヨークシャーのBatleyに開いた小さなベイカリー「Bateley bakery」に端を発します。当初はヨークシャー周辺のフェアなどで売るブランデースナップを中心に製造していましたが、その後、娘婿であるFred Ellis Foxさんが引き継ぎ、Fox社の名前が生まれ、事業は拡大していきます。現在はお茶の間に欠かせない王道のビスケットを種々作っていますが、主力商品はCrunch creams という表面にひびの入ったざっくりビスケットでクリームをサンドしたものと、バー状のビスケットをチョコレートでコーティングしたRocky。パーティーリングもオールドファッションな感は否めないものの、それでも現役。小さなファンはまだまだ存在するようです。
お次は「Iced Gems(アイストジェム)」。アイシングをした宝石というその名が示すように、一口サイズのビスケットにカラフルなアイシングをきゅっと絞り出したキュートなお菓子。直径2㎝程なのでご想像よりきっと一回り小さく、アイシングは想像以上にカリッとハードです。プレーンなハードビスケットに甘いお砂糖のコントラストは子供っぽいと思いながらも、2~3年に一度は食べたくなるお味。前述のパーティーリング同様、以前はもっと派手な色合いで、甘いだけだったアイシングも今は、かなりペールカラーに落ち着き、それぞれラズベリー、レモン、ブラックカラントのフレイバーがしっかりして意外と侮れないのです。現在よく目にするものはMcVitie’sブランドのものですが、もともとはReading にあった老舗ビスケットメーカーHuntley and Palmers が生み出したもの。
時はビスケットの工場大量生産が盛んになり始めた1850年。新しいビスケットをせっせと試作していたある日、ハントリー&パーマーの巨大オーブンから焼きあがって出てきたビスケットは、焼き縮んで小さくなってしまったミニミニサイズ。これに目を付けたのが創業者のThomas Huntley氏、おやおやこれはこれで可愛らしいではないかと「Gems」と名付け売り出します。さすが創業者、目の付けどころが違います、これが大当たり、缶入りにして世界各国に輸出するまでに。ところで、当時のジェムビスケットはアイシングなしのプレーンな一口ビスケット、今のようなカラフルなアイシングが絞られ、晴れて「Iced gems(アイストジェム)」となったのは発売から60年後1910年の事でした。その後はこのサイズ感+カラフルな甘いアイシングで子供たちのハートをわしづかみ。お子様ビスケットの代名詞となり早1世紀以上も時が流れています。ラブリーな姿ながら、何気にビスケット界の長老ですね。
最後にもう一つ、カラフルでお子様向けと言えば、忘れてはならないのが、Pink Wafers(ピンクウエファー) 。
名前そのまま、ずばりピンクのウエファースです。薄くクリームがサンドされ、重ねられた数枚のピンク色のウエファースは、お味もきっとご想像通り。かさっと乾いたウエファースにクリームの甘味。確かに、「美味しい!」と感動する類の味ではありませんが、とりあえず茶色だらけのビスケット缶に彩を与えてくれはします。しかも誰も最後まで手を伸ばさないので、その役割を全うしてくれるのだから、それだけでも存在意義はあるというもの。それにしても、どんな地味なビスケットにもコアなファンはいて、大抵のビスケットには寛容なイギリス人なのに、なぜかことピンクウエファーに関してだけはいつもみな無関心。そんな大人たちも子供の頃は喜んで食べていたのではないかと思うのですが。。。ちなみにイギリスのフードライターNigel Slater氏は、さすが味覚がしっかりしていたようで、子供の頃からこのピンクウエファーがお好みではなかったよう、ビスケット缶を開け、その片隅に残っているのが、角が欠けて粉まみれになったピンクウエファーだけだったときの悲しさを切々と語っています(笑)。
そもそもこれをビスケットのジャンルに入れていいのかというところですが、イギリスでは一応いつもかろうじでビスケットのお仲間に数えられています。もともとこのピンクのウエファーはエディンバラ発の超老舗ビスケットメーカーCrawford’s社が生み出したものらしいのですが、今はCrawford’s ブランド以外にも、ピンクパンサーのパッケージがトレードマークのRivington社や、各スーパーのオウンブランドものもあるので、それなりによく目にはします。ただ言われてみれば、このピンクウエファーが大好き!という人やそれを手に取り買っている人を見たことがない、、確かに、アイスクリームに添えてあったら嬉しいかもしれないけれど、紅茶のお供としてはなにか物足りないですものね。
どうでしょう?日本人の私たちから見てもノスタルジー、と言おうか昭和感漂うこれらのビスケットたち、機会があれば是非ものは試しに一度お味見ください。 好みによりけりなのでお味の保証はしませんが、童心に戻れることだけは間違いありません♪