第157話 Wilfra cake/ Wilfra tarts ウィルフラケーキ/ウィルフラタルト

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<Wilfra cake/ Wilfra tarts ウィルフラケーキ/ウィルフラタルト>

 

Wilfra cake、 Wilfa cake、 St Wilfra apple cake などなどいろいろな呼び名はありますが、これはヨークシャー、特にRipon 周辺で祝われる Wilfra Week に食べられてきたお菓子。ウィルフラウィーク(ウィルフラフェスティヴァル)とは、7世紀にRipon大聖堂の建立に着手し、その守護聖人にもなっているSt. Wilfra ( St. Wilfrid ) を記念して、8月初めに行われるお祭りのこと。Riponはノースヨークシャー、ハロゲイトの北に位置する小さなシティ。そこにある大聖堂はイングランドでも特に長い歴史を持つ大聖堂の一つとして有名です。この聖ウィルフリッドがリポンを離れ、長い不在の後、ついにこの地に戻ってきたことを祝い作られたのがこのケーキだと言われています。1108年この祭りがヘンリー1世によって正式に定められて以降、リポンでは、聖ウィルフリッドの像をのせた馬を引き連れ、行列がタウンホールから大聖堂まで行進し、その通り道沿いの家の人々は、窓辺や玄関にウィルフラケーキを置いたそうです。そして、そのお祭りに参加する人々はこれを自由に食べることが出来たのだとか。このお祭り行列の行進自体はリポンで今も続いているそうですが、残念なことにいつの間にかウィルフラケーキを焼く習慣は消えてしまいました。

さて、気になるのはそのウィルフラケーキの姿。一体どんなケーキだったのでしょう?同じく8月1日に祝われるYorkshire Day(ヨークシャーデイ)に合わせてこのケーキをリバイバルさせたリポンミュージアムのレシピによると~それはケーキというよりはアップルパイ。以前、アップルパイの章で、ウエンズリーデイルチーズが入ったヨークシャー地方のアップルパイをご紹介しましたが、ほぼそれと同じ構成。ただし、形が少々異なります。伝統的には長方形の型で焼き、それを細長く、あるいは四角にカットするものだったそうです。ショートクラストペストリーでサンドされた薄切りのりんごとウエンズリーデイルチーズ、りんごの甘酸っぱさにチーズの軽い塩気が合わさって、なんとも美味しいパイに仕上がります。

りんごとチーズの組み合わせはなかなか乙なもの☆

それにしても、ウィルフラウィークが始まったころからこのケーキが焼かれていたのだとしたら、ヨークシャーの人たちのアップルパイwith チーズの組み合わせ好きは筋金入り。「Apple pie without cheese is like a kiss without a squeeze(チーズなしのアップルパイなんて、抱擁のないキスのようなものだ)」ヨークシャーにこんなことわざがあるのも納得ですね。ちなみに リポンミュージアムのウィルフラケーキのレシピはというと~

8ozの小麦粉にお砂糖大さじ1、塩一つまみを加え、4ozのバターを入れて、サラサラのパン粉状にします。卵黄1個と水少々で生地をまとめ、冷蔵庫で寝かせます。
このうち半分を長方形の型に敷き、皮をむいてスライスしたクッキングアップル1.5lbを3ozのデメララシュガーであえて詰め、さらに3ozのウエンズリーデイルチーズを削って上にのせ、残りのペストリーで蓋をして、220℃のオーブンで10分、180℃に下げてさらに30分焼きましょう~というもの。(1oz=28g/ 1lb=450g)
白くてほろっとした食感のウエンズリーデイルチーズが手に入ったら是非試してみてください。

 

ヨークシャーカードタルトをあっさりさせたような味わいのウィルフラタルト☆

それと最後にもうひとつご紹介しておきたいのが、ウィルフラケーキの従妹分 Wilfra tarts(ウィルフラタルト)。こちらはレモンの香り漂うタルトレットスタイル。ショートクラストペストリーの上にレモンや卵、アーモンドパウダーで作る柔らかなフィリングを詰めて焼き上げます。これもまたウィルフラウィークのために焼かれていたお菓子なのだとか。
現在は St.Wilfrid’s Procession と呼ばれ、リポンの町で毎年8月1日近くの日曜に行われているこのお祭り。聖ウィルフリッドに扮した男性が馬に乗りパレードがくりひろげられます。このお祭りでウィルフラケーキやタルトを売る地元のベーカリーが消えてしばし経つということですが、リポンミュージアムの活動然り、そろそろ銘菓復活の兆しがちらほら見えてきたような気がします(^^

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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