第160話 Rock / Gobstopper ロック/ゴブストッパー

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<Rock /Gobstopper  ロック/ ゴブストッパー>

イギリスの休日と言えば羊がのんびり草をはむ牧歌的な風景や、イングリッシュガーデンなど緑いっぱいの景色が目に浮かびますが、よく考えてみれば、日本より小さな島国。周囲には美しい海岸線に港町が点在しています。今でこそ、少々さびれた風情になってしまったところもありますが、戦後の1950年代から1960年代にかけてはイギリスのシーサイドリゾートの全盛期。夏になると、イギリス中の家族連れがこぞって、車で、電車で、海沿いのリゾート地に押し寄せました。例えば、マンチェスターやリバプールで働く人々はBlackpoolや Morecambeへ、リーズからはScarborough、ロンドンからはBrighton へといった具合に。そういった海岸には飲食店や劇場、遊園地などが並ぶPier(ピア)と呼ばれる長い観光桟橋が作られ、プロムナード(海岸沿いの遊歩道)にはパブやフィッシュアンドチップス屋が軒を連ね、観光客であふれかえりました。

さて本題、観光客がいるところ、必ずあるのがお土産屋さん。そしてどのシーサイドリゾートのお土産屋さんでも必ず目にするのが、長いカラフルな棒キャンディー。薄いセロファンにつつまれたそれは赤に黄色に、緑色。縞々模様もあれば、太さも長さもさまざまあります。直径1㎝くらいのものから2.5㎝程もあるものもあれば、長さも20㎝位から1mはあろうかという超ロングサイズまで揃います。これがいわゆる Seaside rock(シーサイドロック)と呼ばれるもの。海沿い観光地のお土産品の定番で、大抵はミント味。そしてよーく見てみると、その断面に何か文字のようなものが見えます。そう実はこれ、その港町の名前が入っているのです。Blackpool やWhitbyなどの文字がどこを切っても出てくる金太郎飴スタイル。細いロックにも細かな文字でしっかりアルファベットが入っているので、初めて見た時はイギリスにもこんな職人技があるのねと、ちょっと感動してしまったほど。

ロックの断面をよーく見てみるとWhitby の文字が、、、

Fair Rock(フェアロック)と呼ばれる、シンプルな単色棒キャンディーは、19世紀にはイギリス各地のお祭りで売られていたようですが、これが今のようにカラフルな文字入りになったのはいつの事なのか。これには2説あり、ランカシャーはBurnley出身のBen Bullockさんという元炭坑夫がブラックプールを訪れた際に思いつき、1887年に作り出したというもの。もう一つはやはり同じ時代に、ブラックプールあるいはモーカム出身のDynamite Dick なる人物が、ロックに文字を入れることを考え出した、というもの。いずれにせよ、ブラックプール周辺で生まれ、100年以上作り続けられているということですね。

ブラックプールは他のシーサイドリゾート地に先駆け、1846年の鉄道開通とともに、産業革命に沸いたランカシャーやヨークシャーなどの労働者たちから人気を博し成長した一大観光地。1970年代の海外旅行ブームを境に大分静かになってしまったものの、現在はまた往時のレトロ感を楽しむ人々によって見直されてきているようです。

白黒のロックはWhitby の 有名fish&chips 屋さんの名前入リ☆

さてこのロックの作り方ですが、日本の金太郎飴とほぼ一緒。透明の飴を引き延ばし、空気を入れて白濁させたら、色を付け、太い棒状に伸ばします。そして、まずは形の崩れにくい、EやF、Hといった角ばった文字から先に作り、次に、AやV、最後に形の崩れやすいC、G、Sといった丸い文字がつくられるのだとか。そうしてセンターの白い飴の中に文字を形作ったら、周囲をさらにカラフルな飴でくるりと包み、細く長く引き伸ばし、カットして出来上がり。柄のないものは工場生産もできますが、この文字を入れる作業だけは今も職人の技、手作業で行われます。 近頃はその土地の名前だけでなく、人の名前や店の名前などを入れたロックがお店の宣伝用として、結婚式で新婚カップルがドラジェ代わりに配ったりと、また別の用途で人気が出ているのだとか。確かに、グッドアイディア。名前入りだとすぐに食べるのはもったいなくてしばらくとっておこうかななんて思いますしね。それにこれだけ長いと食べきる自信がなくてなかなか手を付けられないというのも事実。

でも、そんなことを考えるのは大人だけ。子供たちといえば、食べきるのに長く時間がかかればかかるほどウエルカム。だってそれだけ長い間美味しいキャンディーを楽しめるという事ですから。そんな子供たちの夢に答えてくれるキャンディーがもうひとつあります。それが 「Gobstopper(ゴブストッパー)」。またの名を「Jawbreaker (ジョーブレイカー)」。Gobとは「口」を意味するスラング、つまり、口をふさぐもの、あごを壊すものそんな意味のキャンディーです。そのちょっと恐ろしい名前から一体どんな飴なの?と思いますが、見て納得。

どれだけ大きいか分かるかな?

そのサイズに、口をふさぐどころか、思わずあんぐり開いてしまいます。小さなものでも直径3cm、ジャイアントゴブストッパーと呼ばれる大きなものは子供の握りこぶしほどのものまで存在するのですから。これらはサイズにも寄りますが、舐めきるのに数時間から数日もかかるそう~そうなるといくら甘いもの好きの子供たちでも飽きてしまいますよね。でもここがゴブストッパーの人気の秘密、なんとなめているうちに色が(時にはフレイバーも)どんどん変わっていくのです。赤、青、黄色、ピンクに緑、芯となる小さなキャンディー(チューイングガムのことも)にカラフルなキャンディーを順にコーティングしながら大きくしていきます(Panning と呼ばれる工程)。最後はピンポン玉のようなつやのある玉に仕上げたら、カラフルな絵の具をふりかけたような模様をつけて出来上がり。食べるのも時間がかかりますが、作るのもそれ以上に時間のかかるゴブストッパー。昔ながらのスイーツショップ(駄菓子屋さん)には必ずと言っていいほどおいてあります。
この大きなキャンディーが子供たちの間で大人気になったのは第1次世界大戦と第2次世界大戦の間位からというから、もう100年あまり。Roald Dahl氏 が「チャーリーとチョコレート工場(1964)」の中で「Everlasting gobstoppers(エバーラスティングゴブストッパー)」決して食べ終わることのないゴブストッパーとして登場させ、人気が再燃したのが、60年代~70年代。子供たちがコインを握りしめ、ワクワクしながら駄菓子屋さんに通った時代、そんな時代背景を想像しながら「チャーリーとチョコレート工場」を読み直すと、一緒になってウイリー・ウォンカの甘~い世界にどっぷり浸れます。

あ~なんだか甘いものの話しばかりしていたら、歯がむずむずしてきました。先ほど歯医者さんから帰ってきて、この話を書いているわたし、、、これからも美味しく甘いものを食べ続けるためにも、皆さんも虫歯にはくれぐれも気を付けましょうね。

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本 「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版 2018年 12月 「イギリスお菓子百科」を出版

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