第162話 Paradise slice /Angel slice パラダイススライス/エンジェルスライス

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<Paradise slice/ Angel slice パラダイススライス/エンジェルスライス >

推理小説を読むのと同じくらい、ワクワクして読めるのがイギリスのレシピ本。特に古いものは写真や挿絵がないので、まずはその料理やお菓子の名前から勝手に姿を想像し、次に材料というヒントを得て見た目や味のイメージを膨らませ、作り方を読んでいくにしたがって、次第にそれらが形を成し謎が解けていくという、その作業が実に楽しい♪  ことにそれが、アップルケーキやチョコレートケーキのようなシンプルな名前ではなく、名前からは全く姿形が想像のつかないものだとよりワクワク感が増します。

例えば、「パラダイススライス」、この名前からどんなお菓子を想像しますか?ヒントというより、余計に謎を深めると思いますが、これはスコットランドのお菓子。「パラダイス」という響きが常夏の国をイメージさせるせいか、どうにもスコットランドと結びつかないのですが、果たして皆さんのイメージのものと近いか否か。。。正解の姿はこちら。

赤いチェリーとラズベリージャムが断面からのぞくパラダイススライス☆

「Scottish paradise cake(スコティッシュパラダイスケーキ)」「Paradise slice(パラダイススライス)」など呼び名はいくつかありますが、多少の違いはあれどこのような姿。
ショートクラストペストリーの上にラズベリージャム、その上にフランジパーヌ風の生地(フランジパーヌ=バター+卵+お砂糖+アーモンドパウダーで作るスポンジ状の生地)。そしてその中にはドレンチェリーがちりばめられています。構成的にはベイクウエルタルトにも似ていますが、大抵は四角の型や天板などで大きく焼かれ、長方形、あるいは正方形にカットします。手で持ってパクりと食べるおやつ的な存在ですが、お味のほうはなかなかのもの。シンプルなペストリーにラズベリージャムの酸味、甘くふんわりとしたフィリングにチェリーのアクセント、美味しくないはずがありません。フィリング部分は作り手によってバリエーションがあり、アーモンドパウダーの代わりに、小麦粉や米粉を使う人、チェリーの他に、カランツやココナッツ、アーモンドなどのナッツを入れる人も。各ベイカリーや家庭に受け継がれ、それぞれお気に入りのレシピがある、そんな素朴なお菓子です。
肝心のパラダイス感は、、、どうでしょう?パラダイス=楽園・至福、つまり天にも昇るほど美味しいケーキという意味なのか、、、。そういえば、赤いタータンチェックの箱でおなじみのスコットランドのショートブレッドメーカーWalkers にも Paradise cake なる名前のドレンチェリーやサルタナの入ったケーキがあります。こちらも同じ流れを汲んでいるに違いない~と思うのですが、源泉にはたどり着けず、、。
ちなみにMrs.Beetonのレシピ本「House Hold Management(1861)」にParadise pudding(パラダイスプディング)なるレシピが載っていますが、こちらはりんごのプディング。みじん切りにしたりんごとパン粉、卵とお砂糖を混ぜ合わせて、プディング型に詰めたら、1時間半茹でましょう~というレシピです。このネーミングに関しては、おそらく、りんご=イヴの住んでいたエデンの園(パラダイス)という意味でしょう。ナツメグとレモンの皮、ブランデーで香りづけされており、出来上がりのホカホカのところをいただいたら、とっても美味しそう!

さてもう一つ、パラダイスついでにご紹介しておきたいイギリスのお菓子があります。それが「Angel slice(エンジェルスライス)」。「エンジェルケーキ」「エンジェルケーキスライス」などとも呼ばれますが、こちらはスコットランドに限らずイギリス全国区のお菓子。レトロ感漂うお菓子ですが、市販品は今もスーパーで売られているため、目にする機会もあると思います。バッテンバーグフレンチファンシーを彷彿とさせる、可愛らしいピンクと黄色のスポンジでバタークリームがサンドしてあります。プレーンとピンクの2色だけのこともあれば、黄色とピンク、プレーンで3色のことも。一番よく目にする、Mr. Kipling のAngel slices はバタークリームをピンクとプレーンのスポンジでサンドし、トップを白とピンクのアイシングでデコレーション、フィンガーサイズにスライスしたもの。同社のフレンチファンシーと同じく、お茶の時間につまむのにぴったりのケーキです。他メーカーやスーパーのオウンブランドから出されているエンジェルケーキはカットされていないローフ型で3色のものが多いよう。

子供たちが喜びそうなふんわりカラフルなエンジェルケーキ☆

基本的にはひとつのスポンジ生地を3つに分けて色を付けただけのものなので、3色どこをとっても同じ味なのですが、パステルカラーの3色ケーキがお皿にのると、なんとなくウキウキしてしまうのはわたしだけではないはず(笑)。このエンジェルケーキのスポンジはヴィクトリアサンドイッチのように、いわゆる卵・粉・お砂糖・バター同割で作るパウンドケーキ的なイギリススポンジの事もあれば、日本のスポンジケーキのように卵とお砂糖を泡立てるところからスタートするジェノワーズタイプの事もあります。名前はアメリカのエンジェルフードケーキ(卵白だけで作るシフォンケーキのようなもの)と似ていますが、全くの別物。アメリカのエンジェルフードケーキの名前はあの白さや羽のような軽さから来ているのでしょうが、イギリスのエンジェルケーキの名前の由来はいずこから?
イギリスではエンジェルケーキのようなスポンジを重ねるケーキは layer cake(レイヤーケーキ) というくくりに入り、ヴィクトリア時代には、ピンク・白・緑のものは「Neapolitan cake(ナポリタンケーキ)」と呼ばれ人気を博しました。ただ、この黄色・白・ピンクのバージョンがいつ現われ、いつからエンジェルケーキ(スライス)という名になったのかは定かではありません。

出生の謎多き、パラダイススライスとエンジェルスライス。どちらも今にも忘れ去られてしまいそうなお菓子ですが、せっかくの素敵な名前、これからも消えずに残ってほしいものです。「今日はエンジェル(パラダイス)ケーキを焼こうかな」~なんて口に出して言うだけで、ハッピーになれそうな、そんな名前を持つケーキは他にはなかなかありませんから☆

 

 

 

 

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本 「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版 2018年 12月 「イギリスお菓子百科」を出版

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