第169話 Isle of Wight doughnuts/Osborne pudding アイルオブワイトドーナッツ/オズボーンプディング

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<Isle of Wight doughnuts/ Osborne pudding アイルオブワイトドーナッツ/オズボーンプディング>

イギリスでドーナッツと言えば、お砂糖がたっぷりまぶされた、まあるいイースト生地のもの。ふんわり柔らかな生地の中にラズベリージャムが入ったものが基本形です。一般に、穴の開いたものはアメリカ発、このフィリング入りの丸いタイプは、オランダやドイツ発祥と言われていますが、それとは別にイギリスで独自に生まれた、あるいは少なくともイギリスでもっとも最初に作られたドーナッツである、と言われているのが、「Isle of Wight doughnut (アイルオブワイトドーナッツ)」。その名もワイト島ドーナッツです。

ワイト島と言えばイギリス南部にぽかりと浮かぶ菱形の島。青い海に緑たっぷりの自然、本土から船で30分程で到着できるので、観光客にも人気です。ヴィクトリア時代にはもうすでにリゾート地として人気があったそうです。ヴィクトリア女王自身もここワイト島にオズボーンハウスと呼ばれる別宅を構えて頻繁に訪れ、家族で穏やかな時を過ごしました。

このワイト島生まれのお菓子としては、ヴィクトリアサンドイッチの名がよく挙がりますが、もっと庶民の味として親しまれてきたお菓子がドーナッツ。19世紀前半、つまりヴィクトリア時代以前は、地元では「Birds nests(バーズネスト)」と呼ばれることが多かったらしいのですが、今は「アイルオブワイトドーナッツ」の名で知られています。このドーナッツ、見た目はイギリスの一般的なジャム入りイーストドーナッツと似ていますが、違いはフィリング。ジャムやクリームではなくシンプルにドライフルーツのみ。大抵はカランツかレーズン、もしくはそれにプラスしてオレンジピールが入っています。そして、古いレシピでは生地に練り込むのはバターではなくラード。揚げ油もラード。今のように植物油など容易に手に入る時代ではありませんから、ラードが一番安価な油だったのでしょう。今の時代のドーナッツより、少々食べ応えのある仕上がりになりそうですね。

                                 フィリングはシンプルに少しのドライフルーツのみ☆

では、その昔のレシピを見てみましょうか。ヴィクトリア時代を代表する料理書のひとつ、Eliza Acton女史の「Modern Cookery for private families(1845)」より~

ISLE OF WIGHT DOUGH-NUTS
Work smoothly together with the fingers four ounces of good lard, and four pounds of flour; add half a pound of fine brown sugar, two tablespoonsful of allspice, one drachm of pounded cinnamon, half as much of cloves, two large blades of mace, beaten to powder, two tablespoonsful of fresh yeast which has been watered for one night, and which should be solid, and as much new milk as will make the whole into a rather firm dough; let this stand from an hour to an hour and a half near the fire, then knead it well, and make it into balls about the size of a small apple; hollow them with the thumb, and enclose a few currants in the middle; gather the paste well over them, and throw the dough-nuts into a saucepan half filled with boiling lard; when they are equally coloured to a fine brown, lift them out and dry them before the fire on the back of a sieve. When they are made in large quantities, as they are at certain seasons in the island, they are drained upon very clean straw. The lard should boil only just before they are dropped into it, or the outsides will be scorched before the insides are sufficiently done.

まず材料は小麦粉4パウンド、ラード4オンス、ブラウンシュガー1/2パウンドに、イースト。そしてオールスパイス、シナモン、クローブにメースとたっぷりのスパイス。これらに牛乳を加えて練り、生地を作ったら一度発酵。それを小さなりんごほどの大きさに丸めて、親指で穴を開けてカランツを数粒押し込みます。これを熱したラードで色よく揚げ、網の上にあげて火のそばで乾かしたら完成。
島ではこれをあるきまった時期に大量に作り、その際はきれいな藁にのせて油をきるのよ~とも書いてあります。
この、あるきまった時期というのが、Shrove Tuesday、レントに入る直前のいわゆるパンケーキデイと呼ばれる日のこと。島では貧しい人や子供たちが歌を歌いながら家々をめぐり、Shroving cake(パンケーキやドーナッツ)をもらう、Shrovingという習慣があったそうです。
日常のパン作りの中、ちょっぴり中途半端に余った生地を揚げておやつにしたところから生まれたのであろうドーナッツ。どこが発祥なんて言えないほどシンプルなものですが、きちんと「ワイト島ドーナッツ」としてEliza Actonさんの本に載っているのですから、ワイト島の人たちはラッキー。1度は忘れられたお菓子を復活させての町おこしがブームのイギリス。そのうちこのドーナッツもすっかり島の名物になっているかもしれませんね。

おまけにもう一つ、ワイト島生まれのお菓子でご紹介しておきたいものがあります。それが「Osborne pudding(オズボーンプディング)」。

 

                      マーマレードの苦みがアクセントのオズボーンプディング☆

前述のヴィクトリア女王の別宅、オズボーンハウスに由来するその名前からご想像できるように、ヴィクトリア女王のお気に入りのプディングだったと言われています。島でのくつろいだ家庭的な暮らしを愛した女王。そのプディングも実に庶民的、残り物のパンでできるブレッドアンドバタープディングの一種です。マーマレードとちょっぴりのお酒(ブランデーやラム酒)で香りをつけた大人のブレッドアンドバタープディング。残り物のパンが美味しいカスタードを吸い込んで、オーブンの中でふわっと膨らみ、オレンジ色のなんとも美味しそうなプディングに大変身。ご家族でこの湯気の上がる焼き立てのプディングを楽しんだことでしょう。もしかしたら、アイルオブワイトドーナッツがおやつに登場することもあったかもしれませんね。

このオズボーンプディングのルーツには、実はもう一つ別の説があります。それはRoyal Society(ロンドン王立協会)の会長でもあった高名な植物学者 Sir Joseph Bank(1743-1820) の料理人Henry Osborne氏が生み出したレシピであるというもの。マーマレードの香るブレッドアンドバタープディング、女王様のために作られたのか、はたまたキューガーデンの発展に多大な貢献をしたことでも有名なジョゼフバンクス氏のためだったのか。もっぱら、ヴィクトリア女王がオズボーンハウスで過ごした幸せな日々を想起させてくれる「女王様のお気に入りプディング」説のほうに軍配が上がることが多いようですが。
ドライフルーツの入った揚げたてドーナッツにホカホカのマーマレード入りブレッドアンドバタープディング。いつかワイト島を訪れる機会があったら是非探してみてください☆

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About Author

yasuda mariko

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ http://galettes.exblog.jp/ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本 「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」を出版 2018年 12月 「イギリスお菓子百科」を出版

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