第176話 Initial Biscuits イニシャルビスケット

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<Initial biscuitsイニシャルビスケット>

 

Superstitionと呼ばれる迷信や言い伝えが何気に多いイギリス。今の時代ですから、それほど真剣なものではありませんが、縁起担ぎと言おうか、もう習慣になっているので自然と出てしまうようで、日々の生活のふとした瞬間、わたしたちからすれば、それなに?という行動によく遭遇します。
遭遇率の高いものでは、今ある幸運なことが逃げないように、あるいはアンラッキーなことが消えてしまうように、「Touch wood」と言いながら、木や木製品を触るというもの、塩をこぼした時、塩をひとつまみ左の肩越しに後ろに投げるというものなど。これは、貴重な塩をこぼすというのは縁起が悪く、後ろでその人の運気が下がるのを狙っている悪魔に付け込まれないように、塩でその目をくらます~という意味があるとか。。。
そういえば、レオナルド・ダヴィンチの最後の晩餐の中のユダは、その不吉な運命を暗示するように、テーブルに塩をこぼしています。他にも家の中で傘を広げる、あるいは窓から鳥が飛び込んでくる、とその家に不幸が訪れる、などなど、枚挙に暇がないのですが~どちらかと言えば、知って楽しいのは縁起が悪いものではなく、縁起がいい側の言い伝え。

例えば私たちも子供の頃、花びらを一枚ずつちぎって「好き・嫌い・好き・きらい…」とやりましたよね。そんなことやってない?まぁそれはさておき、イギリスでは恋愛や結婚について占うのに、りんごが大活躍。昔から一番身近にあるフルーツ(実り)であり、アダムとイヴを結び付けている(縛り付けている)禁断の果実というところから来ているのかもしれませんが、いずれ日本ではお目にかからないものばかりでこれが面白い。
これまた数えきれないほどあるのですが、いくつか例を挙げてみると~

・ 好きな人の名前を唱えながらりんごの種を火に投げ入れ、大きな音を立てて爆ぜれば相手も好きになってくれる。もし、静かであれば脈はなし。。。
・ ハロウィンの晩に、鏡の前で髪を梳きながら、反対の手でりんごを食べると、鏡の中の左肩越しに将来の旦那様の姿が見える。
・独身女性たちそれぞれが、りんごに紐をかけて暖炉の前につるし、そのりんごの落ちた順番に結婚できる。最後まで残った人は一生シングル…。
・りんごの種5つに気になる男性の名を付けて額に張りつけ、最初に落ちた種の名前の人が将来の結婚相手
・りんごを選び、その種を数え、その数が将来の子供の数。
・りんごの種2つに気になる相手の名前をそれぞれつけてまぶたの上に貼りつけ、最初に落ちたほうが恋人になる。
などなど日本にはないものばかり。

 

中でもよく知られているのが、アップルボビング(水に浮かべたりんごを口だけでキャッチする遊び)でゲットしたりんごの皮を細く長く剥き、それを左の肩越しに投げると、未来のパートナーのイニシャルの形に落ちる~というもの。アップルボビングなしの場合もありますが、とにかく、後ろにりんごの皮を投げ、その落ちた形が大事。それが意中の人のイニシャルになっていた日には、昔の純粋なイギリスの少女たちはそれはそれは大いに盛り上がったことでしょう(^^)

今日ご紹介するお菓子は「イニシャルビスケット」。
消えつつあるイギリスの言い伝えや民間伝承、食にまつわる文化などを知るきっかけは、わたしの場合いつもお菓子。沢山のりんごの言い伝えに出会えたのはこのイニシャルビスケットのおかげです。家族のイニシャルに作ってお茶の時間に楽しむのはもちろん、お客様のいらっしゃる時には、その方のイニシャルに焼いて、デザートのアイスクリームやシラバブに添えたりしたそうです。
心温まる素敵なおもてなしですね。
コッツウォルズ地方に伝わる懐かしのレシピ、是非一度試してみてください。サクサクの美味しいビスケットと紅茶をゆっくり味わっていると、りんご占いでもしてみようかしら、なんて気にもなってきます。
「りんごを脇の下で温まるまで挟んでおいて、それを食べると、あなたの好きな人があなたのことを同じくらい好きになってくれる」~なんて不思議なものもありますよ(笑)

 

<イニシャルビスケット>

①  無塩バター5ozを柔らかく練り、グラニュー糖5ozを加えて白っぽくなるまで混ぜます。

② レモンの皮のすりおろし1/2個分と、卵1個を溶いたものを少しずつ加え、さらに攪拌します。

③  薄力粉10ozベーキングパウダー小さじ2アーモンドパウダー2ozをふるい入れて、
粉っぽさがなくなり、ひとかたまりになるまで混ぜ合わせます。

④  ③の生地を細く延ばして、イニシャルの形にして天板にのせましょう
(生地がべたつくようなら打ち粉をつかってくださいね。)
170℃に予熱したオーブンで12~13分(サイズによって加減を)、
うっすらと焼き色がつくまで焼いたら完成です。

※ 1oz=約28g

「次はなんのアルファベットにしようかしら」なんてこねこね作っていると、まるで子供の粘土遊びのように無心になれるはず。
イギリスは今、空前のベイキングブームだとか。日本も然り。
ベイキングには心を穏やかにしてくれる力があることを皆知っているのですね。
イギリスに、日本に、世界中に一日も早く、平和な日常が戻りますように。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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