第177話 Belvoir castle buns/ Belvoir cake ビーバーキャッスルバン/ ビーバーケーキ

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<Belvoir castle buns/ Belvoir cake ビーバーキャッスルバンズ/ ビーバーケーキ>

イングランド中部に位置するレスターシャー、ポークパイで有名な町Melton Mowbray(メルトンモウブレイ)から、北東に車で20分ほど走ると、Vale of Belvoir(ヴェイルオブビーバー)と呼ばれる緑広がる美しい土地があります。

近頃日本でも目にするエルダーフラワーなどのコーディアルで有名なメーカー「Belvoir Fruit Farms」のボトルで、このBelvoirという文字に見覚えのある方も多いでしょう。
Belvoir と綴って、ビーバーとはちょっと変わった読み方ですが、実はこの名前の由来はノルマンフランス語のBel Voir (beautiful view)。何故フランス語の名がついたのかというと~
時を遡ること1000年近く。1066年、ノルマンディー公ギョーム2世がこの地を征服し、ウィリアム1世として即位します。その時のノルマン人の旗手Robert de Todeni がここに城郭を構え、そこから眺める光景そのままに、いつしか「Belvoir(美しい眺め)」と呼ばれるようになったのだとか。それが時の流れと共に、イギリス的な発音~ヴェルヴォアからビーバーに変化していったそうです。

 

この地を有名にしているのが、先のRobert de Todeniが礎を作った「Belvoir Castle(ビーバーキャッスル)」。敵の襲来も領地も眼下におさめられる、ひときわ高い丘の上にそのお城はそびえています。長い歴史の中、幾度も闘争に巻き込まれ、15世紀には薔薇戦争、17世紀にはまた別の内戦、とそのたびに破壊され、再建されてきました。現ビーバーキャッスルは第5代Rutland 侯爵夫妻によって1801~1832年にかけて建造されたもの。
今も変わらずラットランド侯爵家が暮らしているのですが、一般にも公開されているため、この辺りきっての人気の観光スポット。壮麗な城内や広大な庭の見学はもとより、結婚式やアフタヌーンティー、その他子供たちが喜びそうな様々なイベントが催されるのだから人気のほどもうかがい知れます。

さて、本題を忘れそうになってしまいました、、今日のお菓子はこの長い歴史を持つビーバーキャッスルに伝わる「ビーバーキャッスルバン(ビーバーケーキと呼ばれることも)」です。
ビーバーキャッスルバン(ビーバーケーキ)とはイーストを使い発酵させた、ドライフルーツ入りの、いわゆるフルーツブレッド(葡萄パン)。スパイスも入らないので実にシンプルですが、お砂糖とバター(当時はラード)が入った、ほんのり甘くやわらかな真っ白いパンは、一昔前ならまさにご馳走。生地はほぼ一緒で、カランツを巻き込んでシナモンロールようにカットして小さめに焼くバンタイプと、ミックスフルーツ(サルタナやカランツ・オレンジピールなどのミックス)を入れ、丸めて大きく焼く、二つのタイプのレシピがみられます。

 

ところで、アフタヌーンティーが第7代ベドフォード侯爵夫人によってWoburn Abbey(ウォーバンアビー)においてはじめられた習慣だというのは有名な話ですが、このビーバーキャッスルのHPによると、ビーバーキャッスルこそ、イギリスのアフタヌーンティー発祥の地であると謳っています。というのも、ベドフォード侯爵夫人がここ、ビーバーキャッスルに滞在した際に、当時の1日2回の食事の間の空腹に耐えかねて、紅茶とティーフーズを持ってくるようお願いし、アフタヌーンティーというティータイムが始まったから、だそう。

 

バターをたっぷり塗っていただくビーバーケーキは、紅茶にぴったり。ラットランド侯爵夫人とベドフォード侯爵夫人アンナマリアがビーバーケーキをつまみながら優雅にアフタヌーンティーをしている様子が目に浮かぶようです。その後、この午後の優雅なお茶の時間をいたく気に入ったアンナマリアは自宅のウォーバンアビーに戻ってからも、お客様たちに午後のお茶とお菓子を勧め、アフタヌーンティーが社交界に広まっていった。。。ということですが~
もしかすると、ここで食べたビーバーケーキの美味しさが、アフタヌーンティー発祥の一端を担っていたのかも、なんて想像も膨らみますね。美味しいティーフーズは紅茶をさらに美味しく、そしてその時の幸せな記憶を鮮明に残してくれますから。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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