英国人の好むクロワッサンが「真っすぐ」なわけ

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Tescoのパンの棚からクレッセント(三日月)形のクロワッサンが消える、というニュース、お聞きになりましたでしょうか? まず、2月18日付のガーディアン紙で知り、へえ~そうなんだ~と思っている間に、英メディアのここここここまでが取り上げたばかりか、クロワッサンの本場であるフランスのメディアも、Brexit(英国のEU離脱)の可能性に注視する米国のメディアも、かな~り、興味を持ったようなのです。

これを書いている時点ではもう消えてますが、いつもTescoでクロワッサンをお買いになってらっしゃる方は、どうかご安心を。「三日月形のクロワッサン」の販売は中止になったものの、「真っすぐなクロワッサン」ならこれまでどおり手に入ります! でも、背筋を伸ばした三日月形などありえないので、弧を描く三日月を意味するパンが真っすぐになってしまっては、クロワッサンとは言えないのでは? という声も…。

それにしてもなぜ、「売るのは真っすぐなクロワッサンだけ」という決断をTescoはくだしたのか? 理由は、Tesco でクロワッサンを買う人たちの75%近くが、真っすぐなクロワッサンを好みからだそう。じゃ、三日月形のほうは売れ残ったりするのかも? けれどなぜ、真っすぐなクロワッサンが好まれるのでしょう? それは、三日月形だとジャムが一度に塗りにくいから。でも、さほど差があるとは思えませんがね~。

折も折、ブリュッセルのEU首脳会議では、キャメロン首相が「EU残留の交換条件」を交渉中であったため、それでなくとも少々スノッブなフランス人は、「真っすぐなクロワッサン? 英国人は無茶苦茶」と小馬鹿にする向きもなきにしもあらず。しかし、いくら英国人が不器用だからって、ジャムの塗りやすさから好まれる真っすぐなクロワッサンに販売を絞った、というのは、単なる利益アップのための口実、という感も?

で、ニューヨーク・タイムズ紙の記事を読むと、本場フランスのクロワッサン・コンテストで1等賞になったパリ在住クロワッサン職人、チュルキエ氏は、同紙の電話取材に「巻きやすいしトレイにフィットするから実用的、うちでは真っすぐなクロワッサンしか作らない」と答えているのです。やっぱりそうかあ、でしょ? でもまあこの騒動のおかげで、「本物」のクロワッサンやその歴史について知ることができました。

そうなんです、クロワッサンは本来、両端がくっついてなきゃいけないんだそうですよ。ご存知でしたか? なら、大なり小なりどれも「本物」ではないわけか! が、それ以前に、たとえ三日月形でも英国のスーパーで売っているクロワッサンは、やっぱフランスのクロワッサンとは違う。わたしがロンドンに住んでいたころの話ですが、Maison BlancやPaulには、本物の味を求めるフランス人(&日本人)でいっぱいでしたっけ。

まあ昔を振り返れば、英国のパン事情はだいぶ改善されたと思いますよ。バゲットなんて、昔はごく一般的なパンと同じ生地で作られたものが、「French stick」という名前で売られているだけでしたからね。一方、ブエノスアイレスに住んでいたときも、本物のクロワッサンを求めて街中を探し回ることになりました。やっと1軒探し当てましたが、どこへ行っても、スペイン風の甘くてふわふわした黄色い三日月パンばかりで…。

若いころ、初めてパリで食べたクロワッサンには、感動しました。ある朝、あとで食べようと思って、朝食のクロワッサンを1個だけバッグに入れて持ち歩き、美術館を見たあと、公園のベンチに座ってバッグから取り出してみると、オーララ! 紙ナプキンの中には、「パラパラの茶色い紙の山」しかなかったのです。たぶんクロワッサンは、そうならなければクロワッサンと呼べる材料や作り方をしていないに違いありません。

とはいうものの、ロンドン在住時代は、スーパーのall butter croissantを常食にしておりました(毎日Maison Blanc で買うわけにもゆかず)。ただ、鮮度には気をつかい、買ったらすぐにフリーザーへ。そして毎朝、凍ったクロワッサンを左手にのせ、ナイフで切り込みを入れてから(あとでジャムをはさむため)温めるのですが、ある朝、寝ぼけていたのか手まで切ってしまい、血が止まらなくなってGPへ駆け込んだことも。

おっと、またまた余談が多くなっちゃいましたが、そんなこんなで、とりわけクロワッサンには思い出も思い入れも多いわたしです。パンには少々うるさい者のひとりといたしましては、美味しいクロワッサンの条件は、形じゃない、と考えます。それでもやっぱり、どちらがいいかと問われたなら、弧を描いているクロワッサンを選びますね~。だって、そのほうがなんかロマンティックでしょ。みなさまのご判断は、いかに?

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About Author

つつみけいこ

京都東山の生まれ。19歳から雑誌の仕事(編集者/スタイリスト/コーディネーター/ライター)に携わる。英国では、憧れのフローリストの下での花修行や、尊敬するアーティストが学んだカレッジで現代アートを勉強し、通算11年間のロンドンライフをエンジョイした。オーサカン(大阪人)となった今も、“心”はロンドナー。変わらぬ日課として読むUK のオンライン新聞から、旬なニュースをあぶそる~とロンドンのためにピックアップ。帰国後は本の翻訳を手がけ、この5月に『ヴェネツィアのチャイナローズ』(原書房)、2014年7月に『使用人が見た英国の二〇世紀』(原書房)、ほかを上梓。ロンドンで目覚めた世界の家庭料理チャレンジ&花を愛でる趣味ブログserendipity blogは、開設して6年目に。

1件のコメント

  1. 江國 まゆ

    むむ、ジャムが塗りやすいからとは・・・笑えますw ちなみに本当かウソかは調べてみないといけないんですが、昔小耳に挟んだところによると、三日月型のクロワッサンはマーガリン入で作られているもの、まっすぐなクロワッサンはバター入り、というのを聞いたことがあります。それ以来、せっせとまっすぐなものを選んできたんだけど、両端がくっつくくらい丸まっているのが正統派というのも知らなかった・・・!

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