最高に楽しい夢を見させる枕屋のキャスパー

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LONDON BAR VISIT #7 

先日、ビクトリアステーションの裏の方の
住宅地にあるバーを訪ねた、そこにキャスパーがよく来るという
情報が入ったので…

情報源は、もちろんエジンバラ在住の元祖おじさん天使で
私の親友のジンジャー

先日、相変わらず酔っ払っている彼から、電話があって
ちょっと長話をしてしまった、その時にキャスパーの事を聞いたのだ

「キャスパーって、面白い奴なんだよ、天国にいる時は
枕屋をやっていたんだ
あいつの枕で寝ると、誰もが、最高に楽しい夢を見ることが出来るんだ
神様たちに人気でさ、よく売れて大金持ちになったんだよね
僕も、もちろんキャスパーにもらったから使っていたよ
その枕で寝ると一晩中、美味しいお酒を飲んでる夢を見るんだぜ」

こんな話を聞いたので、私はもし、その枕をまだ地球でも作っているのだったら
是非欲しい!と、思って
キャスパーが出没するというバーを探して行ってみた

住宅地にあるブティックホテルの地下一階のそのバーは
まだ時間が早かったせいか、バーの奥の部屋から人の声が聞こえていたけれど
他には、誰もいなかった

このバーは、カクテルがオススメだということで
私は、久しぶりに美味しそうな名前のカクテルを注文した

カクテルを一杯飲み終わった時、バーカウンターにふらりと
やってきた男がいた

「あ、キャスパーだ」

私の目には狂いがなく、私がそう呟いた声が聞こえたのか
彼が、私の方を見た

キャスパーは、カクテルじゃなくて
「やっぱりいつもギネスを頼んでしまう」と言いながら
ワンパイントのギネスを持って、私のテーブルに来た

「君、ジンジャーの友達だよね?
ジンジャーから先日電話があって、きっと君が来るからよろしくって
言われたんだ」

私達は、暫く、ジンジャーの噂話に花を咲かせた

そして

「君、僕の枕が欲しいんだって?」
と、キャスパーが切り出してくれた

「うん、すごく欲しいの
キャスパーは、枕をロンドンでも作っているの?」

「その枕を作るのに、必要な材料が足りないんだ
だから、今作っているのは、普通の枕だけ…本当は
また作りたいんだ、だって、きっとこの地球上には
あの枕が必要な人が沢山いるからね」

そう言うと、ポケットからくちゃくちゃになった紙を出し
私が持っていたペンを
「ちょっと借りるね」と言いながら その紙を広げて
その枕を作るのに
地球では中々手に入らないものを書き出した

「これが、そのリスト
ね、中々手に入らないものが多いでしょ」

そこに書き出してあったリストは以下の通り

1)8000メートル級の山頂に振る粉雪の結晶
又は、その結晶が持つ3000光年分の記憶
2)クリスマスの日に生まれた黒羊の子供の毛
3)嵐の残していったはぐれ雲一片
4)赤く光る惑星に生息する幻の獣の乳

ふんふん確かに、難しいね…

「あ〜残念だな」

と、私が言うと
キャスパーが、にっこり微笑んで
そして

「そっくり同じものは出来ないけれど
ちょっと似たものはつくれるよ
その似たもの枕で寝ると、素敵な夢を見るだけではなく
恐ろしい夢もそこに混じっちゃうんだ
毎回とは言わないけれど時々…」

昔々悪夢に毎日悩まされていた幼かった私は
「今日の夜もまたあの恐ろしい夢を見るのだと」と思い
夕方暗くなると恐怖に怯えて、いつも震えていた

そんな想い出があるから、悪夢と聞くと
もうダメだ…

しかし、考えてみたら
私が、その枕をほしいと思った理由は
夢から、お話のインスピレーションを得ることができるんじゃないか?
と、思ったことだから
それは、毎回素晴らしい夢ではなくても良い訳だし
もう大人になったことだから、悪夢なんかに負けるものか!

と、思い

私はキャスパーに
それでも、いいからその悪夢入りの枕が欲しい、と言うと

「OK、じゃあ、1ヶ月ぐらいしたら、出来るから
僕の仕事場に取りに来てよ」
と、言いながら名刺をくれた

それから、約1ヶ月はあっという間に過ぎ
夢の枕、悪夢付きをもらいに行く日がついに来た

その日は天気が良かったので
テムズ川を下った所にあるキャスパーの仕事場に
私は、水上バスに乗って行くことにした

水上バスをおりた時には、天気は変わっていて
30分ほど歩いているうちに、空は黒々とした濃い灰色の雲に
すっかり覆われてしまった
私は、強い風に飛ばされそうになりながら
丘の上にあるというキャスパーの家に向かった

キャスパーの家は、私が想像していた仕事場とは
全然違っていて
それはなんともおどろおどろしい雰囲気の大きな屋敷だった

仰々しいドアベルを押すと、大きなドアがギーッと開き
この屋敷に300年は仕えているような、老いた執事が迎えてくれた
薄暗い、ちょっと不気味な屋敷の中を、ゆっくりとゆっくりと歩き
私をキャスパーの地下にある仕事部屋に連れて行ってくれた

天井の高い、大きな仕事部屋は、湿っぽく埃っぽく
ひんやりとしていて暗かった

沢山の道具に囲まれたテーブルに向かって座っていたキャスパーが
部屋に入った私に気がつくと、後ろを振り向いてニコッと微笑み

「はい、これだよ、君の枕」

そう言って渡してくれた私の枕は
深海をイメージする様な青いぼんやりした光を放っていて
持ってみたら、びっくりするほど軽かった
今夜からこの枕を使う事を想像したら、嬉しくて
突然湧き出したキラキラ輝く光の中でふわふわと
地上10cm浮き上がった…と、いう気がした
そして、その時ちょっと目眩がしたので、私はそばにあった椅子に腰掛けた

その瞬間、大きな音がして、向こうの壁がグアラグアラと動いた
と、思ったらその壁を壊した巨大な糸車が
ゴーゴーキーキーと汽笛を鳴らしながら私の方に迫ってきた
何が何だかわからなかった私は
とにかく、逃げようと、立ち上がったけれど、足がもつれて
どうしても、走れない、なんとか動こうと頑張るけれど転んでしまう
後ろを見ると、巨大な糸車がどんどん近づいてきた
もうダメだ押しつぶされる…と思った時
私は気を失ってしまいました

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不思議なことに、この後の記憶がなくて
キャスパーの家から、どうやって逃げて戻ってきたのか
私は気がついたら自分のベッドの中で震えていたのです

その夜、ジンジャーからまた電話があったので
私は、バーを探し当てて、キャスパーに会って
1ヶ月後に彼の家で、あの枕をもらったことと
そして、なんだか突然目眩がして、それから死ぬほど怖い体験をして
記憶を失って、いつの間にかベッドの中にいた、と言う
不思議な体験をしたことを話した
すると

「え!うっそ〜、まさか、ホント?本当に???
実はさ、あれ全部うそ、僕の作り話
キャスパーなんておじさん天使は本当は居ないんだぜ」

そういって、ゲラゲラと笑いながらジンジャーは電話を切りました

私が体験したと思っていたことは
全てが私の夢の中の出来事だったってこと?

ビクトリア駅の近くで探したバーも
あの美味しいカクテルも、キャスパーというおじさん天使も
そして、あの夢の枕も
すべて、夢の中のお話だったの?

それにしても
あのカクテルだって、本当に美味しかったし
キャスパーだって、300歳の執事だって
あのお化け屋敷だって、深海の枕だって
実に本物みたいだったじゃない…

だけど、死ぬほど怖かったあの巨大な糸車の悪夢は
そう言えば、あれは私の幼年期に悩まされた悪夢と同じだった…

え? これ、ホントにぜんぶ夢だったの????

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先日、どうしても確かめたくて、もう一度ビクトリア駅の近くで
キャスパーと会ったバーを、記憶を辿って探してみた

そして、驚いたことに、思ったところに、そのバーは見つかった
記憶通りのちょっと素敵なバーは確かに存在していた
まさしく、あの現実だと思っていたけれど夢だったはずの
あのバーが目の前にあった!

ということは、キャスパーもあのバーにまた来るかもしれない…
そして、深海の光を放つ悪夢付きの枕を作ってもらうことも出来るかも

かもかもかもかもしれない…の世界

私は、周りにあるモノが実在するものなのか?
これはまた夢の中の出来事なのか?
イリュージョンの世界をみているのか?

おじさん天使キャスパーとの出会いが
私に、これから異なった次元の
新しい世界を広げてくれる事になるなんて

今の私には
まだ想像することが出来ないのかもしれない…

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About Author

島田カオル

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

2件のコメント

  1. 何が起こったの?どこに行っちゃうの?とすごくドキドキ、バクバクしました。
    でも、絶対、キャスパーもバーも実在してますよね^^

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