音を小箱に集める音楽団員のトニーとニック

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2007年の夏に私は、初めておじさん天使と出会ったっていう話は
前にしたじゃない、覚えている?酔っ払いのジンジャーと自称ドクターフラゴンのこと
私が世界遺産にもなっている、エジンバラの素晴らしい築200年の建物の屋根裏部屋に暮らしていた時
その隣に、おじさん天使が住んでいて、ふっとしたきっかけで彼らと友達になって、それからは
ご飯を一緒に食べたり、お散歩をしたり、とよく会っていたって話
その後、私がロンドンに引っ越してきてしまったのだけれど
彼らとは、今でも連絡を取り合っていて
その度に、面白い天使話を聞かせてくれる

実は今、私はおじさん天使のことをもっと知りたくなったから
彼らををどんどん探して見つけて、そして彼らの地球での活動を取材して
いつか、それをまとめて一冊の本にしたい!なんてことを企んでいるの
先日ジンジャーから聞いたおじさん天使話もかなり興味深かったから
その謎の音楽系と言われているおじさん天使を探し出して
彼らを追跡調査してみたくなったのであります!

彼らの地球名は、トニーとニック

トニーとニックは天国では音楽団員だったそう

(天国というところは、前にジンジャーが教えてくれたのだけれど
地球と同じように、色々な職業があるらしい
例えばジンジャーは、神様に仕えるコックさんのアシスタント
フラゴンは、病院の受付係)

音楽団員だったトニーとニックは神様のために、音楽を奏でるのだけれど
時々、神様のベッドの横で朝早く目覚まし代わりに演奏しなければならないのですって!

これを聞いた時、私は神様って意外と天使をこき使っているのだな~と、思ったのだけれど
でも、それにはちょっとしたワケがあったりするそうなの…

ま、さて、とにかく

トニーとニックという音楽団員だった天使二人が
ロンドンでも、私たち地球人に喜びの粉を振りまくために活動しているそうなので
彼らが出没する、という噂のバーへ早速行ってみた

そこは、なんと、あの、私の憧れのロニースコッツ!

え~!!!!
なになに、と言うことは彼らはロニースコッツで演奏する
ジャズミュージシャンなの?!

私は、狂喜乱舞…

バーに入って、早速ステージで演奏をしているミュージシャンを見たのだけれど
どうも、そこにはおじさん天使が見当たらない
(私は、最近一瞬でおじさん天使を発見することができるようになってきました)

「あら、トニーとニックは、どこにいるのだろう…、もしかしたら今の演奏者は
前座で、これからメインのミュージシャンとして出て来るのじゃない?」

と、思って、バーで飲みながら、彼らがステージに来るのを
楽しみに待っていました

と、その時

あら?
あれ、もしかしたら…

と、思ったことは、アタリでした

そう、あそこの隅で窮屈そうに躰を曲げて何かをしている大男2人組
確かにあの2人はおじさん天使!
でも、あんなところで何をしているのでしょう???

私は、バーで頼んだビールを片手に彼らの方へ行ってみた

「こんばんは、あなたたちはトニーとニック?」

と、声をかけると、2人は躰を曲げたまま顔だけこちらを向けて

「そうだよ、僕がトニーで、こっちがニック」とニコッと笑いながら言いました

「私、エジンバラでジンジャーと仲良しだったのね、そしてここに来れば
きっと、あなたたちに会えるはずだから、と聞いたので、今日は来てみたの
ジャズも大好きだから、あなたたちはミュージシャンでしょ?そうじゃないの?」

と、訊くと、2人は大きな躰を伸ばして、私を見ながら、そしてステージを見ながら言った

「うん、今日は違うんだ。僕たちはね、ここで落ちた音を拾っているんだ」
「なにそれ…、どういうこと?」

「……………………………………………………………」

音楽とざわざわしている中で、トニーの説明がよく解らなかった私は
ゆっくりと、話を聞きたいから時間を取ってほしい、とトニーにお願いしたら、快く
「じゃあ、来週になったら僕らのところに来たらいいよ!」
と、応えてくれた

私はその夜ビールを飲みながら
ステージで演奏しているジャズミュージシャンの音楽に酔いしれながらも
トニーとニックの家に週が明けてから訪ねていくことを考えていた

そして私は、ワクワクする気持ちが止まらず
音楽に乗ってついつい、踊り出してしまい
最終の地下鉄を逃してしまったのでした

*************************************

さていよいよ週が明けて、その日がやって来ました
私は、バスを乗り継ぎ、ロンドン北部にある町に到着
約束よりも、少し早い時間だったので
カフェで時間を潰して、約束の3時ちょっと過ぎた頃、2人の暮らす家に向かいました

私を優しい目で迎えて来れたトニーの後をついてぐるぐると階段を上がり
屋根裏部屋に上がると、そこには見晴らしの良い
彼らの仕事部屋がありました

窓に向かった大きなテーブルに並んでいる沢山の小さな箱を見ていると
ティーポットと3人分のカップ、それに小さな和菓子のような
あまり見たことがない繊細なお菓子をのせたトレイを持って
ニックがゆっくり静かに、階下から上がって来ました

おばあちゃんが好きそうな、小さな花柄のポットとカップ&ソーサー
そして、その小さな美しいお菓子は
大男の2人組には、なんとなくイメージが合わないように感じて
それを見た私は思わず心の中で笑ってしまいました!

その人とそのイメージの間に何か大きなギャップを見つけた時
私はその人の知らない面を発見した!と思ってしまう
だからそんな時は、きゃっきゃと、嬉しくなってしまいます

さて、美味しいダージリンティーと見た目も味も繊細なお菓子を頂くと
早速、私は彼らが作っている、と言う
【喜びの歌が詰まった箱】を見せてもらいました
テーブルに並んでいる、色とりどりの美しい小箱がそれでした

実は、これオルゴールだったのです!

これは、普通私たちがよく知っているオルゴールとは違います
その創り方が実に興味深く、私はその話をどうしてももっと詳しく聞きたくて
ここにお邪魔することにしたのです

それでは、どうやってこのオルゴールを創っているのか
トニーとニックに早速説明して頂きましょう!

トニー 「僕たちが、天国で音楽団員だった時、ちょっとした失敗をしてしまって
で、神様から798年天国追放を言い渡されちゃったんだ、それですごく仲良しだった
友人のジンジャーを頼って、地球に来たんだよね、でこの地球で地球人のために何をしようか?とニックと
話している時に、小さな女の子と出会ったんだ。その子がねオルゴールっていうとても美しい
小さな箱を持っていて、その箱の蓋が開いたら、音楽が流れて来たんだ!」

ニック 「でさ、僕らそれにすごく感動してね、これだ!って思ったんだよ。僕らの使命は
音楽を通じて地球人に愛の粉を届けるっていう役目じゃない、でも天国でやっていたような
音楽団員としてじゃなくて、何か別のやり方で出来ないかなって探していた時だったから
この小箱を見た時には、僕は『ワオーこれだ!!!!』って大声を上げてしまって
で、その小さな女の子を驚かしてしまったんだ」

トニー 「僕らは、この箱をどうやって作ろうか、っていう話をして女の子にその箱を見せてもらおうと
思ったのだけれど、ほらこいつ、ニックがさ、大声出しちゃったから女の子が泣いちゃって、その箱を持って
逃げて行っちゃったんだ、だから僕らは自分たちで、考えて作らなければならないことになっちゃった、てワケ」

私 「そうだったのね、じゃあオルゴールは見たことがなかったのね?」

トニー「全然見たことがなかった。オルゴールは地球にはあって天国には無い、という珍しいものの一つだな」

私 「で、どうやって、作り始めたの???」

ニック 「僕らは、音楽をどうやってその小箱に詰めるかって考えてさ、単純なことだよ
ただ、音楽の破片を拾い集めて、それを箱に詰めればいいんだ、ってことになったんだ」

私 「えー!!!そんなこと、音楽の破片を拾い集めるってどうやってするの?!」

トニー「だって、この前見たでしょう、あの通り。僕らはロニースコットで奏でる音楽がとても気に入ったからさ
あそこで、大部分を拾い集めるんだ、それにあとは、アクセントにつける音を他のところで
集めるってわけ」

私 「え?音って落ちているの?」

トニー「もちろん!君には見えないの?今話している君の声だって、ほら、ふわふわ今も
目の前に飛んでいるじゃない!もう少ししたら、それも床に落ちるよ」

私は、びっくりしてしまった…
私の声もふわふわと浮いていたなんて!そして、床に落ちゃうなんて…

私「で、そのアクセントの音っていうのは??」

ニック「それは、汽笛とか、風や石のおしゃべり、海の波の叫び音、雷や雪の沈黙の声、
小鳥や花の歌声や、ラクダやライオン、へびなんかの笑い声も、面白いアクセントになるよ。
それと、赤ちゃんの泣き声や、孔雀のおならの音なんかも面白いんだぜ…、僕らはそういう音を、ロンドンだけじゃなくて
色んな国を周って拾い集めているんだ。」

私「でも、それをどうやって箱に詰めるの?」

トニー「ha! ha! ha!それは簡単だよ、ただ詰める、僕らは天使だからさ、そういうことは簡単にできるんだよ。な、ニック」
と言って、トニーはニックの方を見てウィンクをしました

ニックは苦笑いをして「ま、そういうことだな」と、言いました

ニックに後で訊いてみると、トニーは面倒なことをニックにやらせて
自分は箱を綺麗に飾ることを担当しているらしい
音楽の破片を箱に詰め込むのには、ものすごいエネルギーが必要で
1週間ぐらいお風呂にも入らないで、髪もとかさないで、お散歩にも行かないで
精神を集中しないと、できないらしい…
何をどうやるのか、聞いても全く解らなかったからここでは説明しないけれど
でも、とにかく、大変な作業らしい

それをトニーはニックに押し付けている、文句も言えずにニックがそれをしているのには
天国を追放された原因が、どうやらニックにあったらしいから
2人一組で音楽団員だった責任を2人は一緒に取らされたから
(なんとなく、この辺りの話はエジンバラのジンジャーから聞いていた)
ニックはトニーに頭が上がらない…

それにしても、このオルゴールの音楽は
聴いたことがないような、素晴らしい音色だった
なんというか、聴いていると本当に体がふわふわしてきて
幸せな気持ちが心の底から体全体に広がって…

私は私のままでいいんだ
私は、愛されているんだ、私は愛に満ち溢れているんだ
私は、なんでも出来るんだ、私はみんなを幸せにさえ出来るんだ
私は、生きているだけで、価値があるんだ…

こんな風に、自分のことを信じなさい
と、よく言われているけれど、今までどうもよく解らなかった
こんな言葉が素直に信じられるように、心にスーッと入って来る

それは奇跡を起こすマジカルな音色だった

このオルゴールをトニーとニックはこれから798年の間、コツコツと一つづつ大事に作って
世界中に配り歩くそうだ

音を奏でる小さな小箱を持って、大男のおじさん天使
トニーとニックは多分あなたの街にも村にも、きっと訪れるはず!

もし、彼らから箱をもらったら、お礼に是非お茶に招待してあげて!
そして、あなたのとっておきの音も何か差し上げて!

トニーとニックは音楽と愛に溢れるおじさん天使!
この2人がいれば、やっぱり地球は愛に満ち溢れていくのだろうな~

私は完全に、彼らの大ファンになってしまったのでした

Tony and Nick

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実は、このおじさん天使のトニーとニックは
オルゴールを作るだけじゃなくて、音楽を奏でることも続けているの
そう、あのロニースコッツに行けば彼らの演奏を、聴くことができるのだ!

彼らは毎月「Ronnie Scott’s Blues Explosion!」というユニット名で演奏している。
11月は26日 いつもすぐに売り切れちゃうから要注意!
www.ronniescotts.co.uk/performances/view/4281-ronnie-scotts-blues-explosion

ロンドンに来たら、是非行ってみて!!!

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About Author

島田カオル

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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