触るものすべてを破壊する天使、ルカ

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LONDON BAR VISIT #10

天使Lukaの話 #1

なんと、あのスタニスラ婆さんの曾甥っ子がおじさん天使?

=ルカが、私のところにきた理由=

随分と、ご無沙汰していたエジンバラの元祖おじさん天使、
ジンジャーから先日(本当に何ヶ月ぶりだろうか?)連絡があった。
ジンジャーはその電話からも、ウィスキーの匂いがプンプンしているようで…
そう、いつもと変わらずの様子。
最近、またスタニスラ婆さんの手伝いをさせられているとのこと、
そして今回の電話は彼女からの頼まれごとで掛けた、
と早口で用件だけ話したと思うと、電話は短くして切れた。

いつもとは違う、何か嫌な予感。

ちなみに、スタニスラ婆さんとジンジャーのヘンテコな関係は
以前私がエジンバラに暮らしていた頃に始まりました。

「スタニスラ婆さんの持つアロットメントの鍵を借りるためにジンジャーは大変な約束をしてしまい友人のフラゴンとピグレットを怒らせ彼らに多大な迷惑をかけた」
と、そんなことから始まったのですが

あれから何年も経った今でも、ジンジャーは
「どうもがいてもスタニスラ婆さんからは逃げることができない」
と、嘆いています。しかし文句を言いながらも、楽しそうにウィスキーを
飲み交わしている二人の姿を
エジンバラのあちこちのバーで目撃されていることは、事実だそうで…

ジンジャーが起こした大事件の話やその後のスタニスラ婆さんとの話は、
また別の機会にお話したいと思いますが、
今回はそのスタニスラ婆さんの曾甥っ子であるローマから来ているルカについての話です。

実は、ルカのお父さんのアントニオのお父さん、
つまりルカのお祖父さんのラファエル、そのまたお父さん、
つまりルカのひいお祖父さんがトマッソであり、
そのトマッソと結婚したヴィヴィアナのお兄さんがパトリチィオで、
そのパトリチィオの結婚相手がスコットランド人の妻エルスペス、
二人の間に出来た子供が実はスタニスラ婆さんだということで、
ルカとスタニスラ婆さんは、随分とよくわからない、
こんがらかりそうな距離で薄いつながりのある親戚関係なのだけれど、
とにかくその曾甥っ子のルカが、ロンドンに来たことで、
ローマにいるルカの両親からスタニスラ婆さんに連絡があり、
スタニスラ婆さんからジンジャーに連絡があったということ。
で、ジンジャーがそのルカと話をしてみたところ、
ルカのお祖父さんであるラファエルのお父さん、
つまりルカのひいお祖父さんのトマッソが実は、天使であったことが判り、
ジンジャーとルカは急激に親しくなったということ。
今回そのルカに何かの問題があるとかで、
ジンジャーから久しぶりに電話があり
「とにかくルカを頼む」と言って電話は短く切れた、
つまりジンジャーから掛かってきた久しぶりの電話は、
そういう頼まれ事だったのです。

そんなんで、今回は興味深いおじさん天使の取材、
ではなく、仕方なく会いに行く、と言うことを初めに書いておきましょう。

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私はジンジャーから電話のあった数日後、
ルカが働いているという、SOHOにあるバーへ、向かいました。
ジンジャーのあの様子からすると、おじさん天使ルカは、
何か問題があるようで、会う前から、私はどうも引き氣味でありました。

そのバーは、以前素敵なおじさん天使が演奏をしていた
有名なジャズバーの向かい側にあります。
私が訪ねて行ったのはまだ早い時間だったので、
他にゲストはあまりいませんでした。
ガランとしたバーに座りおじさん天使を探したのですが
見当たりません、その時
「何を飲む?これはおすすめだよ」と、話しかけてきた
可愛らしいバーテンダーの男の子がどこからともなく、すーっと
私の座った前に現れました。

おすすめの、カクテルを頼んで、もう一度辺りを見回したのですが
おじさん天使は見当たりません。

慣れない手つきで手際が悪く、
見ていてどうも危なっかしくカクテルを作っている、
その可愛らしいバーテンダーのお兄さんは
ボトルを思い切りよく降って、グラスに注ぐ時、つい振りすぎたのでしょう、
ボトルのお酒が私の服に飛び散りびっくりしてしまいました。
しかし、明るい可愛らしいその若いバーテンダーは、にっこりと笑顔で
「あ、ごめ~ん、かかちゃった?」と言ったっきり…

 

 

その時、私は思ったのです。
あれ?若しかしたら…

「ねえ、あなた、ルカ?」

「えー、なんで僕のこと知ってるの???あっ!もしかしたら、貴女ジンジャーの友達?」

彼が、私の探していたおじさん天使だったのです。
考えてみれば、曾甥っ子ですもの、当たり前のことだったのですが、
あのスタニスラ婆さんのイメージのせいか
もう少し年は上だと思い込んでいたのです。

それにしてもとても若くて、とても可愛らしい
私達が普通想像する、正に天使!そんなルカ君でした。

しかし、そのまるで天使のように可愛いルカ君が
実は難儀なことだったのです…

どうにも対処に困ったスタニスラ婆さんは
ジンジャーに相談すると、調子良くなんでも引き受けてしまうジンジャーは、
その困った案件を何も考えずに、そのまま私に回した、
と言うことだったのです。

なんとも不器用な手つきで、私の服にも飛ばしながらルカが作ってくれたそのカクテル、
実は私が注文したものではなかったので、そう言うと
「じゃ、僕がこれ、いただいちゃうから、Non c’e problema」
そう言いながら、当然のように、間違えて作っちゃった
カクテルを美味しそうに飲みながら、私の分を、
また雑な手つきで周りにピュッピュとドリンクを
飛ばしながら作り始めました。

一体何が入っているの?
アルコールのかなり強いそのカクテルを飲んでいると
だんだんとお客が増え始め、私の両隣も塞がりました。

そして、また同じことが…

こうして、1時間もしないうちにルカは、
3、4杯の間違えて作ってしまったカクテルをぐいぐいと飲みながら、
可愛らしい笑顔と愛嬌を振りまきながらカウンターの中で、
楽しそうに歌を歌いながら、踊りながら、バシャバシャとこぼしながら、カクテルを作っています。

ゲストはドリンクを飛ばされても可愛らしいルカには文句も言わずに、
その場を楽しんでいるようですが、強いお酒を飲みながら、ルカの姿を見ながら、
ジンジャーはどうして、私に「ルカを頼む」って言ったんだろう?
など考えているうちに、なんとなく私は疲れて来てしまいました。

「それでは、そろそろ帰るわ」と言って、帰る用意をしていると、
バーの奥からのっそりと、痩せっぽっちで気弱そうな店主が出てきて、
私に「ルカの知り合いかい?」と訊いたので、しょうがなく
「え、まあ、友人の友人の友人、とでもいいましょうか」なんて曖昧に答えると、
「じゃ、これよろしく、今日までの請求書だから、それからあの子は、今日でクビ、
もう用はないの、どうか、今一緒に連れて帰ってくださいまし…」

請求書は、ルカが勝手に作って飲んだカクテルと、割った食器やお酒の瓶、
それと壊したらしい大花瓶と活けてあった花代 などなどなど…

唐突に、私とは全く関係のない請求書を差し出されてビックリしてしまったけれど、
強いお酒のせいか?頭もぼーっとしていて文句を言う氣力もなくした私は、
あとで、ジンジャーかスタニスラ婆さんに請求書を送れば良いと思い、
店主には素直にかなりの支払いを済ませ、
良い氣分で唄を歌いながらニコニコしているルカをバーから引っ張り出した。

ルカは、バーの2階の小さなフラットを借りて寝泊まりしていたそうなので、
そこを追い出されたルカの今夜の行き場に、さて困ってしまいましたが、
ホテル代を払うのももったいなかったし、
私のフラットのソファーにとりあえず今夜は寝かせることにして、タクシーを拾って家に戻りました。
ルカは、相変わらずタクシーの中でも歌を歌ってて…

心身ともに疲れてしまう、と言うのはこう言う時に使う言葉だと
心の中で叫びながら、「明日のこと、ルカのことは今夜は考えない考えない考えない…」
と呪文を唱えるようにして、私はベッドに倒れこむと一瞬で眠りに落ちてしまいました。

キッチンから食器が割れる音で目が覚めました。
え?なに?耳を澄ましたけれど、その後何も音がしなかったので、
眠くて、もっと眠っていたい、と思った私は「きっと夢ね…」と、うとうとしていると、
又してや、大きな音が聞こえました。
何か大きなものが倒れて割れて、そして「ううう…」と、低く唸るような声がしたのです。
私は、泥棒でも入ってきたのだと思い、ちょうどパターの練習用に、
ベッドの横に置いてあったゴルフクラブをしっかりと握って、
ドキドキしながらそっとリビングルームを覗くと、
私が大事に育てていたイチジクの木が!私の大好きなあの鉢が!台から落ちて割れている!
そして、なんと私の大事なイチジクの木の上に、今の今までその存在をすっかり忘れていた、
あのルカが痛そうな顔をして尻餅をついて私を見上げているではありませんか。
そして、キッチンの床!ここにも私の大事に大事にしていたティーポットの残骸が散らばっていたのです。

「大丈夫、大丈夫この悪夢、今日で終わるから…」
そう唱えながら私はシャワーを浴び、意を決して、
キッチンの床とリビングルームの割れた鉢植えとイチジクの折れた植木を片付けようとすると、
それまでソファーで横になっていたルカが、起き上がって、
少し怯えたような顔をしながら、私の手伝いをしようとしたので、
「大丈夫、ここはやるから、シャワー浴びてきて」と、静かに言うと、
にっこり天使に戻った満面の笑顔を向けて、「Si, Signora!」。
その後、シャワーを浴びているルカの大きな陽気な歌声が聴こえてきました。

ジンジャーに電話して、昨日から起こったことを全部話し、
ルカの世話をする優しい氣持ちも時間もないことをハッキリと宣言すると、
珍しく何も言わずにずっと私の話を聴いていたジンジャーがひとこと言いました。

「あいつさ、どうしようもない奴かもしれないけれど、ルカは一応天使だぜ、
何か君のところに行く理由があるんじゃないかな、って思ってたんだけどね…」

その午後、とにかく、請求書だけはスタニスラに送ろうと思い郵便局へ向かった途中、
どこにでもある無味乾燥なチェーン店のカフェに立ち寄って、
感動のないコーヒーを飲みながら、ジンジャーとのさっきの会話を思い出すと、
思わず呟いてしまった

「今回ばかりは、飲んだくれで酔っ払いジンジャーの言った言葉は重い」

今まで、様々なおじさん天使に会い、話を聞いたけれど、
彼らは、それぞれに興味深い仕事、素晴らしい仕事をしている。
私達人間のためになることをしに、この地球に来てくれた存在達だ。
私は毎回彼らに会うと感激して感動し感謝をしてきた。

地球にいる天使はみんな人間の幸せのために来ているのである。

ではあのどうしようもないルカという天使が存在している理由は?
偶然ではなく、必然的にルカは私のところに来たのだろうか?
私が必要としているから来たというの?
何か素晴らしい理由があるのだろうか?
それは何?私が幸せになるため?
あのルカが私の幸福度をアップさせるというの???

ぐるぐると頭の中が回るように、考えているうちに、美味しくないコーヒーも飲んでしまい、
また同じ言葉を呟いてしまった

「今回ばかりは、飲んだくれで酔っ払いジンジャーの言った言葉は重い」

そして、私は決心をした。

取材をするつもりで、天使ルカの存在理由、ルカと私の出会いの本当の理由を確認するために、
私のソファーに寝かす許可を、もう少しの間だけ与えてみよう、そう決めたのです。
それに、この請求書は後でも出せるし…

心が決まると、氣持も入れ替わった。そして
「今夜はパスタでも作ろうか」と、軽く呟きながら私は家に向かいました。

 

つづく

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About Author

島田カオル

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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