地球のてっぺんにある、小さなカフェのお話

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cafevisit


今回のカフェビジットは、前回に引き続き北極圏にある
Svalbard諸島の冒険談とそこで見つけたとっておきカフェのお話です。

ー彼の地を訪れた観光客は、冒険をするのが決まりであるー

そんな島なので、ここには色々なオプショナルツアーがあります。
そして観光客は、ツアーに入らなければ、ほぼ行動が出来ないようになっています。
というのも、町の外に出る場合には、ライフル銃を持参することが
法律で決められているからです。これは、シロクマから身を守る対策です。
許可があれば、安い値段で銃を借りることも出来るのです。
私達が参加したツアーのガイド達も、必ずライフル銃を持参します。
*もちろん銃を使ってのハンティングは禁止

さて、それでは早速第一日目の冒険について。

朝、ツアーのMrガイドがホテルに迎えにきてくれます。
そして、先ず彼の会社で、保険等書類の手続きを済ませ
宇宙にでも行きそうなスーツの下に、
レイアーを何枚も重ねた防寒具に身を包みます。

冒険には屋根も壁も、ゆっくり座る椅子もないスピードボートで行くのですが
これが楽しいのです。乗馬をするようにサドルのようなバーに股がった状態で
ボートに乗り、波に合わせて腰を浮かせて突き進みます。

約30分後、着いた先は海からそびえ立つ断崖絶壁、そこは何十万羽も暮らす野鳥の聖域でした。
以前、スコットランドの最北の島で
観たくて滞在中ずっとあちこちで探したけれど、結局一羽も見つけることができなかったパフィン。
その大群がいる場所です。

Mrガイドによると、鳥の世界も人間と同じように、居心地の良い家を
出たくないティーンネージャーバードがいるそうで、
親鳥は時が来たら思い切ってそのような子鳥を崖から叩き出すことがある、と話していました。
そういえば、鳥のフンで白く染まっている岸壁のくぼみに造られた鳥の巣は
まるでタワーマンションのようでした。

2日目の冒険は、屋根も壁も椅子もあって楽チンな大きな船での遠出です。
2時間ぐらい乗ったでしょうか、やっと着いたその島には、
かつてロシア人が造った炭鉱の町、Pyramidenがあります。
氷河と海に囲まれ世界の果てにある小さな町は、
旧ソ連の成功のシンボルとして一時はかなり栄えていたそうです。
しかし、’98年に閉山してからは廃墟と化し、今ではその朽ちた町を観光地として活用している、
といったそこは、地の果てには無さそうな、博物館のようなゴーストタウンでした。

当時は、お給料が非常に良く、家族づれで移住していた人々も、多かったそうで、
最先端の設備の整った病院、運動場、学校や市民の集う映画館、コンサートホール、
豪華だったと想像できるダンスホールやレストランなどが残っています。
レストランの裏には巨大なキッチンがあり、大きなオーブンや料理器具が放置され、
ある窓辺には2つ、枯れて彫刻にでもなったような植木がそのままの状態で残っています。
以前は立派だったであろう、4階建ぐらいのアパートメントビルは、
恐ろしい数程いる鳥の棲み家となっていました。

ここは博物館というよりも、おどろおどろしいテーマパークです。
立ち止まって耳をすますと、
ほら、風の音と鳥の鳴き声に混じって人々の話し声や笑い声が聞こえてきます。
想像力を働かせれば、こんな話も聴こえます…

ある日、ここに暮らしていた人々は消えてしまいました。
置き去りにされた建物や機材や家具は、今でも毎晩泣いています。
世界の果てで、いつしか忘れられてしまったこの町のそこかしこで、
亡霊たちが訪れる観光客に、昔、確かに存在した彼らの話をしています。
しかし、遠いい国からやってきて、写真を撮って少しの間滞在するだけの彼らには
その奇妙でゴージャスで、物悲しいストーリーを聴いている時間はありません。
炭鉱の話、生と死、芸術、愛、社会問題、政治や野生動物の話など…

それらの建物と物語が、氷河の見える北極圏の山の中に
これからもずっと閉ざされていくのでしょう。
地球のてっぺんにあって歴史の流れの中に埋没するおとぎの国を、
私は訪れたのでした。

3日目の冒険は打って変わって私の大好きな「化石採掘」ツアーです。
今回も前日に乗ったスピードボートで化石の採れるという島へ
向かったのですが、あいにくその日は海が荒れていたので、
島へ上陸することが出来ず化石採掘を断念。
残念でしたが、執着しない私達は予定を変更し、
ずっと先にある大きな氷河を見物しに行くことになりました。

行き先はかなり離れていて向かい風と荒波だったので、
先日と同じように先頭で乗馬をするようにバーにまたがっていた私たちは、
次から次へとくる波を超える度に、
頭の上から海水を浴びてしまいました。

北極圏の海の冷たい水をかぶりながら激しいロデオでもしているような状況です。
一体どのぐらいこれが続くのかしら?
いつになったら氷河のところへ着くのだろう???
周りの景色を楽しむ余裕もなく、そんなことを思いながら、水をかぶりながら
必死な思いで波を超えていた時、私達のMrガイドはボートのエンジンを止めました。

それは少し離れたところに、思いがけず現れた巨大な生物のためです。
初めて見るクジラには、やはり想像以上の感動を覚えました!

優雅に泳ぐ姿に、ただただ見とれてしまいましたが、
同時に北極圏の冷たい海の上を小さなボートに乗って漂っている私の心の中に
湧き上がって来た感情は、ずいぶん前に初めてスコットランドの荒涼とした山岳の中で
ちっぽけな私の存在を感じて恐怖に怯えた時と同じものでした。

しかし、またエンジンをかけてボートが走り始めると、
寒さと恐怖で少し心が折れそうだった私の内部で、
クジラからもらったエネルギーが燃え始めたためなのか、
意識が変わり、勇ましい冒険者となった私はその後、
荒波と海の水の冷たさに負けることなく、氷河へ向かって進んだのでした。

4日目の、今回の旅での最後の冒険はセイウチと巨大な氷河を見に行くツアーです。
2時間ぐらい波に揺られていると、前方に細長い島が見えて来ました。
島にだんだん近づいた時

あっ!そこに居るではありませんか!!!

2~30頭はいたと思います。
大きな大きななセイウチが、日向ぼっこをしている様子が伺えます。
気持ち良さそうにのほほんと昼寝をしています。

何頭かがちょっとした2、3m上の高台に寝転がっていたのですが、
彼らが日向ぼっこを終えて海に入る時、
その高台の坂をゴロゴロ横転しながら降りるのです!
その横着ぶりがなんともおかしくて、
私はおもわず声を立てて笑ってしまいました。

その時、ふっと近くの水面を見ると、
3頭のセイウチが私を目指すように、泳いでくるではありませんか!
ボートのヘリまで来た3頭は、呑気な様子で泳ぐ姿を見せてくれました。
手をバタバタさせて遊んでいます。潜ってはまた水面に顔を出して、
3頭が戯れている様子が可愛くて、私も思わず飛び込んで
一緒に泳ぎたくなりました。

一旦潜った水中から潮を吐きながら、
シュワ~っと大きな牙のついた顔を出したと思ったら
真っ赤な目をじっと私に向けました。
夢中で、動画を撮っていたのですが、
私はセイウチの目を直接みて会話をしたくなり、
ケイタイで動画を撮ることをやめて、3頭に気持ちを合わせることにしたのです。
3頭はゆっくりゆっくりと、潜ったり、浮かんだり、
おどけるように泳いで見せてくれました。
数度バッチリと、目が合い交信が出来たような氣がした私は
暫くセイウチ達と氣持ちを合わせた後、
心の中で来てくれてありがとう!と、呟きました。

すると3頭は、ゆっくりと、向きを変えると一頭づつ
尾っぽを空に向けるようにして、勢いをつけて水中に潜り、
静かに大海原に消えていきました。

野生動物とこのように、心を通じ合えたような不思議な体験に
私は静かに驚き、興奮が止みませんでした。
そのあと、気力が抜けたようにぐったりとしてしまいましたが、
ボートは別の大きな氷河を目指してその場を離れました。

大きな氷河に近づいた時、
再び先日見たような巨大な生物が海の中から突如として現れました。
クジラは潮を吹きながらいつもと変わらず優雅にゆっくりとゆっくりと、
エンジンを止めたボートの横を泳ぎ、氷河とは別の方向へ消えて行きました。
ゆらゆらした波に揺られて、私は、クジラが消えた彼方を見ていると、
ボートは動き始め、氷河の極近くへと進みました。
ボートのエンジン音が止まり、周りが静かな波の音だけになった時
Mrガイドの声が再び私を驚かせてくれました。

そうです!
ここで世界一のカフェが現れたのです!

ArcticCafe2

それは、予想外のMrガイドが用意していてくれた、船の上のポップアップカフェでした。
メニューは3種類から選ぶ宇宙旅行用のランチと紅茶かコーヒーとクッキーです。
ランチに私はベジタリアンクスクスを選びました、
熱いお湯を袋の中に注いで数分待つと出来上がる、インスタント料理。
夫が選んだのは豚肉の煮込み、一口もらいましたが、
それも私の選んだクスクスも大変美味なものでした。

そびえ立つ巨大な氷河を前に凍えるような海の上で頂く熱々の宇宙食とコーヒー、
そして思いがけず遭遇したクジラやセイウチとの心の会話で、
陳腐な言葉だけれど、私の心は氷河も溶かしてしまうほど、暖かくなりました。

そういえば、そのせいかどうかはわかりませんが、
ポップアップカフェで、コーヒーを頂いていた時
突然轟く爆発音が聞こえました。
何が起こったのかと目を見張ると、目の前の氷河の一部が
ぐわらぐわらと崩れ落ちるのを目撃してしまったのです。
地球の温暖化で起こる、あの悲しいシーンです。
我々のMrガイドは、これほど大きな氷塊の崩落を目撃したことがない、
と驚いていました。また以前はなかったことなのに、シロクマが鳥を狙ってか、
崖をよじ登ろうとしてる姿を見かけたことがある、
と話してくれました。

今回の旅では様々な予想外の出来事も多く、
自然の中では物事が思い通りにいかない、という当然の成り行きを
何回か体験することになりました。
感動したり、考えさせられたりと、驚きの連続でした。
温暖化の影響をもろに受けている、Svalbard諸島を訪れたことで、
私の意識は拡大され、地球規模で物事を感じたり、みたりする力が、
やっと私の心に入ってきたように感じています。

しかし何と言っても、北極圏の凍てつく海上で見つけた別格のカフェ。
あれは、地球に感謝を捧げたひと時でした。忘れられない想い出です。

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【きょうのヒント】
今回のヒント?それは、北極点まで後もうちょっと!というところ
こんなカフェは他にはないので、なんとか探して是非訪ねてみてね!

【前回のこたえ】
Funken Lodge
Vei 2124, Longyearbyen 9171 Norway

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About Author

島田カオル

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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