「ロンドンは世界のデザイン首都だ」と豪語するLondon Design Festivalが、今年は9月15日〜23日の日程で開催中。建築デザイナーのクローデン葉子さんも、こちらの記事でたくさんの見どころを紹介してくださっているので、ぜひ参考にしていただきたい^^
文字通り世界各地からデザインや工芸の勇者たちがロンドンに集い、すぐれたデザインで街中が沸く1週間となるが、あぶそる〜とロンドン的な一押しは、ロクロで木を彫って漆器を造る高度な伝統工芸でNHK会長賞も受賞した鬼才、高月国光さんの木工芸を間近に見ることができる2日限りの展示&ワークショップだ。
高月さんの作品が見られるのは、サウスバンクのOXOタワーで日本のデザインの素晴らしさを伝える和組さん。9月22日・23日の週末に開催される。
木地師、高月国光さんが創りあげる伝統工芸がどのようなものかは、まずはこちらの動画を、ぜひともご覧いただきたい。
私はこれを見て、その凄まじく正確な技と、仕上がりの滑らかな美しさ・温かさにウットリとし、しばし忘我の淵をさまよったほどだ。同時に日本の伝統工芸の奥深さに誇らしい感銘を覚えた。
高月国光さんが取り組んでいるのは、岡山県真庭市の伝統工芸である、郷原漆器だ。最大の特徴は、蒜山地方に自生する山栗の木を使うこと。そして、その年輪の美しさが際立つ生命力あふれる佇まい。彫った器は備中漆など土地の天然漆で仕上げる。原木を生木のままロクロで挽いて木地をつくる製法は、他の漆器産地では見られないそうだ。
ちなみに郷原(ごうばら)というのは岡山県北部、蒜山高原に位置する集落で、鳥取県との県境にある雄大なる大山(だいせん)の裾野に広がる自然美あふれる土地である。郷原漆器は600年前から続くと言われる伝統工芸だが、終戦を境に途絶えてしまった死灰に人の手でふたたび生命の火を入れられたのは平成になってから。現在、その拠点となる「郷原漆器の館」の館長としても活躍されているのが、高月さんである。
動画を見ていただくと、彫りの道具から手作りしているのがお分かりいただけると思う。最初に見たときは心底びっくりしてしまったが、道具によって彫りが変わってくるのだから、自分仕様の道具を自らの手で造り上げることが必須なのだ。高月さんは石川県の挽物轆轤技術研修所に入所して技術を学んだそうだから、山中木地挽物の技術の延長線上におられるのかもしれないが、その独自のスタイルはご本人が築いてきたものなのだろう。
高月さんは他のインタビューで漆器の独特の模様のことを「山水画のような木目模様が面白い」と言っておられるが、それぞれの土地が育むユニークな自然の形が現れているのだから言い得て妙だと思う。加えて備中漆、下地を作る珪藻土なども蒜山産であることからも、まさに郷土の工芸である。私自身、岡山県出身者として大変嬉しく、今回の展示・デモンストレーションを心待ちにしている。
昨年の日本伝統工芸展で、高月さんは栄誉あるNHK会長賞に輝いた。伝統的な形をベースに木工の新しい在り方を示していること、すぐれた技術面が評価されてのことだ。伝統工芸の技を継承し、鍛え、発展させ、守り伝えていくことは、人間と自然の分かち難いつながりを確かめあっていくことと同義だと考えると、高月さんをはじめとしたクラフトマンたち全員が抱える使命の重みもひしひしと伝わってくる。クラフトマンに敬意を。自然に敬意を! 今週末のデモンストレーションに、ぜひお運びいただきたい。
With the grain: wood craft from Japan
+++ 郷原漆器:高月国光展 +++
日時:9月22日・23日 11:00 –18:00
会場:Wagumi, Unit1, 08 Oxo Tower Wharf, Bargehouse Street, London SE1 9PH
http://wagumi-j.com
詳細はこちら:
https://www.londondesignfestival.com/event/grain-wood-craft-japan
高月国光 プロフィール
岡山県倉敷市生まれ。2003年に石川県挽物轆轤技術研修所を修了し、郷原漆器に木地師として従事するようになる。2006年に郷原漆器が岡山県指定重要無形民俗文化財となり郷原漆器生産振興会が開設されると、木地師として迎えられると同時に「郷原漆器の館」の館長に就任。2005年、日本伝統工芸中国支部展の岡山県知事賞受賞を皮切りに、第64回 日本伝統工芸展 NHK会長賞、福武文化賞、伝統文化ポーラ賞奨励賞など数々の賞を受賞。伝統工芸の技を子どもたちが体験することで、ものづくりの喜びを感じてほしいとの思いから、岡山県真庭市内の小学校で本物の漆塗り体験授業を行い、また博物館や美術館でのワークショップに積極的に取り組んでいる。