トップシェフ、年末はファーストフードでほっこり?

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ホリデーシーズンが近づくとともに、メディアでは当然、いつも以上に食べ物についての話題が増えます。市販品のミンスパイ食べ比べやご馳走のレシピにも関心をそそられますが、先月28日のガーディアンの、英国のトップシェフ18人が愛するファーストフードついて書かれた記事が目を惹きました。そもそも、食材にしても調理方法にしても一流を追及し、すべてにこだわっているはずの有名店のシェフが、ファーストフードなんてものを食べるんだという事実自体が驚きです! それより何より、いったいどんなもんを好むのか、そのシェフの人間なり(笑)がわるような気がして、とにかく興味津々で読み進んでみると…

まずは分子ガストロミーの大御所、ヘストン・ブルメンタール氏の場合は、ごく一般的なガソリンスタンドで売っているツナサンド、だそう。しかも白い食パン。コリコリする食感の玉ネギとツナをたっぷりのマヨネーズで和え、パンに湿り気があればあるほどベターなのだとか。そして、あの冷蔵棚から取り出してすぐ、パクつくのがベストだそうです。「ヘルシーじゃなくても毎日ってわけじゃないんだから、後ろめたく思わなくってもいいんじゃない?」と。ごもっとも!

以下は選抜で…

ノッティンガムにあるミシュラン★★料理店「SAT BAINS」のシェフ、サット・ベインズ氏の好物は、マクドナルドのフィレオフィッシュ。大学生になって、好きにはなれないマクドナルドでバイトをしていたベインズ氏でしたが、フィレオフィッシュを初めて口にしたときは、「目からウロコ」状態だったもようです。「蒸したパンの柔らかさとフライの衣のカリカリさのコントラストに、チーズの層が絶妙」――わかります、バーガーが食べられなかったころ、わたしもフィレオフィッシュが好物でしたから。クリスマスで店を閉めるときは、マクドナルドのソーセージマフィンで「お疲れさん会」をするそう。昨年は£550相当の白トリュフが残ったので、削ってマフィンにはさみ、スタッフもおお気に入りで平らげたそうです。「マックトラッフルシャッフル」と名づけられたまかない飯のソーセージマフィン、いったいどんな味がしたのでしょう?

カンブリアのホテル「THE BLACK BULL」内の、地元産食材にこだわったレストランのシェフ、ニーナ・マツナガ氏は、高速道路や空港にいて日常をふと忘れるときなど、ホイップクリームがトッピングされたような甘い飲み物についつい手が伸びてしまうのだそう。冬なら、カフェ・ネロの「恐ろしく甘い」ホワイトチョコレートモカ。余談ながら、マツナガ氏の経歴に少々触れますね。彼女はドイツ生まれの日本人で、18歳になると飲食店のマネージメントを学ぶためにロンドンにやってきて、その後ドイツに帰ったものの数年後には英国に舞い戻り、ストリートフードに魅せられたマンチェスターで夫となるラトクリフ氏と出会い、ケータリング業を開始。成功を収めたのち、ラトクリフ氏の故郷カンブリアに移住し、夫婦で開いたカフェが大評判に。それで、新しくできる地元のホテルがさっそく引き抜いたというわけです。体にはよくない高炭水化物フードに目がないというマツナガ氏ですが、そんな高カロリードリンクを飲み干すまでにはいつも、「わたしったら、どうしてこんなのを頼んだのかしら?」と思ってしまうそう。途中で現実に引き戻されるあたりが、いかにも女性的かも?

ガーディアンのレストラン評論家、ジェイ・レイナー氏が高く評価したロンドンの新しいイタリア料理店「NORMA」のシェフで、レシピ本『Moorish』も出しているベン・ティッシュ氏の空腹を衝動的に満たすのは、菜食主義メニューの展開や男女平等賃金など、社会意識度がなかなか高いチェーン店「LEON」です。ベイクした熱々のポテトを冷たいヴィーガンアイオリにディップして、一気に召しあがるのだそう。「美味しいし、どれくらいヘルシーかなんてわからなくてもいい、塩が利いてて、満たされるんだから」とコメント。強い塩味なら健康的ではないと知りつつも、です(笑)。

そのほか、ヨタム・オットレンギ氏は、カムデンタウンのスタンド「ROUND FALAFEL」で買うレバノン式ファラフェルのサラダかラップ、あるいはピッツァ・エクスプレスの脂ぎったスロッピージュゼッペが好物だそうです。「抜群のデカダンスが得られます」とのこと。記事に登場する18人のトップシェフたちでは、男性がほとんどを占めていたせいか、いわゆるチェーン店のバーガーが人気。あとは、英国のどの町にもかならず1軒ありそうなチェーンベーカリー、グレッグスの総菜ペイストリーも数人が挙げています。きっと、子どものころに喜びを発見した味って、一生忘れられないものなのでしょう。

さて、2019年は早くも年末となってしまいましたが、ブレグジットの行方がかかっている総選挙を控えた英国のみならず、あちこちで起こっている反政府抗議が大勢の犠牲者を出している世界的にいっても、ますます先行きが見えない年末です。また今年は「気候危機」が一段と現実味を帯び、こうしているいまも地球のある場所では洪水と干ばつに襲われているわけで、温暖化の速度を遅くする対策は、地球規模で取り組まなくてはならないのは明らかなのです。なのに、(マッドキングのいる)米国はパリ協定を離脱してしまうし、(「美しい言葉ではなく具体的な計画を」と国連事務総長から国連本部での演説を断られた)日本の総理大臣は石炭使用の火力発電所の建設を容認。英国では総選挙をまえに各党のリーダーが出演する、チャンネル4での環境問題についての討論会に、ジョンソン首相(&ブレグジット党ファラージ代表)が参加を拒否。その「空席」には皮肉として地球を彫った氷が置かれました。またまたガーディアンの記事になりますけど、今回の総選挙のマニフェスト中、気候危機について何度言及されているかの記事では、一目瞭然のグラフが予想どおりで面白いです。

けれど気候危機問題は、メディアで情報を得て深刻さがわかればわかるほど触れるのがつらくなってしまい、今回はホリデー気分が募る年末に乗じて、ちょっとおバカなトピックで逃避してしまいました。神さま、どうかお許しを…。

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About Author

京都東山の生まれ。19歳から雑誌の仕事(編集者/スタイリスト/コーディネーター/ライター)に携わる。英国では、憧れのフローリストの下での花修行や、尊敬するアーティストが学んだカレッジで現代アートを勉強し、通算11年間のロンドンライフをエンジョイした。オーサカン(大阪人)となった今も、“心”はロンドナー。変わらぬ日課として読むUK のオンライン新聞から、旬なニュースをあぶそる~とロンドンのためにピックアップ。帰国後は本の翻訳を手がけ、この5月に『ヴェネツィアのチャイナローズ』(原書房)、2014年7月に『使用人が見た英国の二〇世紀』(原書房)、ほかを上梓。ロンドンで目覚めた世界の家庭料理チャレンジ&花を愛でる趣味ブログserendipity blogは、開設して11年目に突入。

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