三月ウサギはどこへゆく?

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usagi


イギリスはウサギがとても多く住んでいます。ちょっと郊外に入ると、コンクリートで舗装してある道路を横切ろうとして車に轢かれてしまった無残な姿をいたるところで見かけます。

さてウサギと一言に申し上げましたが、イギリスにはRabbit(ウサギ)とHare(野ウサギ)がおりまして、『ピーターラビット』や『ウォーターシップダウンのうさぎ達』はRabbit 、『ウサギとカメ』は “The Hare and The Tortoise” なのでHareであります。ちなみにウサギとカメの寓話は世界各地に残されております。

Rabbitの画像
Hareの画像

写真を見るとどちらも確かにウサギなのですが、比べてみるとその容姿と生態は全く異なります。Hareは先っちょが黒く長い耳で、これまた長くパワフルな後ろ足を持ち、64km/hで駆け抜け3mの跳躍をいたします。赤ちゃんHareはどうしてもキツネや猛禽類の餌食になることが多いのですが、大人のHareは滅多なことでは捕まらないのだそうです。

Rabbitは穴を掘りやすい森のふちに住むことが多く、Hareは巣やねぐらを持たず広々とした農地の土の表面の地べたに横になって休みます。イギリスの野ウサギはBrown hare, Mountain hareとIrish hareの3種類、中でもBrown hareが最も多く、彼らは開けた土地に巣を持たずに毎日違うところを転々としているのでHareを数えるのはほとんど不可能なんだとか。数は数えられないけれどHareは確実に減少しているそうで、一番大きな原因は農業の変革なんだそうです。Hareは自分では穴を掘りませんが、野菜を掘り起こしたあとに横たわって休んだり、干草にするために草を長いまま残しておいた農地はうってつけの住処でした。しかし今は年に何度も作物を収穫し機械で草を刈るので、Hareの生息地が激減してしまったそうです。特に赤ちゃんたちは草刈りの機械に巻き込まれてしまうことが多いのだそうです。

驚いたことに赤ちゃんHareは生まれた時から毛が生え揃っていて、なんと目がすでに開いているのだそうです。子供を産むために母親は自分のお腹の毛を抜いてそこに横たわってお産をするのですが、Hareはもともと巣を持つ習慣がないので、赤ちゃんは産まれてすぐに移動ができるのであります。生まれたばかりの子鹿が一生懸命立ち上がろうとして、最後にはお母さん鹿と歩み去っていくという感動の絵をみなさんよくご存知だと思います。天敵に餌食にされる危険性に囲まれた草食動物の逞しさはすごいものであります。

私はたぶん本物のHareをまだ見たことがありません。でもイギリスでHareと言ってまず第一に思い浮かぶのが、不思議の国のアリスです。時計を持った白ウサギではありませんよ、帽子屋と眠りネズミと一緒にお茶会を開いていた三月ウサギです。’Mad as March Hare’というように、3月のHareは繁殖期で追いかけっこをしたりボクシングをしたり、気が狂ったように落ち着かない姿が見られると言われていましたが、実はHareの繁殖期は8ヶ月もあるのだそうで3月には限らないのだそうです。そしてもうひとつ思い浮かぶのがイースターエッグ。イースターエッグはイースターバニーが産んだもので(え?)、イースターバニーとはRabbitではなくHareであるという説が多いのです。

Rabbitはホワホワとしていて大層可愛らしいですが、私はちょっとカンガルーを思わせる風体のHareも大好きです。

hare

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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