芸術家が見た難民たち

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usagi


Ai WeyWey氏 (以後WeyWey氏と表記します)のドキュメンタリー映画、Human FlowをBarbicanで観てきました。
http://www.humanflow.com/
http://cinefil.tokyo/_ct/17111034

これは難民問題をテーマにシリア、パキスタン、アフリカ、メキシコなど22の国を撮影して作られた映画で、実際には45の国を訪れたそうです。映画の後にはChannel 4のニュースプレゼンターJohn Snow氏とWeyWey氏、そのほかのゲストとの対談の録画も上映されました。現在の難民の数は6500万人、およそ日本の人口の半数を占めます。今後難民の数は減少することがあるでしょうかとの問いに、2050年にはアフリカの人口は今の倍になると予想されるので、むしろ増えるのではないかという声がありました。

オレンジ色の救命具をつけた人々を乗せた満員のボートが地中海を渡っていきます。船が転覆して命を落とすことも少なくありません。身体の動く人々は、赤ん坊や子供を連れて国境に沿って川を渡りとてつもない距離を歩き続けます。民族紛争、経済困難、自然災害、飢餓などで、我が祖国に生活することができず、自分の国は出たけれども生活する場所がない人々。実際にヨーロッパの国に入れるのはわずかな人で、例え入国できたとしても就職ができなければ結局は自国に強制送還される恐怖。どこの国にも入国をできない多くの人々は劣悪な環境のもとで、まさに地獄のような毎日を送り続けています。子供のほとんどは学校にも行けず、2時間待ってももらえるのはわずかなスープ一杯で、きれいな水もなくシャワーにも入れず病気も蔓延して、医者に見てもらうことすらなかなかできません。それでもキャンプ地で決まった時間にお祈りを捧げる人々を見ながら、実は自分がどんなに恵まれた人生を送っているのかと我に返り、恥ずかしさで何度も俯いていました。と、悲惨な難民の姿を次から次へと映し出す一方で、映像はとても美しいのです。WeyWey氏が現代美術家と称される理由を目の当たりにした思いでした。

WeyWey氏については皆さんよくご存知のことと思いますが、2015年にRoyal AcademyでWeyWey氏のエキシビジョンが行われた際に、当初イギリス側が20日間のビザしか認めず、最終的にはWeyWey氏の申請した通りのビザが発給されましたが、もめた事件がございました。また、イギリスのBrexitは移民難民の受け入れを拒否できるようになるので、この映画のテーマからは真反対の方向にイギリスは歩みを進めています。そんなイギリスで、敢えて映画の後に対談を企画し、一方対談では穏やかにまた言葉少なに発言をするWeyWey氏の強さとしたたかさに私は敬服の念を持たずにいられませんでした。

ご覧になる方々によってご意見はさまざまだと思います。とにかく一度はご覧いただきたい映画です。

walking refugees

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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