サステイナブルな庭造り:生物多様性と害虫の話

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Uk☆エコ・ガーデニング格闘記


春になると見かけるミツバチの大群(分蜂)が街中に現れた!というニュース。ミツバチは危険を感じない限り刺さないということを多くの方は知っていますが、自然に触れる機会が少ない方には意外と知られていないようです。益虫と言えど刺されれば痛いし適切な場所にいなければ危険な害虫と見なされ駆除の対象になることもあるんですね。ミツバチが人間に与える恩恵は美味しい蜂蜜もさることながら、植物の受粉を助けるという花粉媒介の大切な役目を果たしてくれます。地球上の農作物の5割から6割はミツバチの受粉のおかげというデータもあるそうです。この大切なミツバチが激減しているという話をよく聞きますが、その原因の一つとして挙げられているのが殺虫剤に含まれる成分です。害虫駆除に使われる製品(ネオニコチノイド系)の成分が、ミツバチの大量死を引き起こしたと科学的に証明され、EU内では既に使用規制がされています。イギリス内でもだいぶ前から一般消費者のネオニコチノイド系製品に対する関心が高く、それに呼応する形で、政府の規制が始まる前から独自のポリシーで販売を取りやめたガーデンセンターや商店も多くありました。

個人宅で庭づくりのお手伝いなどをしていると、「子供がいるのでハチがこない庭にしたい」、「虫が苦手なので虫がつかない植物を植えたい」といったリクエストを受けることがあります。私も昔はハチが来ると走って逃げてたし虫も大嫌いだったのでそういったお気持ちは十分に理解できるのですが、植物が庭にある限り何らかの虫がやってくることを完全に防ぐことはできません。苦手な虫の付きやすい植物を避ければある程度ご希望に添えることができますが、できるだけ希望に沿いつつも、まずは昆虫などの生物が庭で果たす大切な役割を理解してもらえるようお話をして、納得して頂いた上で庭づくりを進めていくことが大切なのかなと感じています。害虫・益虫、雑草・観葉植物の概念は相対的なもので、何をもって害とみなすのかというのは個人差があると思いますが、個人的には植物の生育を著しく妨げたり観葉の目的を果たせないほどひどい害が出る場合を除いて、ある程度の雑草や害虫・害獣の被害は仕方がないかなと受け入れています。

sustainable2019_Apr_4右上はリスに荒らされた跡、右中は狐に枝を折られ変な樹形になったツツジ、右下はカメムシ(害虫を食べる益虫タイプと農作物に被害を与える害虫タイプがいます)

イギリスでまず最初にあげられる害虫はナメクジやカタツムリだと思います。夏場は涼しく、冬の寒さも穏やか、年間を通じてある程度の降水量のあるイギリスは大量発生しやすい環境だと言えます。昼間は植木鉢や石の裏などでのんびりしてますが、夜になると活動を開始し葉や花を食害します。食欲旺盛で活動期には自分の体重の2倍の量を毎日食べるそうです。好物の植物は根だけ残して全部食べられてしまうこともあるので、春先の新芽や若い株をナメクジやカタツムリから守ることも大切。枯れたり腐った植物を食べて庭の掃除もしてくれる良い面もありますが、被害の方が大きいことが一般的。
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ナメクジやカタツムリの駆除方法としてはペレット状の殺虫剤がありますが他の昆虫や鳥などの小動物への影響を気にする方が多く、最近ではナメクジやカタツムリに寄生して死に追いやるNematodes(線形動物あるいは線虫)が人気です。6週間ごとに線虫を水に混ぜて庭にジョウロなどを使って散布するだけ。線虫は増え続けますが寄生できるナメクジやカタツムリがいなくなると自らも死んで自然な数にまで落ち着くそうです。元々自然界に存在しどこの庭にもいるものですし(小さくて見えないですけど)、他の動植物には影響を与えないため(淡水カタツムリに影響する可能性があるので池の近くには散布しないよう注意書きあり)、他生物への悪影響や長期的な汚染・蓄積が懸念される殺虫剤に比べ安全とみなされて各種機関や団体から推奨されています。

人によっては残酷!と非難されるかもしれませんが、踏んづけて駆除(通称フミツブース)する人も多い模様。まれにカタツムリは可哀相だから殺せないけど庭に害が出るのも困るのでお隣に放り投げると言う人がいますが(イギリスの鉄板ガーデニングギャグの一つでもありますが)、彼らは速度は遅いものの意外に長距離移動ができますし、年中産卵しますのでやがてまた自分の庭に戻ってくると思ったほうが良いです。良い隣人関係を保つためにもカタツムリを庭の外に投げるのはやめましょう^^;

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庭の植物を食べる害虫は数えきれないほどいますが、先ほど自分の庭をちらっと見た所、ユリ科の植物の花や葉を食い荒らすリリービートルの食害にあったフリチラリア(上記写真左上)を発見。鮮やかなオレンジ色のきれいな小さい虫ですが、葉も花もがっつり食べられてボロボロになりますし、黒い排泄物につつまれた幼虫が葉の裏についていたり、成虫が黒い糞を残すので被害は甚大です。RHS(王立園芸協会)や専門ナーサリーに何度か環境に影響を与えない殺虫剤がないか聞いてみたのですが、指でひねりつぶせばいいのよ(通称ヒネリツブース)!と言われるのみでした。殺虫剤は一応あるものの固い羽根に覆われた成虫には効きにくい事や環境への配慮のためすすめないとのことです。リリービートルは人の気配を察すると地面に落ちて黒いお腹を上にして隠れるので見つけ辛いです。そっと寄って葉の下に片手を添えて葉から落ちても受けとめるようにするか、白い紙などを葉の下にかまえて植物から振り落として取ると楽です(通称テデトール)。

上記写真右上はキンケクチブトゾウムシの食害にあったと思われるヘレボラス。この手のゾウムシは成虫は花や葉の食害をし、その幼虫は土の中でシクラメンの球根やヒューケラの根っこを食べたりするかなりの厄介者。特に鉢植えや柔らかい土で活動するので、観葉植物のコンテナ栽培などは要注意です。害が出た土には幼虫や卵が残っている場合があるので、同じ土をそのまま使ったり庭に戻してはいけません。私は土の中を良く調べて幼虫を退治してから、鉢ごと水の入ったバケツに数日つけて卵が死んだかなーくらいでとりあげて(通称ミズニツケール)庭のコンポストに混ぜてます。水責めで生き延びても剪定ゴミが堆肥化される際の熱で死んでくれてたらいいなぁと祈りつつ・・・。どれだけ効果があるか不明ですが。キンケクチブトゾウムシに効く線虫も売られているので、今後使うかどうか検討中です。ナメクジ用の線虫は数年使っていて減っている気がしますが、去年は夏の異常乾燥もあったので線虫のおかげだけかどうかは不明です。線虫に寄生されたナメクジは土の中や石の下などで死ぬため死骸を見ることはまれです。たまに死んでるナメクジを見て効いてるのかな?と思いますが。まぁ、ナメクジの死骸を見なくて済むのは嬉しい!知らない間に土に戻っているんでしょうね。

sustainable2019_Apr_3すべての動植物は連鎖の関係にあり、一部だけが急激に増減すれば他の生物にも影響が出ます。例えば害虫のアブラムシ(上記写真左上)がいなくなれば、益虫とされるテントウムシは餌を失い、テントウムシを捕食する鳥などの小動物に影響が出ます。小鳥が庭にこなくなれば小鳥が食べていた他の害虫が天敵がいなくなったことで爆発的に増えるかもしれません。

また何の役にも立たないと思われているような雑草もそれぞれ特定の昆虫の餌や宿主になっている事が往々にしてあります。害虫や雑草とされる生物にも人が見過ごしがちな役割があることが多く、安易に根こそぎ駆除していいかは疑問です。要はバランスが大事なのだと思います。一度バランスを崩してしまった庭は自然の力だけでは持続不可能になる危険性があります。

害虫や雑草も見苦しくない程度に受け入れ、被害が大きくならない程度に農薬に頼らずアナログな駆除方法(テデトール、ハシデトール、ヒネリツブース、フミツブース、ハサミデキール、ミズニツケール等。お笑い芸人バカリズムさんのトツギーノあるいはネーミングのうまさで有名な某製薬会社のリズムでどうぞ)で過ごすことも、個人のお庭では可能ではないかと思います。

害虫の天敵をうまく自分の庭に呼び込むことも有効です。例えばナメクジを食べてくれる蛙が庭に住むように池を作るなど。うちも小さい水場を作ったら蛙が住み着くようになりました。水場があれば蚊のボウフラがわくこともありますが、そうするといつの間にかトンボがやってきて卵を産み孵化したヤゴがボウフラを食べてくれたりします。新たに植えた植物や庭に呼び込んだ生物がまた別の生物を呼び込む、自然って繋がってるんだなーとつくづく実感します。もちろんいらないものもやってきますが・・・。害虫、益虫、雑草、観葉植物、小動物、人間、ぜーんぶひっくるめて存在できる寛容さのある庭が生物多様性に配慮した庭だと思います。

特定の害虫や雑草を駆除する目的でも結果的には別の多くの生物に害を及ぼす可能性の高い殺虫剤や除草剤は人間への害も懸念されます。あまり難しい話には固執せず(というか私は覚えられません^^;)、なんとなく自然から学び自然の力を借り、経済的&労力的に無理せずとも環境に負荷の少ない持続可能な庭づくりができれば良いな~と考えています。今年はブログで素敵なお庭を紹介しつつ、そういったお話もできたらいいかなと思ってます。

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About Author

在英20年、ロンドン郊外の自宅の庭で節約とリサイクル・無農薬をテーマに土いじりに奮闘、花や木、ハーブ、野菜や果樹などいろいろ挑戦中。3年間のカレッジ生活を経て園芸とガーデンデザインの資格を取得。フラワーショーや造園現場の通訳・コーディネイト、デザインや園芸相談、メンテナンスサービス、ガーデンガイド等10年ほどやってます。庭と旅とお笑いをこよなく愛する植物オタク。ここ数年家族の闘病等でガーデニングもブログもサボってました(;^ω^)ぼちぼち復活できるかな?ブログ「イギリスの片隅で庭仕事」http://gardenuk.blog.fc2.com/もそのうち復活する予定。

1件のコメント

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    待ってました!! 素晴らしい記事。ありがとうございます! しかしヒネリツブース、テデトールには笑ったw いろんな駆除方法があるのね〜♡ 「なんとなく自然から学び自然の力を借り、経済的&労力的に無理せずとも環境に負荷の少ない持続可能な庭づくりができれば良いな~」って、素敵です。別のお庭のご紹介も楽しみにしてます♡

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