第32話 モノから体験へ

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minimalist


Chapter 5.1

モノから体験へ

これまで何度か登場したミニマリズムの基本になる考え方「大切なものを見極め、それ以外を取り除く」を実際に生活に落とし込むためには、不要・重荷に感じる要素を思い切ってとり除く作業が必要になります。

そしてこの「要素」とはモノに限ったことではない、というのはこれまでコラムで触れてきた通り。

やるべきことや心配事、「困ったあの人」にばかりフォーカスするのではなく、本当は何をしたいのか、どういう自分でいたいのかに目を向けるということでもありますね。

さて、こういった見極めと取捨選択を続けるうちに、今の自分を応援してくれる精鋭たちがそろった、居心地のいい環境が整いはじめます。

すると気力や体力・アイデアがどこからともなく湧いてきたり、自分の好きなことや、やりたいことが見えてくる。好きな人たちとの楽しい時間が増える。「いつか…」が「今日からやろう」に変わってくる。(この部分は過去のコラムで色々触れているので興味がある方は読んでみてくださいね。)

そして、ワクワクするような出来事や予想もしなかった流れがやってくる…というのがミニマリズム・ウォッチャーとしての持論。

環境の力って偉大です。

これまでストレスや不安から自分を守るために使っていたエネルギーとは、言い換えれば自分を抑え込むために使っていたエネルギー。
(例:ごほうびショッピング、暇つぶし的な娯楽、不毛なままキープしている人間関係、モノや人への過剰な執着、ハードすぎるスケジュール、不健全な食生活など)

そのパワーがあまりに強すぎる場合は、抑え込むどころか知らない間に本人をずたずたに傷つけていることもあります。

この強力なパワーを『何かをいさぎよく手放す』という形で動かし「本来の自分を生かす」方向に向けてあげるだけで、その後の生活がガラリと変わってくるのは想像がつきますね。

これは、これまで必死に頑張ってきた自分を真の意味でいたわったり、大切にするということにもつながります。

流行に乗ったり安易なご利益を期待して「ミニマリスト」という人種を目指すのではなく、ミニマリズムを取り入れて今日から思いっきり、自分らしく生きていく。

最初は足元がぐらついてこわいけど、しばらく経てばスイスイと前に進めるようになってくる。これまで気がつかなかった、自分の素晴らしさにもどんどん気付いていく。その結果としてその人にふさわしいホンモノのご利益がついてくるという訳です。 


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もうお分かりかもしれませんが、これまで無意識に不安や自信のなさの穴埋め、ストレスの代償でやっていた行為が、基盤の上のオセロがパタパタと裏返るように、好きなことや大切な人といった、その人の真の優先順位と入れ替わっていくのです。

ここまで来た人ははっきりと量より質、モノよりも体験に価値を見いだすようになっていきます。

モノを持つことより、体験の方が大事。
こういった動きはミニマリズムとは関係がなくても、すでに社会現象として見られるようになってきていますね。

たとえば、SNSでより好感度が高いのは「素敵なバッグを買った」よりも「○○に行って△△をした。」という投稿の方。
ファッションや車など販促目的のイベントでも、ゲストに限定ノベルティ・グッズをプレゼントするより、そこでしか味わえない貴重な体験を提供するイベントの方がステイタスが高い。

どちらもモノが体験にすり変わっただけで「私の方がいい、こっちの方が上」というピラミッド構造はまだ同じですが、その内容が変わりつつあることに気付いている方も多いのではないでしょうか。

ミニマリズムはこのピラミッドからさらに外に飛び出した、より自由で素晴らしい世界が見えてくるという点でも注目に値します。

「世の中はこれこれである、○○なんて通用しない。こうあるべきだ。」…そんな考えだって、実はその人の属している社会や世界の共通見解でも何でなくて、各人が作った枠の中でそう思っているだけ、そう錯覚しているだけのことなのです。

もし、それすらもミニマイズしてしまったら何が見えてくるのか…気になりますね!

次回からはモノを卒業したあとのミニマリズムについて触れていきたいと思います。

(実はここから先が書きたくって、コラムを始めたのです。)

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About Author

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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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