第37話 余白の大切さ

0

minimalist


Chapter 5.6

余白の大切さ

第16話 「ミニマリズム界のキーパーソンたち・1』で登場した、ミニマリスト界のキーパーソンの1人コリン・ライトという人がいます。彼は10代からグラフィックデザイナーとして活動し、現在ではブランディング会社や出版社を運営しつつ、彼のブログの読者の投票によって4ヶ月ごとに住む場所を変えるというユニークなデジタル・ノマド。

先日、彼の講演映像を観ていたところ、ある一節にとても心引かれました。

「私のデザイン・ワークショップを受けた人たちに、これだけは覚えて帰って欲しいといつも伝えていることがあります。それは余白の大切さです。空白とは何もない無駄なスペースではなく、デザインに欠かせない要素なのです。余白があることで、何を伝えたいかが際立つのです。」

この話の中で、例として彼が挙げていたのがアップル社の広告でした。

実際にイメージ検索してみると、確かにアップル社の広告は空白スペース、しかも白い部分がかなり多く、商品以外の要素がとても少ない印象です。コピーも色使いも考え抜かれている上かなりシンプル、その分製品がバーンと引き立っています。

「この場でいろいろ説明・アピールしなくてもこのすごさは伝わるよね」という製品への自信の表れが見えるよう。価格やスペックなどこまごまとした情報ではなく、商品とブランドイメージで勝負。

車の広告も高級車になればなるほど、広告に登場する要素(人間、小道具、色数など)が少なくなる傾向があります。「レス・イズ・モア」とはこういうこと。

この反対にあたるのが折り込みチラシ。説明も選択肢も価格情報もかなり充実しています。「いろいろありますよ、お得ですよ、この中からどれか買ってね!!」というアピールの方法、つまり「モア・イズ・ベター」。

ぎっしり詰め込まれた情報を吟味しながら読むのは楽しいけど、隅から隅まできっちり読むのは一仕事。

媒体も購買ターゲットもまったく違うので、どちらが良いという話ではないけれど、同じ広告でもずいぶん違うものですね。

さて、この2つのデザイン哲学を自分たちに当てはめてみましょう。

1)私はコレで勝負。

2)私は色々できる。

一つの事に秀でている人。マルチな人。その中間ぐらいの人。何ができるのか分からない人。人によって様々です。

今回はミニマリズムという観点から、このアップル・タイプについて少し考えてみたいと思います。

すでに自分の強みが分かっている人はそのまま精進していけばいい。

でも、私はコレで勝負したい、だけど色々器用にこなせる事を期待されているから…と反対方向に向かって無理して頑張っている人もいるかもしれません。

「色々できたほうがいいのでは。バラエティが少ないのでは。これでは足りないのでは。」スキル、服、持ち物、体験…といった面でこんな気持ちを体験した人も多いと思います。

私は写真家でもありますが、以前仕事のために様々なジャンルの写真が撮れるようになろうと焦っていた時に、ある人にこんな風に言われた事があります。

いろいろ試すのはもちろんいいと思うけど、何でも屋を目指さなくってもいいんだよ。苦手分野があるから劣ってるなんて思わなくていい。
自分の子どもの写真を誰かに撮ってもらうなら、何でもソツなく撮れる人より子ども写真が上手な人に頼むでしょ。イタリアン食べるなら専門の人が作っている方が美味しそうでしょ。自分の好きだと思う被写体だけガンガン撮ればいい。

…そうなれたら素敵だけど、周りはそれじゃ許してくれないのでは?

とおそるおそる反論したら「周りが許してくれないと信じているなら、その人たちに仕えるだけの人生になってしまうよ。あなたは何をしたいの?」と返されて、お恥ずかしいことにぐうの音も出ませんでした。

少し脱線してしまいましたが、ミニマリズム思考ってこうことなんだよなあ〜と今でも感心します。

周りに合わせて「コレじゃ足りないかも」「もっと自分の価値を上げたなくちゃ」と色々詰め込んでいるうちに自分にとって大切な要素が入る空間がなくなったり分からなくなってしまう。

DSC_4443-Edit-2

今日は家族メンバーの1人に登場してもらいました。余白と主役だけ。あえて極限までシンプルに。 さて、存在だけで勝負している彼女から一言。「私は家中の本をかじるのが好き。狩りはできないし、やる気もないです。いるだけで愛されてま〜す。」

スケジュールもクローゼットも頭の中も隅々までぎちぎち。ただ忙しいだけ、たくさんあるだけで実際には肝心のものを無視し続けている状態。大切な事をやっていないからどこかで焦りや不安感があって、いっそういろいろ詰め込みたくなる。お酒やギャンブル、ショッピング、過食などでこの穴埋めをする人もいます。

ここから自由になるには、いらない要素を捨ててそこに大切な要素をポンと入れる。それだけ。

言葉にすると単純ですが、そのためには何を捨てるかではなく、自分にとって大切な物は何かを先に知らなくてはいけない。

そうしないと、何かを手放すのがよけい不安でたまらなくなるのですよね。

マルチにできてもいいし、できなくても大丈夫。

もしすでに何か大切な物がわかっているのなら、迷わずそこに集中した方がいい。

(補足ですが、この「大切な事」って、単に才能や特技、お金に結びつきそうなものという意味ではく、真に好き・自分に必要な要素ということです)

もし、わからなかったら?

思い切って先に余白を作ってみて。

「あ、これだったのね!」とすでに持っていたものに気がついたり、周りに指摘されたり、思わぬ出会いが起こって、かならずクリアになってくるはずです。

Share.

About Author

アバター画像

写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

ウェブサイト

Leave A Reply

CAPTCHA