モダン・ユートピアの先にある生活

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数ヶ月ぶりにコペンハーゲンに戻ってきました。
今回の旅は、東京ーコペンハーゲンのダイレクトフライトがまだなかったので、ドイツ経由です。

早朝ドイツのエアーポートに疲れてたどり着き、乗り換えのために入国審査、荷物検査をしている時のことです。

普通、日本では誰もが付けているような手作りファッションマスクをしている私に向かって、
ちょっと怖そうな女性のオフィサーが、近寄ってきて言いました。

「メディカルマスクを着けなさい、着けなければ、飛行機に乗ることができません」と叱る勢いで注意をされました。
「メディカルマスクは、持っていません。持っているのはこれだけです」と、言うと
「それじゃあ、ダメ」
「どうしましょう?」
「外に出て買ってくるしかないわね」
「でも、外には出られないし、どうしましょう?」
「そんなこと言っても知りません」
「でも、メディカルマスクが必要だなんて、知らなかった」
「ドイツに入る前に、ちゃんとチェックしなかったのがいけないのです」
「でもドイツには入らないし、乗り換えだけだし」
「しかし、ドイツ空港内では、メディカルマスク着用がルールです。」
「日本を出国するときに、こちらで必要だという書類はちゃんと用意しました。
その際誰にも、メディカルマスクが必要だなんて、そんなこと言われませんでした。」

等々、押し問答が続きました、そこにどこからか、ふわ~と、
現れたのがちょっと優しい顔をしたヒゲのお兄さんオフィサーでした。
手にメディカルマスクを持って、私に差し出してくれました。

「ありがとう!」

なんだ、あるんじゃないの、
おばさん、意地悪!と、思ったのですが…

「そうね、早朝だしね、こう言う私みたいなのがきっと何人も来るのでしょうから、
何度も何度も毎日こう言う規則を守らない人を見ると、言いたくなっちゃうのでしょうね。」

と、ちょっとした意地悪をされた時には、こんな風にのりきります。

少々ドキドキさせられましたけれど、無事に飛行機に乗ることも出来て、約1時間半のフライト後デンマークにやっと到着しました。
デンマークのエアポートに入ると、マスク着用の義務づけも無いようで、している人もいるし、していない人もいました。

数ヶ月ぶりのコペンハーゲン空港は、増築、改築していたところが完成していて、新しくとても綺麗になっていました。
デンマークは家具などのデザインが素晴らしいことでも有名な国ですが、
私が約2年前に初めてコペンハーゲンのエアーポートに降り立った時の空港に対しての印象は、
驚きにも似た、期待はずれでした。
というのも、たったの2年前まで、デザイン王国のようなデンマークの入り口である空港が、
1970年代の雰囲気が残る、アップデートがなされていない、今時珍しいエアーポートだったからです。
フランクフルト、ヒースロー、オスロ、バルセロナ、イスタンブール、ヘルシンキなど、
私が近年訪れたこれらのエアーポートはガラスを多用していて、明るくて天井も非常に高く、気持ちの良い空間ばかりでした。
その中、コペンハーゲンの飛行場はびっくり仰天の1970年の面影…

うわっ!古~い

…しかし、なんだかやけに懐かしい感じでございました。

さて、コペンハーゲンは、私の生活習慣をいくつか変えました。
その一つが毎朝の2時間ぐらいの長い散歩です。

散歩コースはいくつかありますが、一番氣に入っているコースをご紹介します。

家を出てから湾岸に沿って歩き、途中トラックが走る開発地区の
埃っぽい道路を少しだけ我慢して通り越します。
するとそこは私の好きな運河に囲まれている、通称リトルベニスの地区です。
穴を掘って、そこに海から水を入れて、新たに造った運河に囲まれた、
大人気のおしゃれでモダンな住宅地のリトルベニスでは、
一階に暮らしている人々は、バルコニーから直接運河に降りることが出来る【梯子】がついているので、
殆どの人がバルコニーの下にボートを停めています。


また多くの人は筏を浮かべて、第2の水上バルコニーを楽しんでいます。
そして、筏自体にエンジンをつけて、ボートの代わりにしている人たちもよく見ます。
上を見上げると、あちこちのバルコニーに、サップボードやカヤックなど置いてあります。
それらは、私の思い描いていた北欧の住宅とは全く違っていました。

リトルベニスの朝の風景を見ながらゆっくりとそこを通過し、
釣り人がのんびりと糸を垂れている橋を渡って対岸は小山のある緑の地区です。
ちょっとした丘があるのですが、そこを登るとコペンハーゲンの街が見渡せます。
オールドタウンの大聖堂の塔の部分が遠くに見えます。
小山からは鬱蒼とした林の中を下るコースと、小山を降りて湾岸に沿って歩くコースがあり、
私はその日の氣分でどちらかを選びます。

反対側に見える、今歩いて来た新しい開発地区のマンションが立ち並ぶリトルベニスとはうって変わって、
こちら側の緑の林の中には、木造平屋の可愛らしい、大きくない家が、
点在というよりもそれ以上、でも密集とは言えない程の数で林の中に建っています。

反対側のモダンなエリアからこちら側を歩くたびに、私はタイムトリップしたように感じます。
これこそは、私が思い描いていた北欧の森の中の小さな家、のイメージでした。

舗装されていない道を歩き、空き地の咲き乱れている草花や、
りんごの木、ベリーの木を見ながら歩きます。
春にさくらんぼのなっている木を見つけた時には、
思わず採って食べてしまいました!あの日本のさくらんぼでした。
美しい小鳥のさえずりを聴きながら、木造の一軒家の前を通ると軒下でおばあちゃんが、
孫に絵本を読み聞かせていました。
庭に出してあるテーブルを囲んで、ワイワイガヤガヤとみんなで朝食をとっていたり、
大きな犬が私に向かって吠えてきたり、
空高くからは、ブーンと眠たくなるグライダーの飛ぶ音が聞こえて来ます。

コペンハーゲンエアポートの古いけれど、懐かしいといったあの雰囲気が、
おとぎ話に出てきそうな、この林の中の住宅地にそのまま残っているのです。

なんでしょう、コペンハーゲンには、昔から変わらないような地区があっちこっちに存在しています。
もちろん、ロンドンやエジンバラと同じように、
その昔200年も300年も前から存在している中世の建物が残っている、
オールドタウンもありますが、そうではなくて、
もっと近年の私の子供時代を思い出すような、忘れていた思い出が残るような場所があるのです。

コペンハーゲンの街を歩いていると、変な表現だけど、昭和の雰囲気というのでしょうか、
そんな懐かしさを時々感じることがあります。

築200年、300年の歴史的な建物になると、建て替えプロジェクトは無いと思いますが、
数十年前に造られた、古くなってしまった建築物やエリアは、
「さて、建て替の時期でしょう」となり、新しく開発の手が入るのが東京です。
住民が反対しても、どんどん壊されて開発が進み、
昔の面影が全く残っていない整備されていて新しくて綺麗で、
土の香りのしない、ちょっと退屈な街が出来上がります。

そんなんで、子供の頃の記憶に残る東京の姿は、今殆ど見ることが出来ません。
それが、思いもよらず、コペンハーゲンに来て、私はそれを感じたのです。

この懐かしい感じが、どうしてこの街に残っているのか、どうやって出来たのか、
氣になった私はコペンハーゲンの街の歴史を調べてみました。
大昔の歴史のことではなく、1950、60年代から現在までの歴史です。
そして面白い記事と出会いました。

1960年代から70年代、ヨーロッパの街は未来の都市を夢見て、
60年代のアメリカ的モダンユートピアを見習い、
車中心の街づくりを考えました。
何レーンもある高速道路を街の外側にしっかり造って、車と人々を分ける計画です。
そして交通量の増加に耐えうる設計です。

そこには、今となっては恐ろしいとしか言えない計画がありました。
それは1958年に提案されたもので、12車線の道を含む、都市のいくつかの変革的な道路計画です。
その12車線の道路はといえば、今ではなくてはならない市内の中心的存在であり、
市民の憩いの場所の一つである、大事な湖を埋めて造る計画だったようです。

結果的に、コペンハーゲンは第2次大戦後、資金不足のため計画は実行されませんでした。
そして1973年のオイルショックもきっかけになり、
車離れが始まり、自転車文化がより開花し、歩行者運動にもさらに力が入ることになりました。
そして市民の目覚めとともに、都市計画は、
自転車と歩行者に合わせた、都市生活の質を向上させる方向に変更されました。

こうして60年代の車中心の夢のモダンユートビア計画に挫折したことで、
【市民中心の住みやすい街づくり】を開発プロジェクトの哲学に置き、この街は守られました。
現在も新しい技術を取り入れながら、その哲学に基づいて、コペンハーゲンの独特な都市開発は続いています。

さて、話をまた私の朝の散歩コースに戻します。

懐かしい感じのする木造住宅の建っている緑地区を出たところは、再び新しく開発されているエリアです。
大きな窓ガラスと大きなバルコニーのモダンなカッコいいマンションも建っていまますが、
3階建ての素敵なテラスハウスが小径を挟んで向かい合って並ぶ地区もあります。

こちらはリトルベニスにあるタウンハウス。

新ピカなテラスハウスなんだけれど、そこには昔懐かしい下町のような空気が漂っています。
家の前の車の入らない小径には、自由に遊んでいる小さな子供達がいます。
そういえば、遊んだ後、片付けをせずにそのまま道に置いてある三輪車や
おもちゃをあっちこっちで目にします。
そのような風景を、コペンハーゲンの住宅地の路上で良く見かけます。
近所の人たちが、子供たちを一緒に育てているような、そんな雰囲気が漂っています。
私は道に置きっ放しのおもちゃを目にすると、なんだかとても微笑ましく感じてしまいます。

この住宅地には、小さな人工ビーチもあります。
池の様な水辺の片側に白い砂浜があり、池を挟んで反対側にはテラスハウスが建っています。
一階のデッキテラスにはもちろん梯子がついているので、テラスから直接水に飛び込めます。
テラスにはテーブルやガーデンファニチャーとカヌーやサップボードが置いてあり、
彼らの楽しそうな日常生活が伺えます。
この池、まだ直接海とは繋がっていませんが、現在工事続行中なので、もうすぐ完成するのだと思いますが、
そうなれば、直接ボートに乗って、湾に出ることができるようになります、羨ましい環境です。

私は散歩の途中、この砂浜で裸足になって砂の上を歩き回ります。
そして、足首まで砂をかぶせアーシングをすることにしています。
そうすると歩き疲れた足の疲れと電磁波などの体の中に溜まっている毒素が、
足の裏から流れ出ていく様で、とても
氣持ちよく、長いことこの砂場でのんびりしてしまいます。

人工砂場ビーチ。赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまでくつろいでいます。私はここで裸足で歩いてデトックスしています。

砂浜の端に、カフェバーが一軒あり、いつもご近所さん達で、賑わっています。
私も、時々、ここでコーヒーを一杯飲んで帰ります。

今回のイラストのボートカフェがある場所。ボートはもう少しだけ左側にある。

そういえば、長距離を歩く時には、以前怪我をしてしまった内側のくるぶしを保護するためにも、
しっかりとトレーニングシューズを履いていたのですが、
今回コペンハーゲンに来てから、夏だということもあり
私は絶対に必要だと思っていたトレーニングシューズを思い切って脱いでみました。
そして、その代わりにビーチサンダルで歩き回っています。
そうすると、地面をじかに歩いてるように感じることも出来るし、
くるぶしを痛めることもなく、足が軽くなったせいか、
疲労感が少なくなったように感じます。それに何より、
ビーチサンダルで歩き回るのは、海辺で暮らしたい、と思っていた
私の憧れのライフスタイルでもありましたから。

本当はね、ハワイでこういう生活をしたいと、思っていたのですが、
なぜか、北の国でこんな生活をすることになってしまいました。
これも何かの縁でしょう。

コペンハーゲンに来てから、私の暮らし方はもっと自由に、
もっと自然に、もっとオープンマインドになりました。
それは、水辺に暮らしている、というのも大きな理由のように感じていたのですが、
今回色々な記事を読んでみて、それがコペンハーゲンの都市計画にも関係していたことを知って、
とても驚き、興味深いことだと思いました。
デンマーク人が世界一幸せな国の人々、だと言われているのも、そんなことが要素の一つなのでしょう。

今回は、しばらくこちらに滞在しようと思っています。
今は毎日夕食前の時間に自宅の前にある海に飛び込んで、水にプカプカ浮かんで、空を眺めています。
地球とつながっているんだな~と思いっきり感じながらひと泳ぎして、戻ってシャワーを浴びて夕食です。

以前のように、達成感を追い求めて、朝から晩まで引きこもってアレヤコレヤと
ハムスターのようにコソコソとやっていた島田カオルは、今はもっと外に出て、呑気にやっています。

最近、カフェビジットの回数もかなり減っていますが、一つちょっと言い訳があります。
実は、【ダイルクロコダイル氏、思春期編】を書いていてそちらに時間を取られてしまっていました。
その方、文章はほぼ完成しているのですが、これから絵に取り掛かるので、
もうしばらく時間がかかりそうです。
それが終わったらコペンハーゲンからカフェビジットを、
もう少し頻度を上げてお届けしたいと思っています。

でも、もし、それでもやらなかったとしたら、
それはコペンハーゲンの都市計画のせいかもしれません…?

とにかく、皆様、楽しい夏をお過ごし下さい!
次回までどうぞお元氣で!

【きょうのカフェ】
Kahyt & Kaffe
Skibbroen 2, 2450 København  SV
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About Author

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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